【目澤秀憲の目からウロコ】佐渡島庸平編②「一流ほど細部にまでこだわっている」
目からウロコ
目澤秀憲コーチが、異業種からゴルフのヒントを得る連載「目澤秀憲の目からウロコ」。前回に続き、「バガボンド」や「ドラゴン桜」といったヒット作の編集に携わった佐渡島庸平氏に話を聞いた。一流の漫画家たちの仕事ぶりには、ゴルフにも通じるものがあった?
TEXT/Daisei Sugawara PHOTO/Hiroaki Arihara

佐渡島庸平 大手出版社時代に「ドラゴン桜」、「バガボンド」、「宇宙兄弟」などの大ヒット漫画の編集を務める。現在は独立し、作家のエージェント会社、株式会社コルクを設立
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- 目澤秀憲コーチが、異業種からゴルフのヒントを得る連載「目澤秀憲の目からウロコ」。今回話を聞きに行ったのは、大手出版社勤務時代、「バガボンド」や「ドラゴン桜」など、話題の作品に多く携わった佐渡島庸平氏。そのときの経験がゴルフにも生きているという。 TEXT/Daisei Sugawara PHOTO/Hiroaki Arihara 目澤秀憲 ゴルフ界の最先端を知り尽くすコーチ。……
気温や湿度の環境で
プレーは変化する
――佐渡島さんは「ドラゴン桜」方式を応用して、独学で70台が出るまでになったということでしたが、漫画の内容、あるいは漫画家の方から刺激を受けた体験がほかにもありますか。
佐渡島 「バガボンド」の井上雄彦さんなんですけど、雪の描き方が独特なんですよね。普通だと、修正液を使って「白100%」で描くんですが、井上さんはそのひとつひとつに影があるんです。
目澤 それで情景がグッとリアルになるということはわかります。自然を観察する力がすごいんでしょうね。
佐渡島 登場人物の表情ひとつとっても、普通の漫画家の場合は顔が「記号」でしかないんです。ラインスタンプみたいに、笑顔だったら笑顔のスタンプ、泣き顔だったら泣き顔のスタンプが押してある感じですね。場面によってそれが60%だったり80%だったりするだけで。ところが、一流というのは、その裏にある「感情」まで込めて表情を描くんですね。何でこの顔になるのかという、意味がちゃんとある。
目澤 ページから伝わるストーリーより、ずっと深いところまで設定して描かれているということですよね。
佐渡島 設定でいうと、「ジャイアントキリング」(※)の作者と話しているときに、試合のシーンは、その日の天気とか気温、湿度まで細かく設定して描いているというのを聞いたんです。そのときは「そこまで必要なのかな」と、ちょっと思ったんですけど、後日プロの選手と話す機会があって、気温や湿度でプレーが変わるのか聞いたら、「全然、違う!」って言うわけですね。芝生の湿り具合でボールの転がりだとか弾み方が違ってくるし、もっと言うとスパイクに付く芝とか土の量も変わるから、それもちゃんと考慮に入れてプレーしているんだと。これにはちょっとびっくりしましたね。
目澤 それってすごくゴルフに通じるところがありますね。今、若い選手たちによく言っているのは、天気予報をよく見たほうがいいということなんです。というのは、気温とか湿度によって飛距離だとかボールの飛び方が変わるからなんですね。もちろんコースの標高によっても変わってきます。でも、このことを知らない選手が多い。
佐渡島 そうすると、「あれっ」と思うことが多いでしょうね。
目澤 そうなんです。今はほとんどの選手が弾道計測器を使って練習していますけど、自然条件が変わると数値が変わるわけですね。それで、「数値が一定にならない」ということで、自信をなくしたり、迷ったりする選手が結構います。
佐渡島 そもそも環境によって数値が揺らぐということを、理解しないといけないですね。
目澤 普通は「正解」を手元に持っておきたいと思うんです。でもゴルフは「いい加減」が大事というか、その瞬間ごとに最適なプレーを見つけなくちゃいけないわけで、それには「自分にはこのスウィング」という正解だけを握り締めるんじゃなくて、それ以外のところにももっと目を向ける必要があるんですよね。
佐渡島 それはよくわかります。ちょっと違う話かもしれませんが、ラウンド中にキャディさんにグリーンのラインとかを聞いて、それが間違っていることが時々ありますよね。それで失敗して、自分のせいじゃないから「何で?」ってうじうじするわけですけど、それもゴルフという感じがしませんか?
目澤 確かに、ゴルフならではです。
※主人公が弱小プロサッカークラブの監督となり、格上のチームに挑む物語。原案・取材協力/綱本将也、作画/ツジトモ。講談社「モーニング」にて連載中
自然との対話がゴルフの本質
以前、趣味で素潜り(フリーダイビング)を行っていたという佐渡島氏。「スポーツには『相手チーム』とか『記録』といった、『何かと戦う』という側面と、自分の体と自然の両方に向き合う、その集大成という側面があると思いますが、とくに後者の部分で、ゴルフは素潜りの感覚によく似ているなと思います」

標高や気温によって球の飛び方が変わる
標高が高い場所にあるゴルフ場は、ボールが「飛ぶ」ということはよく知られている。これは高所ほど気圧が低くなり、空気の密度が薄くなるため、空気抵抗が少なくなることが要因。また、暖かい空気のほうが冷たい空気よりも密度が低いため、同じ標高でも気温が高いほうが飛距離は出やすい(気圧よりは影響がはるかに少ない)。「トップ選手は、『この気温と湿度なら、このくらいの高さで何ヤードくらいキャリーする』ということを肌感覚で認識しています。自然と闘うというゴルフの本質を、もっと選手に伝えていかなきゃと思います」(目澤)
月刊ゴルフダイジェスト2025年9月号より


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