スコアが伸びる“頑張り方”<後編>頑張るべきは“マネジメント”! 勝負所でパフォーマンスが発揮できる4つのポイント

プロは“頑張りたい”状況のときほど、無理をせず安全運転を心がけるというが、具体的にどのようなことを考えてショットを打っていくのか。マネジメントの鬼・青木瀬令奈プロと、コーチの大西翔太氏に話を聞いた。
TEXT/Kosuke Suzuki PHOTO/Hiroaki Arihara、Shinji Osawa ILLUST/Saekichi Kojima


青木瀬令奈
あおき・せれな。身長153㎝と小柄でドライビングディスタンスは219.4Yで現在93位。飛ばないが9年連続シードを守り、昨年2勝を挙げ通算5勝の実力者
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- 「よし、ここは頑張るぞ!」ダボを叩いた後、ベストスコアが見えたとき、つい口にしがちな言葉だが、頑張ろうとして上手くいった経験はあるだろうか? プロゴルファーの言う「頑張る」の概念を参考に、1打でも良いスコアで上がるための正しい“頑張り”方を学んでいこう。 TEXT/Kosuke Suzuki PHOTO/Hiroaki Arihara、Shinji Osawa ILLUST/Saekich……
確実にできることを
確実に実行する
ダボ・トリの後は無理をしない。そこが大事であることはわかったが、やはりプレーの中では「頑張って」成功させたい大事なショットがある。
ミスした後のリカバリーショットもそうだし、パー5の「3打目勝負」などは、無理はしないと言いながらもバーディチャンスにつけたいという欲はあるはずで、プロだってそこでは「頑張って」いるはずだ。
女子レギュラーツアーで“もっとも飛ばない選手”でありながら、長年シードを守り続け、2023年には2勝を挙げた青木瀬令奈。青木はパー5はほぼ2オンできないので常に「3打目勝負」だ。その「勝負」の詳細こそが「頑張る」のもう1つの答えなのではないか。
「パー5ではバーディがほしいので、無理はしませんが『頑張り』ます。3打目勝負するうえで一番大事なのは実は2打目。2打目を成功させられれば3打目をいいライの得意な距離から打てるので、バーディチャンスにつけられる可能性は高まります。その意味では3打目で『頑張る』のではもう遅いんです」
さらに話を聞いてみると、「頑張る」のはショットではなく判断と準備なのだと言う。
3打目をベストな位置から打つために、2打目の落下点の傾斜や地面の硬さまで考慮して正確なキャリーとランを算出。そこに落とすために風を入念に読み、ライに気を配って、番手と球筋を決める。この準備こそが「頑張る」の正体なのだ。「ここまで入念に準備して、スウィングも全力を尽くしますが、難しいショットはしません。そのうえで結果は100点を前提とせず70点を基準に考えます。その結果100点のショットが出れば最高だけど、70点のショットでも3打目をそこそこの状況から打てるような狙い方をするようにしています」

リカバリーショットも考え方は同様。ミスを取り返そうと難しいショットにチャレンジするのではなく、普段どおりの確実性の高いショットで攻め方を構築し、その準備と、確実に実行することを「頑張る」。それが成功したならば、ミスの連鎖は避けられるし、いずれ必ずチャンスは来る。難しいことを「頑張る」わけではないことがポイントだ。

Point 1
技術的に一番簡単なショットを選択

Point 2
打ち出し方向だけを考えてショットしたい

「普段どおり」のパフォーマンスを
発揮できるようになる4つのポイント

大西翔太
1992年生まれ。青木瀬令奈をコーチ・キャディとして支えてきたが、近年安田祐香も指導するようになり、「チーム大西」として活躍中
「頑張る」の正体が見えてきたが、では実際にプレーの中で「頑張る」ときには、何に注意しどう振る舞えばいいのか。青木のコーチを務める大西翔太コーチにアマチュア向けにアドバイスしてもらった。
「一番大事なのはナイスショットを求めないこと。ゴルフはナイスショットを競う競技じゃありませんし、スウィングを『頑張った』ところで実力以上のショットなんて出ません。自分が確実にできるショットをどう組み立てるかが大事なので、『頑張る』べきはショットよりもマネジメントなんです」
しかしアマチュアにとっては「普段どおり」を確実に実行することこそ難しく感じる。これは「普段どおり」の設定が高すぎることがそもそもの問題なのだ。自分の「普段」がどうなのか正確な自己判断がなければそもそも「頑張る」スタート地点にも立てないことは肝に銘じよう。
「普段からセルフトークする習慣もつけてほしいですね。ライや狙いどころ、やるべきことなどを口に出すことでそれらを客観視しやすくなり、マネジメントの前提となる状況判断の質が上がります。ショットに対する覚悟も決まるので『普段どおり』を確実に遂行するうえでとても有効だと思います」
マネジメントに関しては、目の前のショットだけでなく、その次のショットやパットまで考える習慣をつけたい。「3打目勝負」の考え方がまさにこれだし、トラブルショットなどはとくに「次」が大事。パーパット、ボギーパットをどこから打つかのイメージを常に持っておこう。
「最後に、チーム大西の鉄則を伝授しましょう。それは『ポジティブシンキング』です。ネガティブに『こうなりそう』『失敗するかも』ではなくポジティブに『こうなる』『できる』と考えるクセをつけてください。ポジティブ思考は不安を取り除き、体が思いどおりに動く可能性を高め、プレーの成功率を高めてくれます。もちろん練習でやっていないことはできませんが、練習でやってきた『普段どおり』を発揮するうえでこれはとても大事。普段から意識的に前向きな言葉を発してポジティブシンキングを習慣づけることが、いざという場面で『頑張れる』ための最後のピースになるはずです」

頑張っても実力以上のショットは打てないし、普段の練習でやったことがないことはコースではできない。いざという場面では、普段どおりのショットをベースに状況判断やマネジメントを頑張ることが大事だ

ライや風などの状況、狙いどころや弾道のイメージなどを口に出してセルフトークすると、客観的な判断がしやすく、やるべきことも明確になって覚悟が決まる。プロはキャディと話せるが、1人ならセルフトークで代用しよう

最終目的は目の前のナイスショットではなくカップイン。どんなナイスショットをしても次に難しいパットや悪いライからのショットを残しては意味がないので、常に「次の一打」を考えながらプレーすることがとても重要だ

ポジティブな言葉は不安を取り除き体が思い通りに動く確率を上げる効果がある。普段からポジティブな言葉を口に出すようにすること、「できる」と自分に信じ込ませることがいざ頑張らなければならない場面で生きてくる
月刊ゴルフダイジェスト2025年7月号より