【イザワの法則】Vol.40 プロ生命を左右するのは飛距離よりも“アイアンの精度”
昨年、イ・ボミ選手が日本ツアー引退を発表したが、プロゴルファーは自分の選手寿命、引退の時期などをどのように考えているのだろうか。また、引退の要因として、何が一番大きいのだろうか?
TEXT/Daisei Sugawara ILLUST/Kenji Kitamura PHOTO/Takanori Miki THANKS/福岡レイクサイドCC(PGM)
加齢より怖いのは
技術力が低下すること
女子プロの中には、宮里藍選手や、アニカ・ソレンスタム選手、ロレーナ・オチョア選手など、現役途中で自ら正式に「引退」を発表する人が割と多くいます。昨年は、イ・ボミ選手が日本ツアー引退という決断をしましたね。
プロツアーはシード権がなければ出場できませんから、男女を問わず、ツアープロなら誰でも「いつかは試合に出られなくなる」という不安を抱えています。これまでも数え切れないほどのプロが、試合に出られなくなることで「事実上の引退」に追い込まれてきたわけですが、想像するに、実際にシード落ちする数年前から、「もうダメかもしれない」という思考は頭によぎったはずで、それでも何とかしようといろいろ試して、努力して、散々やり尽くして引退した人がほとんどだったんじゃないかと思います。非情ですが、それがプロの世界ということですね。
そうは言っても、ゴルフはほかのスポーツより競技人生がはるかに長い。その分、加齢による体力や気力の衰えには必ず向き合わなくてはいけません。たとえば、相撲の力士が引退する際には、「体力の限界」というのが定番の理由ですが、ゴルフの場合は、体力の衰えそのものが引退の引き金になることは少ないんじゃないかと思っています。最近はトレーニングのやり方も科学的になってきていますから、昔に比べて体力を維持しやすいということもあり、プロであれば70~80歳になっても「体力が落ちてラウンドできない」ということはまずありません。では、いったい何が引退の引き金になっているかというと、私が思うに、それは、「技術の衰え」ではないかと思っているんです。
スコアを左右するのは
ドライバーの飛距離よりアイアンの精度
過去20年くらいのツアーの成績を見てみると、各トーナメントの優勝スコアは、実はあまり変わっていません。ただし、予選のカットラインは、年々上がっています。これは、「飛ぶ若手」の台頭が大きく影響していますが、優勝スコアがそれほど伸びていないということは結局、優勝するには2打目以降でどう攻めるかということが大事だということがわかります。
プロの場合、元々のスウィング効率がいいですから、あるとき突然、飛距離が20~30ヤードも落ちたりすることはありません。となると、もしスコアが出なくなるとすれば、2打目以降、とくにアイアンの精度が落ちたことが原因と考えられます。
仮にパーオン率が60%(18ホール中、約11ホールでパーオン)から、30%(18ホール中、約5ホールでパーオン)に落ちたとすると、全体の3分の2以上のホールで寄せワンを取らないとアンダーパーで回るのが難しくなります。いくらプロの技術でも、これはちょっと難しい。そうなってくると、スコアが出ない→成績上位に入れない→シード権を維持できないというサイクルにはまり、確実に選手寿命を縮めることになります。つまり、体力が衰えただけでは、成績が下がるかどうかは本人次第ですが、アイアンの精度が落ちてしまうと成績低下は避けられないということです。
「ゴルフが好きな人のほうが研究・努力を怠らない。
その意味では長くプレーできる可能性は高い」
アイアン上手は寿命が長い
いわゆる「アイアンのキレ」というのは、安定した入射角と回転スピード(ヘッドスピード)の速さによって生まれる。「アイアンはダウンブロー」という思い込みにより、ヘッドを過度に打ち込みすぎると、むしろ無駄なスピンが増えて寄りづらい球質になる
伊澤利光
1968年生まれ。神奈川県出身。学生時代から頭角を現し、プロ入りしてからは、プロも憧れる美しいスウィングの持ち主として活躍。2001年、2003年と2度の賞金王に輝く。また、2001年、マスターズで日本人最高位の4位入賞(当時)。現在はシニアツアーを中心に活躍中
月刊ゴルフダイジェスト2024年3月号より