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ヘッドの「重心」大研究<後編>近年の大慣性モーメントドライバーを打ちこなすポイントは?

ドライバーを語るとき、「重心」の話は避けて通れない。しかし近年、ドライバーの重心設計思想に変化が表れているという。いま改めてその実態に迫り、重心について学び直そう!

TEXT/Kosuke Suzuki PHOTO/Takanori Miki、Hiroyuki Okazawa ILLUST/Takanori Ogura THANKS/GOLFOLIC

>>前編はこちら

MOIの極大化で
ドライバーのトレンドが変わった

解説/松吉宗之

フォーティーンで故・竹林隆光氏に師事しその哲学・理論を学んだクラブ設計家。現在は群馬県でクラブメーカー「ジューシー」を主宰する

ドライバーヘッドにおいて重心が重要である理由はわかったが、松吉さんによれば、その重心設計のトレンドが近年変わりつつあるという。それは「慣性モーメントの極大化」が大きな背景にある。

「いままでの重心設計は、まずは慣性モーメントを大きくしミスヒットに強くするための深重心化と、それから芯の上めで打ってギア効果による低スピン・高弾道で飛ばすための低重心化がカギでした。しかしヘッドの慣性モーメントが極大化したことで、後者の効果が弱まってしまったのです。とくに『10K』というのは左右だけでなく上下の慣性モーメントも大きいので、インパクト時の上下のギア効果が弱くなり、フェース上めで打つメリットが薄れます。それなら低重心化にこだわらず、フェースの真ん中にフェース面上の重心位置を近づけるほうがインパクト効率がいい。ピンゴルフが提唱する『フォースライン』という発想はまさにこれ。言い換えれば、ギア効果で飛ばすのをやめたということが『飛び重心』の本質だと思います」(松吉) 

大MOI化で「フェース上め」で打つ意味が薄れた

上下方向の慣性モーメントが大きくなり上下のギア効果が生じにくくなったことで、フェース上めで打っても「低スピン・高打ち出し」を得にくくなった。これがフェース真ん中に重心を持ってくる「飛び重心」の発想につながった

また、左右方向の慣性モーメントが大きくなったことが、球のつかまりに関する考え方も大きく変えたと松吉さんは言う。


「かつて『球がつかまるドライバー』というのは、重心距離が短くフェースを返しやすいことが重要でした。ブリヂストンの『ツアーステージ』やヤマハの古い『インプレス』などのアスリート向けモデルはそういった開発コンセプトで、プレーヤーが自分の意思によってフェースを返して球をつかまえられるクラブでした。しかし慣性モーメントがここまで大きくなると、もはやフェースを繊細にコントロールして球を自分でつかまえるというアクションが難しくなっています。

そのため今どきの大慣性モーメントドライバーにとっては、プレーヤーが意図しなくてもフェースが閉じた状態になりやすく、勝手に球がつかまることが『球がつかまるドライバー』の条件として重要になってきたのです。そのためのポイントとなるのが重心角。ドライバーの深重心化は、慣性モーメントの増大と並行して、この重心角の増大も重要な役割を担っているのです」

重心角とは、シャフトを水平な台の上などに置いてヘッドをフリーにしたときにフェース面が上を向く角度。重心角が大きいということは、自然な状態でフェースが閉じていることを意味する。大慣性モーメントで重心距離が長く、かつ重心角が大きいドライバーというのは、フェースを返しやすくはないが、フェースが返りやすいということなのだ。 

我々もなんとなく「球がつかまる/つかまらない」という言葉でつかまり性能について語りがちだが、そのつかまり性能の内容は、ヘッドの大型化、慣性モーメントの増大とともに変化してきていたのだ。 

そう考えると、かつて自分で球を「つかまえて」飛ばしていたプレーヤーにとっていまのドライバーは球をつかまえにくく、プッシュアウトのリスクが大きい。最新ドライバーが合わないという人は、このギャップに苦しんでいる可能性が大きいといえるだろう。

かつてはこれが振りやすかった

ヘッド後方の重さが軽いと重心深度が浅くなり、重心角は小さくなる。その代わり重心距離を短くし、フェースを返しやする必要があった 

フェースの開閉で球をつかまえる

重心深度が浅く慣性モーメントが小さくて重心距離も短いドライバーは、フェースの開閉を積極的に行って、フェースを意図的に閉じながら球をつかまえていた。弾道の打ち分けや繊細なコントロールはこっちのほうがしやすかった

これが今どきの「振りやすさ」

重心深度を深くすると重心角が大きくなる。重心角が大きいドライバーは、プレーヤーの意図と関係なくフェースが閉じやすい

シャットフェースのスウィングとの相性〇

大慣性モーメントで重心距離が長く重心角が大きいドライバーは、プレーヤーがフェースを開いて閉じる動作で球をつかまえるよりも、この重心角の効果でフェースが自然と閉じようとする力を利用して球をつかまえるほうが適している

ドライバーの重心を
“キャッチ”しよう

解説/柳橋章徳

1985年生まれ。最先端スウィング理論の研究を怠らない新進気鋭のプロコーチ。現在は臼井麗香などのプロやトップアマを中心に指導している

ドライバーがこれほど重心を重要視しているならばプレーヤーにもその重心を有効に生かせるスウィングが求められるのではないか。プロコーチの柳橋章徳氏に話を聞いた。

「クラブの重心をコントロールすることは、いいスウィングをするために不可欠です。スライスや引っかけに悩んでいるアマチュアの多くはこれができていません。とくに最近のドライバーは重心が深く重心距離も長いので、重心を感じやすい反面、うまくコントロールできないととんでもない球が出てしまうこともあります」

クラブの重心をコントロールする大前提として、重心を「キャッチ」することが重要だと柳橋。これは重心を感じるとともに、それを自分の手の内に収めたまま管理下に置くことを意味する表現だという。

「まずクラブを持ってヘッドを顔の前くらいに上げたら、ヘッドの重心がシャフトの真上に来るようにクラブを回してください。重心角のぶん、フェースがかぶった状態が正解。この状態をキープできれば、フェースは開きも閉じもしません。これが『重心キャッチ』の第一歩で、重心のバランスを取った状態でクラブを動かすためにも、そしてコントロールできる範囲でこのバランスを崩すためにも必須の感覚です」

ここからフェースが閉じる方向に動けば、クラブにはフェースがさらに閉じようとするモーメントが生じ、反対に開く方向に動けばさらに開こうとするモーメントが生じる。そのとき手のひらに伝わるトルクを感じ、コントロールすることが、重心コントロールの大前提なのだ。

「そのうえでスウィング中にポイントとなるのは、切り返しでこの重心のバランスを上手に崩してやることです。具体的には、クラブを飛球線と反対方向に引っ張るように、クラブが背中側に倒れつつちょっとフェースが開く方向に動かします。スウィングは振り子運動なので、このアクションによってダウンスウィングでは自然と閉じる方向のモーメントが生じ、クラブの重心角の助けを借りて閉じながらインパクトを迎えます。この後半の動きは、プレーヤーが意識しなくても勝手に生じるので、大事なのは切り返しでの『バランスを崩す』アクションを起こすことと、クラブを引っ張り続けてスウィングすることです」

感覚的には、体の右サイドでクラブで右回りの円を描くこと。この感覚をつかめれば、クラブの重心特性を利用して球が勝手につかまるし、ヘッドも走って球も飛ぶ。まさに今どきドライバーの性能を生かすために必須の要素なのだ。

Step1
重心を感じながらクラブを持つ

シャフト軸の真上に重心をキープしたポジションがすべての基本。これをベースに、重心が左右に外れたときにそれを手のひらで感じられることが重要。目をつぶってクラブを回し、重心のズレによって生じるトルクでフェースの向きを感じられるようになろう

手のなかでシャフトのトルクを感じよう

シャフト軸線の真上から重心が左右にズレると、それに引っ張られてクラブが回転しようとするモーメントが生じる。このトルクを手のひらで感じることが大事だ

Step2
切り返しでクラブを“背中側”に倒そう

重心をキャッチしたトップから、切り返しでクラブを背中側に倒すように「右回り」を起こし、フェースが開く方向に重心のバランスを崩す。これをきっかけに、あとはクラブを引っ張り続けてスウィングできれば、重心角の力を借りてダウンスウィングではフェースが閉じる方向に戻ってくる。

Drill「両足そろえ打ち」
クラブを右サイドでさばく感覚をつかむ

切り返しでクラブの重心バランスを崩し、それが自然と戻ってくる感覚をつかむには、両足をそろえて球を打ってみよう。やや右に打ち出してつかまった球が出るように、体の右側でクラブで右回りの円を描くイメージがポイント

月刊ゴルフダイジェスト2025年6月号より