運命の12番ホール「じゃあ、いけ!」<青木翔『打ち方は教えない。』>
渋野日向子をメジャーチャンピオンに導いた青木翔。その教えのエッセンスが凝縮した著書『打ち方は教えない。』より、第1章の内容を特別公開!
その後しぶこはファイナルQT40位の権利で2019年シーズン前半の出場権を得ると、6月末までに賞金ランキング5位以内に入り、全英女子オープンの出場権を獲得します。
この時点で挙げた国内ツアーの2勝と、全英女子オープンの出場は、正直想定外でした。
なぜならこの年の課題は、プロとしてツアーに慣れることだったからです。
毎週試合がある中でのコンディション調整や、リズムの作り方を学ぶ1年と位置づけていました。
だからシーズン開幕戦前にしぶこと立てた目標も「賞金ランク50位以内で、来シーズンのシード権を獲ること」だったのです。
そんな中、転がり込んできた海外メジャーの切符。
僕もしぶこも、経験を得るための絶好の場として、利用をしようと参戦を決めました。
芝質やコースレイアウト、ギャラリーの雰囲気もすべてが異なる初めての海外試合。刺激は十分、気負いはゼロです。
キャディとしてバッグを担いだ僕も選手のしぶこも、とても楽しんでいました。だって、勝ちに行っているわけじゃありませんでしたから。
優勝争いをする状況になっても、その楽しさは変わりませんでした。
だから最終日、首位に2打差をつけられて迎えた12番ホールのパー4。
グリーンを囲む池に入れたら優勝争いから脱落するという状況でも、「(ドライバーで)いきたい」と言った彼女に「じゃあ、いけ」とドライバーを手渡しました。
結果、本当に紙一重でグリーンをとらえ、その1打が彼女の人生を変えたのです。
普通なら池に届かない短い番手で刻む場面でした。
でも仮にドライバーショットが池に入ってしまっていても、僕もしぶこもその決断を悔いることはなかったでしょう。全力で挑戦をすれば、結果が失敗でも、その経験は必ず成長につながるからです。
優勝を決めたバーディパットも、しぶこ自身が読み切ったラインでした。
プロテストに落ちて、僕のところに通うペースを自分で決めたように、しぶこは自分の責任で大事な判断をできる選手に成長していったのです。
ぶっちゃけて言うと、全英女子オープンの優勝はたまたまです。いわば事故。
でも、まぐれではありません。
このたまたまを生み出したのは、欠かさずにやってきた基礎練習、そして自ら考えて決断する力です。
僕がコーチングで教えているのは、この2つです。それを次の章から詳しく説明していきます。
青木翔
『打ち方は教えない。』
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