メンタルトレーニングでは「成功する自分を本気で想像すること」が大事だとされている。ただし、それが唯一絶対のやり方ではないようだ。

ILLUST／Masahiro Takase　TEXT／Daisei Sugawara　PHOTO／Hiroaki Arihara

>>前回のお話はこちら

• 
  【目澤秀憲の目からウロコ】為末大編②「“運動神経”の正体とは?」

  いくら練習してもうまくいかない人と、ほんの少し練習しただけでうまくできる人がいる。両者は何が違うのか。俗に言う「運動神経がいい人」は、結局どういう人のことを指すのか? ILLUST／Masahiro Takase　TEXT／Daisei Sugawara　PHOTO／Hiroaki Arihara 目澤秀憲　ゴルフ界の最先端を知り尽くすコーチ。現在は河本力、金子駆大、永峰咲希……

練習の努力と結果は別問題

―― おふたりは、選手を経験してコーチをしているという共通点がありますね。

目澤　為末さんの場合、世界陸上の、しかも400mハードルでメダルを取るというのは、どう考えてもすごいことなんですが、やっぱり「オレならできる」という強いマインドセットがあったんでしょうか?

為末　陸上界でも以前は「勝利への強い意志」というのが大事にされていたんですが、最近は「開き直り」というか、「なるようになる」というふうに気持ちを持っていくのがいいとされていますね。ボクもそのタイプではありました。準備はした、あとは当日の体に任せる、という感じですね。

目澤　ゴルフも同じかもしれません。今からやるプレーのことをいかに「忘れるか」というのが、究極のメンタル術なんじゃないかと思っています。

為末　スポーツには「イップス」というのがありますよね。一般的に、考える時間が長いことと、動きを自分から生み出す種目であることが、イップスになる2大要素とされていて、陸上でいうと長距離種目の選手が突然、足のつき方がわからなくなるなんてことがあるんですが、その意味ではゴルフというのはすごくイップスになりやすい競技だと思うんです。

目澤　歩いている時間が長くて、どうしてもプレーやスウィングのことを考えてしまいますし、いざ打つとなったら、絶対に自分でスウィングし始めなきゃいけないですからね。

為末　ハードルという種目も、考え始めたらキリがなくて、ボクは左で跳ぶ（右足で蹴って左足を振り上げる）ほうが速いんですけど、400mだと歩幅の関係で何台かは右で跳ばなくちゃいけないので、どうしたら左と同じように右も跳べるかというのをずっと考えて練習していた時期がありました。

目澤　答えは出ましたか?

為末　結局、同じスピードで跳ぶのは無理だとわかったので、右は7割でいいことにしました（笑）。それで失うタイムが0.03秒くらいだったので、それだったら他の部分で頑張ればトレードオフ（相殺）できるなと。「捨てる勇気」というのも必要なんですよね。

目澤　それは間違いないです。

陸上競技の男子100mで世界記録を持つ、ジャマイカのウサイン・ボルトは、立位体前屈で手が地面に届かないという。速く走るのに柔軟性が絶対に必要というのは、実は思い込みだという好例。パフォーマンスアップに何が必要かを見極めるのも、練習の目的のひとつ

為末　練習のときも、分析的に体の動きを考える日と、「ただ景色を見て走る」と決めてやる日を完全に分けていましたね。景色を見るというのは、言い方はあれですけど「バカ」になって走るということですね。

目澤　それってすごくいいやり方ですね。たとえば、プロゴルファーがスウィング改造するような場合、真面目なプレーヤーほど結果が出ないことで悩んじゃうことが多くて、そこの意識を変えるのがすごく難しいなと思うんです。スウィングはスウィング、結果はまた別の問題と割り切って考えられるといいんでしょうけど……。

為末　やっぱりゴルフは難しそうですね。

目澤　為末さんはクラブを握ったことはあるんですか?

為末　2回か3回くらいはありますけど、真っすぐは飛ばなかったですね。コースをプレーしたことはないです。

目澤　よかったらちょっと打ってみませんか。

為末　いいんですか。ではちょっとだけ（と、ボールを打ち始める。スライスこそするもののしっかりヒットできている）。

目澤　想像以上に上手いです。初ラウンドはぜひご一緒しましょう。

股関節の柔軟性はどんなスポーツでも大事

体の各部位の最大可動域が重要な競技と、そうではない競技があるが、股関節に関してはどんな競技でも可動範囲を広げておいて損はない。うつ伏せ+ひざ立ちの状態から、体を前後に揺らすストレッチ（写真左）、地面に座った状態で片足ずつ抱きかかえるようにして引き付けるストレッチ（写真右）は、普段からやっておきたい

ラウンド前にやってみよう!
「為末流! 動的ストレッチ」

クラブを杖代わりに、左右の足を交互に揺らす。股関節周りの動きがよくなる

ストレッチには静的ストレッチと動的ストレッチがあり、静的>>動的の順番で行い、本番を迎えるのが望ましい。ラウンド前に時間がない場合は、動的ストレッチのほうを積極的に行うとパフォーマンスアップに直結しやすい

月刊ゴルフダイジェスト2025年6月号より