義足で300Y! 障害者プロ・吉田隼人さんが気づいた飛ばしのキーワード「左ひざ」と「体重配分」
東京五輪に続きパラリンピックが終了。ゴルフ競技の正式種目入りを望む声も多い。今回はパラリンピアンを目指す吉田隼人さんを取材。ティーチングプロにも挑戦中の確かな目で、飛ばしの秘訣を教えてくれた。
THANKS/白鳳CC PHOTO/Yasuo Masuda
吉田隼人さん(38)
よみうりGCで働きながら、PGAティーチングプロB級の実技と筆記試験を突破、現在講習期間中だ。ベストスコアは66。世界障害者ゴルフランキング(WR4GD)は日本人で2番目の36位(9月9日現在)
誰よりも体の動きを
研究しています
現在38歳の吉田隼人さんは、24歳のとき大事故に遭い右足を大腿部から切断。苦しいリハビリを経て30歳になる直前にゴルフと出合う。メキメキ上達し、障害者の大会でも常に上位に入っている。
「最初はスライスばかりで。悔しくてやっていたらどっぷりハマりました。僕は自分で、プロの動きなどを真似したりして、自分のできる動きとできない動きを研究しながらゴルフをやってきました。できないなら代わりの動きを探したり。だから人の動きにも気づきやすいですし、もともと足があったので、より健常者の方の感覚もわかるかもしれません」という吉田さん。
義足側(右足)のひざや足首がまったく使えないからこそ、健常者のムダな動きがわかるのだ。注目すべきは、回転のための「ひざの使い方」だという。
「右ひざから回転しちゃう人が多いんです。そして、ダウンからインパクトでも右ひざが前に出る。僕はそれが“できない”からいいんですが、健常者の場合には“できてしまう”ので、それがミスにつながるんです。スウィング中、右ひざが開いたり、体の前に出ると、骨盤の前傾が崩れて、腰が前に出て体が起き上がり、手が体から離れてしまう。するとクラブが外から遅れてくるのでスライスになったりします。そしてそれを嫌がってアームローテーションを強くしすぎて左に引っかけたり……僕もそういうひざの動きで振ろうとすると、まったく打てなくなりますよ」
バックスウィングで腰を回す動きも、腰だけで回そうとすると全然回らないという。「腰はひざを使って回転させるんです。左ひざを少し前に出すことで、それにともなって体が回転しやすくなる。そのときに右の股関節の内側と右のお尻に体重が移り込むような感じで腰を回していく。これは皆さんぜひやってほしいですね。そして、左ひざを前に出したぶん、トップからは左足を一度踏み込んですぐに伸ばすようなイメージで回転をしていく。これが今流行りの地面反力にもつながってくる。僕が片足で飛距離が出るのは、この動きがあるからだと思います」
吉田さんが以前から参考にしているのがローリー・マキロイ。
「マキロイ選手の上半身と下半身の使い方はすごい。とくに左足の力が強いから、フィニッシュでピタッと止まれるんです」
じつは吉田さん、以前データを取ってもらったとき、上体のひねり方、体の使い方がマキロイに似ていると言われたという。
「ずっと参考にしてきたから嬉しかったですが、まあ、似ているようで似てない。でも、力の原理をマネできるようにするのが大事ですから。(同じくマキロイを参考にしている)笹生優花プロには負けられませんよね(笑)」
体の回転は左ひざでつくる
(1)左ひざを前に出す
腰を回そうとするのではなく、左ひざを少し前に出すことで、腰も胸もしっかり一緒に回転していく。クラブを持たずにやってみよう
(2)切り返しで一瞬沈む
右股関節の内側と右のお尻に体重が乗るように腰を回したら、切り返しで一度沈み込む意識を持つと左ひざを伸ばしやすい
(3)左ひざを伸ばしていく
切り返しからダウンは左ひざを伸ばすイメージで回転していく。左ひざが伸びるのが早ければ右ひざは前に出ない
(4)左サイドに壁ができる
左ひざを伸ばすことで左サイドにブレーキがかかり、その反動でヘッドが走っていく
片足でクラブを振ると
自分のクセがわかる
「人に教えるときは、その人が体のどこを意識して使っているか、その意識と実際の動きとの誤差を見ます。自分のイメージと実際のスウィングが違っている人は多いんです。まずは、スウィング中に重心がどちらに偏っているかを確認。僕は義足なので重心の位置をけっこう気にする。だから、人の動きも目につきやすい。打つときに重心が揺れている人は再現性が低いですし、体重の配分は体の回転や入射角にも関係してきます」
人は、左右どちらかに体重がかかりすぎるクセがあるという。
「1本足で立って、クラブを振ってみると、苦手なほうは振りにくいのがわかる。これが軸ブレの原因にもなるんです」
効果的な「ひざ使い」は、重心位置と軸が安定してこそできるという。吉田さんの場合は左足に軸が寄りすぎてしまっていたという。
「右足に体重が乗らないからクラブがアップライト気味に上がって入射角が鋭角に入りやすくなり、スピン量が多くなって吹き上がっていた。悩んでいたとき、トレーニングを一緒にさせてもらっているパラリンピックの陸上競技日本代表の山本篤さんが『義足側にも体重をかけられるようにもっと鍛えるべき』と。競技は違えど体の使い方や鍛え方は通じるものがある。スクワットも、股関節周りやお尻、太もも、左右均等に体重がかるように意識して行います」
右足にもきちんと踏み込んでスウィングできるようになるとクラブの入射角もゆるやかになってスピン量が減った。これも健常者へのヒントになるという。
「今まではトップで左足側に軸が残ったまま振るような感じでしたが、右の股関節の内側に体重を乗せたまま振れるようになった。ドライバーの球筋も中弾道に変わり、スピンも減ってランが出るようになった。今までは5Yだったランが15Yは転がるようになりました。キャリーは290Yで変わりませんが、ランの出方で300Yを超えたりします」
逆に左に体重を乗せられない人は、アッパーブローであおり打ちになりすぎるという。
「これも飛距離ロスにつながります。先ほど言ったように、ひざの使い方が悪くて、前傾姿勢が崩れたまま右に乗ると、そのまま重心が後ろに下がるようになるので、体が回転しても左足にまったく体重が乗らない状態になる。また、自分からムリに左足に乗ろうとすると、軸ブレが起きて、ダフったりトップしたりします」
吉田さんの理想の体重配分は、インパクトで右足6:左足4、フォローで右足2:左足8。
「右に乗って、クラブを振った遠心力で自然と左足に体重がいくイメージ。もちろん『左ひざの動き』は大事です。今のクラブはソールも厚く打ちやすくできているので、ダウンブローに打つより、少し右足体重でゆるやかにクラブを入れるほうがラクです」
左に体重が乗らない人は「あおり打ち」に、右に体重が乗らない人は「鋭角ダウンブロー」になりがち。「今のクラブの特性も考えると、インパクトでは、体重配分は右足6:左足4がいいと思います」
理想の重心位置をつくるためには、「片足1本での素振り練習」が効果的だという。
「苦手なほうの足を重点的に。また、両足で足踏み素振りをするとバランスのいいスウィングにつながります。コースでも、アドレス時に足踏みするのは重心バランスをとるには効果的です」
人に教えることも自分のスウィングの研究になるという吉田さん。ティーチングプロの研修を受けながら、研鑽の日々。
「パラリンピックにゴルフ競技ができればぜひ出たいです。世界ランクトップ10に入れると海外の試合に出られる可能性が広がるので頑張りたい。もちろん、ランキングの1位を目指しています!」
Drill 1
自分の苦手な足で片足素振り
右に乗りづらい人は右足を止めて遠心力で自然に回るイメージで。左に乗りづらい人はお尻で自分の体を受け止める意識で振る
Drill 2
足踏み素振り
バックスウィングで右足に体重を乗せたら、トップに入る前に左に踏み出す感じで振る。何度も繰り返せるようにする
週刊ゴルフダイジェスト2021年9月28日号より
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