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「こんなことされたら困ります!」岩井明愛の「片手打ちチップイン」は漫画家泣かせの1打だった

ニチレイレディス最終日、岩井明愛が8番パー4の3打目で見せた衝撃の”片手打ちチップイン”。これには漫画『オーイ! とんぼ』作者のかわさき健先生も脱帽!

PHOTO/Shinji Osawa

岩井明愛 片手アプローチショット

史上初となる”姉妹で最終日最終組”のラウンドで注目を集めた岩井明愛・千怜姉妹。優勝は同組の山下美夢有に譲ったものの、多くのギャラリーを引き連れ、会場を沸かせた。

なかでも圧巻だったのが、姉・明愛が見せた「片手打ちアプローチ」。しかもそれが直接カップインするスーパーバーディだったのだから驚きだ。

8番パー4、岩井明愛のセカンドはグリーンサイドのバンカーのすぐ脇に止まる。普通にピン方向に打とうとすると、右足だけがバンカーに入り、上手くスタンスが取れない。かといって、バンカーの外に両足を据えて打とうとすると、ボール位置がかなり右になるため、スムーズに振れない。左打ちという選択肢もあるなか、明愛が選んだのは、右片手打ち。

岩井明愛 片手アプローチ解説
片足をバンカーに入れて打つ、または左打ちという方法もあるが、右片手での素振りが一番しっくりきたという

ピンまでは14ヤード。54度を右手で短く握り、右足よりも30センチは右にあるボールをクリーンヒット。ふわりと浮いたボールは、するするとピンに向かって転がり、そのままカップイン。そしてなぜかクラブを左に持ち替え、左手を高々と上げてギャラリーの声援に応えてみせた。

岩井明愛 片手アプローチ連続写真

テレビには映らなかった!
貴重な岩井明愛の

片手アプローチ連続写真

テレビ中継ではカメラ位置の関係で打っているシーンが見づらかったが、別アングルで大澤進二カメラマンが連続写真を撮影していた!

まるで漫画の世界。『オーイ! とんぼ』をはじめ多くのゴルフ作品を手掛ける漫画原作者・かわさき健先生にコメントを求めた。

「素晴らしいイマジネーションですよね。もちろん試合でいきなりできるものではありませんから、ボールを集めるときとか、遊びのなかでこういう打ち方をやっていたのでしょう。とはいえ、それを試合で、しかも優勝争いの場面でできるかどうかは別。普通であれば、上手くいかなかったら……という怖さが頭をよぎるものですが、怖さよりも想像が勝っている。”結果を手放している”ともいえます」

結果というものは自分ではコントロールできないものなので、「もしも上手くいかなかったら……」と先のことを案じても仕方ない。目の前の1打をどう打つかに全力を注ぐしかない、というのは『とんぼ』の根底にあるテーマのひとつだ。

「こういうことが優勝争いという極限の状況でできるのは、メンタルが強いことももちろんですが、それよりも“楽しむ”気持ちが強い証拠だと思います。当然、見てるほうにも楽しさが伝わりますし、しかもただ片手で打つだけじゃなく、入っちゃうなんて……漫画の世界ですよね。こういうことをされると、漫画で描くことがなくなるので、困っちゃいます(笑)」

漫画『オーイ! とんぼ』でも、主人公のとんぼが極限の場面で想像を超える打ち方を選択し、周囲を驚かすシーンがしばしば見られる。結果も周囲の目線も関係なく、ただ目の前の一打をどうやって打ってやろうかというワクワク感を楽しんでいるのだ(『オーイ! とんぼ』44巻より)

渋野日向子が全英女子オープンを獲ったり、松山英樹がマスターズを制したり、ダスティン・ジョンソンが430ヤードをベタピンにつけたり……ひと昔前なら漫画に描いても笑われていたようなことが、現実世界で次から次へと起こっている。かわさき先生は常々「現実が漫画を超えている」と語っているが、今回の”右片手アプローチ”もまさに漫画家泣かせ(?)の1打。

「このネタ、漫画で使っても怒らないでくださいね(笑)」

今後『とんぼ』で片手打ちチップインのシーンが出てきても、大目に見ていただきたい。