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【インタビュー】金谷拓実<後編>学びを糧に「たくさん予選落ちしたから、たくさん優勝したい」

世界を股にかけて戦った金谷拓実の2022年は決して順風満帆ではなかった。挑んでは跳ね返され、どん底に落ちもした。それでも“あきらめない男”は、夢に向かってひた走る。

PHOTO/Tsukasa Kobayashi、Blue Sky Photos

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松山英樹から学んだ
「戻す練習」の大切さ

「結局、日本だと慣れていることが大きいんでしょうね。日本でも初日は出遅れるし2日目はカットラインをさまよう。でも自分が落ち着いてやれば必ず週末には上位で終わると思ってプレーするのと、海外でコースも知らないし選手のレベルも高いし大丈夫かなと思いながらどんどん呼吸が浅くなって速くなっていくのとは違いますよね。でも、上手くいかないからいろんなことを工夫するんですよ」

工夫を重ねることで自分を上げていくのが、金谷らしい。「自分らしさ」が積み重なって、「自分スタイル」が確立される。

「22年、結果はまったくダメでしたけど、いろんな場所でプレーしていろんな経験をしながら、いろんなことを考えたし、そのたびに工夫した。1打ごと丁寧に深呼吸することも有用でした。本当に焦っている自分がいたから、最後のほうの試合ではコースメモの18ホール全部に『深呼吸』と書いて、自分に絶対に見えるようにしてプレーしていました。ティーショットを曲げたときなんかはどんどん歩くスピードが速くなりますけど、プレーに影響がない範囲で自分のリズムを保てるように意識して。ZOZOの優勝インタビューでキーガン(・ブラッドリー)も『以前ここでタイガーが優勝したとき一緒にプレーしていて、タイガーはゆっくり歩いていた。それを思い出した』と言っていましたしね」

金谷が手繰り寄せる糸は、自分のなかに蓄積された多くの人々の言葉でできているのかもしれない。


「春、マスターズまでの期間、アメリカの松山(英樹)さんの家の近くに住み一緒に練習させてもらい、多くのことを教えていただきました。1試合ごと、気づかないうちにスウィングは崩れる。立ち位置や構えも知らないうちに変わってくるから、1回のラウンドが終わるごとに、戻す練習をする。そういう積み重ねが大事だと。そんなことも思い出したり。迷っていた時期には松山さんの本と大谷翔平の本を買いました(笑)。そういえば、QTが終わった頃に知り合いの方が『不東』(三蔵法師・玄奘)という言葉を送ってくださった。調べたら、昔、中国のお坊さんがインドに書物を取りにいく途中、大変なことが続いて帰ろうとしたけど、その書物を手にするまでは絶対に帰らないという“覚悟”を表した言葉です。いい言葉ですよね。目標を達するまではそれから逃げないという」

欧州でも同世代は意識するという金谷。「双子のラスムスとニコライのホイガード兄弟やミンウー・リー。飛ぶし曲がらない選手が多い。球の高さもあって、アプローチもまあ上手い。でもやっぱり、そこで優勝したいと思ったら、そういうプレーをしないとできません」

サッカーワールドカップでの日本代表にも示唆をもらった。

「ドイツ戦の“戦っている”姿を見て感動して、コスタリカ戦もワクワクして見たら戦っている感じを受けず少し残念で(笑)。スペイン戦は見られなかったけど、クロアチア戦は前のめりにプレーしていたから。負けてもそうやって感動を与える選手になりたいですよね。前向きに戦う姿勢、チャレンジする姿勢を、どの試合も前面に出してプレーするようにしようと思いました」

2023年のスケジュールはまだ流動的だが、覚悟は変わらない。

「2月初めの欧州ツアー・アジアスウィングのタイやシンガポールに出られたらいいなという感じですね。僕のカテゴリーは8~10試合くらいの権利。推薦も含めて、チャンスをつかんでいくしかない。もちろん日本の試合にも出たい。それでも気持ちは海外挑戦で変わらない。だから欧州一本に絞って予選会を受けたんです」

たくさん予選落ちしたぶん
たくさん優勝したい

このオフ、地元・広島でじっくりと一人で練習する時間を取るのだという。

「誰かと一緒なのは絶対無理。最初はトレーニングをバッとやって、それからコースでみっちり実戦練習を。課題がたくさんある。しっかりと準備をした状態で、2月からガブッといきたい」

充電の時間も取る。映画『スラムダンク』を観たいという金谷に、どのキャラクターが好きか聞くと、少し考えて、「それって、価値観が出るやつですよね(笑)。僕は仙道彰とか渋い感じの人が好き。陵南の越野とか山王の松本も、いい選手なのに目立たなくて、全部オール4くらいの選手。でも何か一つ飛び抜けないとダメですよね」と、あえて自分っぽいキャラクターを出してくるあたりが、金谷の矜持に違いない。

「若い選手もすごいです。久常(涼)なんかまだ20歳なのに、欧州QTをしっかり通った。口では言っても実際行動に移した選手はあまり見なかったから。僕よりも年下で、まだ大学生の年齢なのに、自分の目標に対して100%信じて向かう行動力が素晴らしいです。でも僕もやっぱり松山さんからはインスピレーションを受けてきたし、小平(智)さん、川村(昌弘)さんが挑戦してきて、それが5人になって10人になれば、海外で優勝する日本選手も増えていくのかなとは思います」

――2023年の目標は?

「やっぱり優勝したいです。どの試合も優勝目指してやっていますけど、たくさん予選落ちもしたからたくさん優勝したい。22年の嫌なことを全部ぶつけて(笑)」

「9×9=81マス」の目標シートも再開し、自宅リビングの日々見える場所に貼る。

「いろいろ思うことがありもう一度書きました。すでにノートには全部下書きしているので、あとは画用紙に書いて壁に貼るだけです」

以前は「マスターズローアマ」だった真ん中の目標は今何になったのかと聞くと、「それは秘密です」と笑う。その言葉を自分で書いた金谷に、覚悟を感じる。

周りは皆、金谷のために言葉を用意したくなる。「僕が感情を揺さぶられるものって、根性論が多いですからね」

でも23年は、自分で自分のために用意した言葉がある。そこに向かって一つずつ積み重ねるのみだ。

「不東――目標を達成するまでは
逃げない。いい言葉ですよね」

ポロ ラルフローレンのスーツで決める金谷。モデル風なポーズを要求されちょっと照れるあたりも金谷らしい

週刊ゴルフダイジェスト2023年1月10・17日合併号より