「ターフを戻す」はNGだった? 洋芝と日本芝で違う! “ディボット跡”の正しい処置
週刊GD8月3日号で「ターフは戻してはダメ」という記事を出したところ、読者から「ターフを戻すのは本当に意味がないのか?」という指摘があった。果たして芝を削ったあと、飛んだターフを元に戻すのが正しいのか、そうではないのか。芝の専門家に聞いてみた。
PHOTO/Yasuo Masuda THANKS/カレドニアンGC
週刊GD 8月3日号の記事がこちら
「ターフを取った際、ターフ跡にターフを戻す人がいますが、あれは意味がありません。目土してください。芝の治療です。その際は、砂を山盛りかけてはいけません。地面が少しこんもりするぐらいにしてください」(P50「いまさら聞けないゴルフマナー基本のキ」)
<読者からの指摘>
「選手やキャディがターフをターフ跡に戻す映像を目にします。また、ある本には『ディボットはすみやかに拾って、はめ戻し、すき間に目土して保湿すれば大丈夫(一部要約)』と書かれています。ターフを戻すのはほんとうに意味がないことなのでしょうか?」
解説/石井浩貴氏
コースメンテナンスに定評があるカレドニアンGC(千葉県)のグリーンキーパー
小誌では「ターフは戻してはダメ」という記事を出したが、漫画「オーイ! とんぼ」の作中では、大井とんぼがターフ(ディボット)を戻していた。
結論から言うと、とんぼの“ディボットを戻す処置”は正しい。というのも、とんぼが参加している大会の開催コースは軽井沢で、「洋芝」という設定だからだ。
洋芝の場合、とれたディボットは、とんぼのようにすみやかにディボット跡に戻すのが望ましい。カレドニアンGCのグリーンキーパー・石井浩貴氏によると「ベントやケンタッキーブルーグラスなどの洋芝は、根が細かく、複雑に絡み合っていて水分を保持しやすいため、ターフ(ディボット)がとれても戻せば根付きやすいんです」。根に乾燥は大敵だが、洋芝の場合、根同士が絡み合うことで乾燥を防いでいるというわけだ。
同漫画では、とんぼが大きなターフをとったのを見て、登場人物のイガイガが「洋芝だからな」と言っているが、図らずもそれが処置のヒントになっている。漫画では戻すところまでしか描かれていないが、洋芝の場合のディボットは「戻し、足で踏み、もしすき間があれば(乾燥対策として)目土で埋める」のが適正な処置の流れだという。
さらに、乾燥を防ぐためには“すみやかに”がポイントになる。さっと戻せば「環境にもよりますが、3日くらいでつくこともあります。半日ぐらい放置してしまうと、えぐれた部分(ディボット跡)がすっかり乾いてしまい、根付くことはないでしょう」(石井)。とんぼのように走る必要はないが、打ち終わったらすぐに戻すことを心がけよう。
さらに「そもそも洋芝は、『わらじターフ』という言葉があるように、大きくとれることが多い。後の人のプレーのことを考えても、やはり戻さねばなりませんね」。芝のためにもなり、後続プレーヤーのためにもなる。洋芝のディボット戻し、善は急げ! だ。
しかしながら、日本のコースは洋芝よりも日本芝(コウライシバ、ノシバなど)が多く「その場合のディボットの処置はまた異なります」というのが、ややこしいところではある。ボコッととれたディボット、芝のためには戻したほうがいいのだろうか……?
洋芝以外のコースでは
ディボットは戻さない
こちらも結論から言うと、日本芝(コウライシバ、ノシバなど)の場合、ディボットを戻さず目土するのが良いという。
「日本のコースで多いコウライやノシバはディボットが飛んだ場合、ブチッとちぎれたようになります。しかし、ちぎれずに残った下の部分の組織は強靭なんです」
そのため「飛んだディボットを戻してくっつけようとするよりも、下に残った強靭な組織を生長させるほうが早いんです。目土は、その生長を促進させるためのもの。目土をしておくと、残った根の組織がほんとうに“ガッ”というように伸びてきます」
戻したディボットが根付くことは、環境によってありえなくはないが、新たな芝を生やしたほうが早いという。
カレドニアンGCで実際にプレーしていたメンバーにディボットがとれたときの処置を聞いたところ「目土ですよね」と即答。普段どおりやってみてくださいとリクエストすると、素早く目土、足で踏むという流れ。チェックした石井キーパーも「OKです!」
【ココも注意!】
目土は必ずそのコースのものを使おう
コースに置いてある目土用の砂は肥料などそのコースにあった配分がなされているので、よそのコースの砂を持ってきて目土してはいけない
ちなみに、コースが芝生を仕入れる際、業者(生産農家)は、生えている芝をうすーく切り取るという。すると「肥料をまけば下の組織が再生してまた芝が生えてきます。生え揃えば何度でも出荷できる。ですから、生産農家の畑の地面は下がっていますよ。何度も再生した芝をはぎとったからなんです」
もし、プレーヤーが大ダフリして大きなディボットをとったとしても、下の組織が生長しないとは考えづらいという。それほど、日本芝は再生力がある。目土をしなくても生えるほどだが、地面がデコボコになるのは良くないし、もちろん早く再生したほうがいいので目土が必要だ。
では、ディボット跡には目土をするとして、散らかしたディボットを放っておくのはどうなのか?「うーん、管理側もたくさん拾って回るのは大変ですが、それをゴルファーが拾っていたら、スロープレーになってしまいますよね」。確かに日本芝でディボットをとった際は、洋芝のわらじターフなどと違い、細かく飛び散るケースが多く回収は困難だ。「マナーとして気になるようなら回収して袋などにまとめてコースの人に渡す、などですかね。でも、それで進行が遅くなるようなら考えものです」
これを拾いだすとキリがない
ディボット拾いでスロープレーになっては意味がない
また、これまでに説明した洋芝は、いわゆる寒地型の芝だが、それとは別に暖地型のバミューダグラスなどを採用しているコースもある。「これはまた難しくて、ディボットを放っておくと、その場所で活着してしまうケースもあるんです」。また、バミューダでなくとも「グリーン上にフェアウェイの目土用の砂をまく人もいるのですが、グリーンはまた別なので、やめたほうがいい」とのことで、芝の世界は実に奥が深い。処置がわからなければキャディに聞くのが一番だが、セルフならスタート前にマスター室で聞いておこう。
週刊ゴルフダイジェスト2021年11月2日号より