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【陳さんとまわろう!】Vol.231「パットはクロスハンド。もう50年近くやっています」

日本ゴルフ界のレジェンド、陳清波さんが自身のゴルフ観を語る当連載。今回のお話は、陳さんが日本で最初に取り入れた、パッティングでのクロスハンドグリップについて。

TEXT/Ken Tsukada ILLUST/Takashi Matsumoto PHOTO/Tadashi Anezaki THANKS/河口湖CC、久我山ゴルフ

前回のお話はこちら

ゴルフをやめようかという気持ちを救ってくれた

――パターのグリップをクロスハンドにしたのは日本では陳さんが最初では、という話。アメリカのオービル・ムーディ(1969年全米オープン優勝)の握り方を参考にしたということでした。

陳さん そうです。習志野(現アコーディア・ゴルフ習志野CC)の関東プロ(1973年)でやってみたんだねえ。とにかくそれまでパットが入らなくて悩んでいたわけよ。1メートルの距離でもカップをなめないんだ。というのはショートばかりだから。打とうと思っても打てないんだねえ。もうグリーンに上がるのがイヤでイヤで(笑)、ゴルフをやめようかって思っていたぐらいでね。そういう状態のときに突如ね、ムーディが握り方を逆にした変わったグリップをしていたのを思い出したわけ。「ようし、やってみよう」って、練習も何もしないで、ぶっつけ本番でやってみたら、2メートルぐらいの距離がポンポン入るんだ。右手を下にして握ると手が動かないのに、左手を下にして握ると面白いように手が動くんだねえ。結局、優勝した尾崎(将司)選手に最終ホールで1打負けましたけど、パッティングがよみがえったのがとてもうれしくてね。

――そのときからほぼ50年後のいま、クロスハンドでパッティングしている選手がものすごく多いです。


陳さん そうだねえ。風変わりに見えたグリップも、いまでは上位で活躍する選手がずいぶん採用していますから、ぜんぜん違和感ないですよ。クロスハンドのいいところは、ボールを打った後でヘッドが低く出ていくことなんだねえ。低く出ていくとボールをしっかりつかまえて打てますから、直進性が強くなるというのかな、転がりにブレがないし、狙った所にスッと転がっていくんだ。でも、右手を下にして握ると、ヘッドが低く出ないで上がってしまうの。フェースも上を向くでしょ。これじゃあボールをつかまえられませんから、弱々しい転がりになってショートさせるし、芝や起伏の影響を必要以上に受けてカップからそれたりするわけ。

――右手が下と左手が下とでは重要な点で違いが出るんだと。

陳さん はい。それからもうひとつ、クロスハンドのいいところは、ボールを打つときに左手首が折れないことなのよ。右手を下にして右手で打つと左手首が甲側に折れやすくなりますけど、左手を下にすると左腕を主体にしてストロークしますから、左手首は折れないんだねえ。折れなけりゃヘッドが上がってフェース面が上を向くことがありませんから、いま説明したように正確なパッティングができることになるわけよ。

――それに気が付いてクロスハンドにするプロゴルファーが多くなったんでしょうかね。

陳さん クロスハンドは左手に意識が行くでしょ。これ、右脳の働きなんですよ。これは聞くところによると感覚やひらめきの世界なんだね。しかし右手を下にして握って右手を意識すると、右手は左の脳の領域ですから、こっちは言葉を使ったり考えるほうですよ。そこでパットが入らなくなるといろいろ考えて悩んで、結局イップスになったりするわけね。

――ということは、クロスハンドにイップスはないと。

陳さん たぶんね。もうひとつ言えば、クロスハンドにすると、早打ちにならないんだ。左手が下にあると、その左手が邪魔になってゆっくりにしか打てないんだね。

陳清波

ちん・せいは。1931年生まれ。台湾出身。マスターズ6回連続出場など60年代に世界で日本で大活躍。「陳清波のモダンゴルフ」で多くのファンを生み出し、日本のゴルフ界をリードしてきた

月刊ゴルフダイジェスト2022年12月号より