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国内女子ツアーが“有観客”で開幕! ゴルフ競技のギャラリー問題を考える

PHOTO/Hiroyuki Okazawa、Taku Miyamoto、Tadashi Anezaki

コロナ禍となってはや1年。今年も日本のゴルフツアーの季節がきた。先陣を切る女子ツアーは、ダイキンオーキッドレディスが3月4日から4日間、琉球GCで「有観客」にて開催。観客を入れるための取り組みを追いつつ、識者に意見を聞いた。

「1日1000人限定」のギャラリーが見守るなか、激闘を制したのは小祝さくら(PHOTO/Tadashi Anezaki)

検討を重ね有観客開催を決断

2月25日までに、女子ツアーは第2、3、5戦の無観客開催が発表されていたが、開幕戦のダイキンオーキッドレディスは、ギリギリまで有観客開催の道を探るという声明を出していた。そして開催前週となった同日午後、「有観客での開催」を発表したのである。

感染状況を踏まえても、1都2府8県が緊急事態宣言下での決断には、かなりの奮闘があったに違いない。大会事務局は慎重に検討を重ねた結果、2021年は東京五輪を控えたシーズンであることやスポーツの盛り上げにつなげたいとの思いから決断したという。

開催にあたり、観客数は原則として1日1000人、入口での検温やマスク着用、会話を控えることの徹底、コース内通路を広く確保するローピング、ソーシャルディスタンスを確保できる観戦席の配置など感染防止施策を実施。選手・キャディ、ボランティアや主催者はじめ大会関係者は全員がPCR検査を受診。また、会場内に消毒液や空気清浄機の設置などできる限りの感染防止対策を徹底する。入場料は1日1500円(税込)、入場券はファミリーマートやRBCチケットで先着順販売し(会場販売なし)個人情報を記入。ギャラリーバス(7~8分)の運行も行う。もちろん、感染状況や政府・自治体の見解など事態の推移次第での見直しが前提だ。 

昨年のダイキンはいったん無観客開催を発表したが、新型コロナウイルスの脅威の高まりで開催を断念。準備中のコースが物悲しさを感じさせる。この後約4カ月にわたり、女子ツアーは中止となった

米・欧州ツアーは一部試合で有観客に踏み切っており、マスターズも限定有観客を発表した。日本でもPGAはシニアツアー開幕戦の有観客開催を発表していた。

LPGA広報は、「日夜協議し続け、1000人とはいえ入れさせていただけることになりました」

基準となるガイドラインは80ページにわたる。昨年5月から改定5稿目。最初は12ページだったことを考えると、イベント開催、有観客を実現するため、対策を積み重ねてきたことがわかる。

JGA、PGA、JGTO、LPGA、GTPAのゴルフ関連5団体で制作した「日本国内プロゴルフトーナメントにおける新型コロナウイルス感染症対策に関するガイドライン」。今年2月18日の改訂版は80ページにもわたる


主催者のダイキン工業広報は大会前「いろいろなガイドライン、専門家の意見、地元の状況、協会の意見などを取り入れギリギリまで話し合いました。スポーツの年でもありますし、沖縄から明るい話題を発したい。でも、感染対策を徹底し、試合が終わるまで気を引き締めていかねばなりません」と話していた。

また琉球GC支配人・葛岡保則氏は、「無観客だろうと予想していましたから、有観客になったのは喜ばしい限りです。開催コースとして万全の対策をとる覚悟でいます」

一方、JGTOの広報に話を聞くと、「野球、相撲、映画館など固定された席ならソーシャルディスタンスが可能ですが、ゴルフは野外とはいえ観客を固定できない弱みがある。あらゆるリスクを想定しているところです。LPGAさんが先に開幕するので、ズルいようですが参考にさせていただきます。中日クラウンズから2000人ほど観客を入れるという噂が出回っているようですが、それも含めて検討中です」

コロナ禍、さまざまな意見があるのは間違いない。しかし、今回の決断が、改めてスポーツの力やプロスポーツの在り方を考えるきっかけとなり、ゴルファーに1つの楽しみをくれるのは確かだ。

観客の「有無」どう考える?
識者の見解を聞いた

「工夫をして有観客にしたい」
(戸張捷:JGA常務理事、ゼネラルプロデューサー)

「私は観客が1人もいないゴルフトーナメントは成立しないと考えています。ゴルフ場は広い野外で換気も考えなくていいので、最初は1日2000人、マックス3000人は可能だと思います。ただ人気選手に人が集まり、密になるリスクがあります。そこはペアリングでの工夫が必要になるでしょう。もちろん、マスク、入口での体温チェックに加え、声をあげることなどは厳禁、拍手だけとします。さまざまな意見があることでしょうが、まずは私がプロデュースする大会――フジサンケイレディス(4月23~25日)――で、地方自治体とも協議して、2000人の入場者を考えています。当日券はなくし、先着順での入場券販売となるでしょう。

「観客がいてこそのゴルフ」
(レックス倉本:プロゴルファー、TV解説者)

「米ツアーの判断は開催地域によります。アリゾナは観客を入れる、カリフォルニアは入れないなど、州ごとに方針がありPGAと話をして決めている。前大統領のトランプ側だったかどうかも関係あるかもしれません(笑)。僕が先日ラウンドリポートしたフェニックスオープンは、今年の観客は5000人と言っていました。あらゆる場所に消毒液は置いてあったし、コースを歩く人は1mくらい距離を保っていた。マスク着用も徹底しており、『お静かに』の札を掲げるのと同じくらいの人数で『マスクをきちんと鼻にかけて』の札を掲げ常にチェック。皆守っていました。概ね成功していたように思います。また、PGAはコロナに罹った選手へのサポートがあるのもいいですね。いずれにせよゴルフは絶対ギャラリーがいたほうがいい。会場が華やかになるし、選手もやる気が出るように感じられます」

通常は3階建てで2万人入る有名な16番のスタジアムホールは、今年は1・2階を閉鎖。「でも観客がいるだけで、選手も嬉しそうで、僕も音に必要以上に気を遣わずにすみ、仕事もしやすいです」(レックス)※写真は2019年

「米ツアーの基準は想像以上に厳格」
(佐渡充高:TV解説者)

有観客へは段階的なステップが必要と考えます。最初は200人から初めて5段階くらいで増やしていくのがいいのでは……。米ツアーでは第1の段階で、そのトライを繰り返しています。しかも入場者も選手スタッフ約400人全員がPCR検査を毎日して――米国ではすぐ誰もがPCR検査を受けられます。日本は国の方針でその限りではありません――陽性が出ればすぐに無観客にする体制をとっています。また入場券にGPSのついたチップをつけ、ギャラリーの動向をコントロールセンターでチェックし、密になってくると係員が呼びかけソーシャルディスタンスをとるよう指導していきます。野球のように座席を固定できるならいいのですが、ギャラリーは歩くのが“商売”ですから、それくらい科学的データを積み上げて有観客にしている。日本では入場者全員にPCR検査ができないとなれば、スタンドや固定観客席を作るくらいしなければ有観客にはできないのでは。クラスターが発生すればツアーそのものを中止しなければならないので、米ツアーは慎重ですよ。よくワクチンができればすぐ問題解決という人もいますが、国民の60%ぐらい打たなければ集団抗体はできないといいます。60%といえば8千万人。来年いっぱいくらいかかるのではないですか」

昨年は、初の「秋開催」かつ「無観客」と、異例づくめのマスターズだった。今年は限定有観客で開催予定。あちこちで大歓声が沸き、最終ホールでは誰もが温かい拍手で迎えられる光景をまた観たい(写真は2019年)

「ゴルフが無観客な理由は……」
(タケ小山:プロゴルファー、TV解説者)

「野球も相撲もJリーグも限定ながら有観客なのに、ゴルフではなぜなかなかできないのという疑問を持つ人も多いはず。選手、メディア、大会関係者、すべてPCR検査して、限定的な有観客にできるというのが私の意見。2000~3000人限定なら十分可能だと思います。でも、ゴルフは入場者収入が必須ではない。スポンサーにおんぶに抱っこです。その点、野球もサッカーも相撲も入場料収入で成立している興行。それがなければ選手も運営体も干上がってしまいます。ゴルフでは運営費もすべてスポンサーがまかなうから、無観客でもいいとなってしまうのでしょう。また、無観客だとスポンサーにしてみれば、ギャラリーバスは出さなくていいし、簡易トイレ、観客スタンドも必要なし。ロープ張りなど運営費も安くてすみます。昨年のアースモンダミンなどネットで配信とくれば、TV放映料も不要……。ただ、プロアマができないのは残念でしょうが、前夜祭などの費用もかからないとすれば、ま、いいかとなるかもしれませんね。でも今回、ダイキンが有観客となりまずはよかった。琉球GCは27ホールあり、平らで動線も取りやすいので運営しやすいはず。地元の人が来るのではないでしょうか。企業は社会貢献のためにやっている部分もあります。この決断で、この先、『できるなら、有観客でやりましょう』に変わる大会が出てくるかもしれません」

「五輪ゴルフは限定有観客に」
(川田太三:元JOC委員、霞ヶ関CC会員)

「私は五輪自体が無観客でも、ゴルフは限定つきの有観客で、という立場をとります。もし無観客にしても選手、大会関係者、キャディ、プレス、ボランティアは500人を超えるでしょうから、体温チェックなどの手間は有観客にして5000人でも同じでは? 手間といえば簡易トイレが増えるくらいでしょう。ゴルフはバスケットボール、相撲観戦などのように換気は必要ないですからね。開催コースの霞ヶ関・東コースは五輪のため、5月某日からクローズします。会員はプレーが制限されるにもかかわらず、入場券などの優待はいっさいないためか、会員の間では不満も多く『五輪開催or中止』問題には冷めていて、中止も仕方がないという人も多くいます。少なくとも一丸となって盛り上がる雰囲気ではありません」

週刊ゴルフダイジェスト2021年3月16日号より