【ゴルフ野性塾】Vol.1801「硬いシャフトはスウィングを固める力を持つ」
古閑美保、上田桃子など数多くの名選手を輩出してきた坂田塾・塾長の坂田信弘が、読者の悩みに独自の視点から答える。
間違いなく
秋の空だ。
横に広がる銀色のうろこ雲。
風は微風。
福岡はけやき通りの15階、ベランダの小木の葉、揺れては休みを繰り返す。
10月2日、月曜日。
午前9時55分。
本稿執筆に入る前の20分近く、ベランダの椅子に座って女房が育てて来た樹木を眺めた。
自分で買ったか、人様から貰ったりした17本の小さな樹木である。赤坂のマンションに住んで24年、枯れた樹もあったと思うが、今日の朝、数えたら17本あった。
昨日の夕食はチキンシチュー。食事始めて3分過ぎた頃、女房殿、叫んだ。
「失敗したッ!!」
私は人様失敗した時、冷静に対応出来る習性を持つ。
母から教わった事だ。
父の遊郭通い、そして素人さんとの浮気バレた時、母の対応、妙に静かだった。
「大きく騒げば人様を傷つける。小さく騒げば傷つく人は少なくなる。どうせ、こっちは傷ついているんだ。後は相手次第だ。モメ事の後始末は後出しジャンケンが勝つに決ってる。戦争じゃない。殴り合いの喧嘩でもない。相手の下手な言い訳を聞くだけの事じゃないか」
母の生前、まだ元気な時、私の妹に語っていた言葉だった。
そして妹は結婚し、離婚した。
私も結婚し、浮気がバレた。
強烈な責めを受けた。責めの最中、母が妹に伝えたのと同じ教え、女房に教えてくれれば良かったのにと思った。
その女房殿、失敗したと叫んだ。
「何を失敗した? 塩、胡椒、砂糖の量を入れ間違えたのか? でもいつもと同じ味だけどな」
「違います。畑冷泉(はたれいせん)のお米にシチューかけちゃいけなかったのよ。畑のお米は日本で一番美味しいお米です。お米は水でしょ。畑の水で育ったお米は何もかけず、味付けせず、そのまま食べるのが最高の贅沢なのにチキンシチューかけちゃった」
「でも美味けりゃいいじゃないか。チキンシチューも喜んでいると思うぜ」
「畑のお米で作れば日本一のお酒も出来るけど狭い谷にお酒作れる程の沢山のお米は作れないわ。だから酒造所も酒蔵もないけど、勿体ない事したッ」
新米だった。
畑に住む女房の友が送ってくれた米だった。一年に一度しか手に入らない米だった。
女房殿、落ち込んだ。
シチューかけてない米を食べた。確かに美味かった。
香り上品だった。
何事も上品であればいい。
爽やかなれば尚の事、いい。
その女房殿、一夜の回復力は強い。
今、ベランダの樹に水をやっている。楽しそうだ。
今日の昼もチキンシチューを望むが、女房殿の気持ちや如何に。
シャフトが硬い9Iで練習せよ。
野性塾大濠公園18人集の前で語ったのは2週間前だった。
「第二のアドバイス。練習場とコースのスウィング、同じ様には振れないものだ。やっぱり、コースの方が力加減、振り加減を多く必要とするから、そこから生じるミスは多くなる。そのミスを少しでも少なくするには練習場での使用クラブ、コースラウンドよりも硬目のシャフトで打つべきと思う。
硬いシャフトはスウィングを固める力を持つ。軟らかいシャフトよりも遥かにだ。50年前、クラブメーカーと契約出来たプロは同じクラブヘッドに硬さ異なるシャフトを入れたクラブを3セット貰っていた。
パーマーやジャック・ニクラス、ゲーリー・プレーヤーは7セット。そのクラブヘッド、シャフト長、グリップの太さ、重量、同じでシャフトの硬さだけ小さく異なる7セットの中から己の感覚に合うクラブを選び出していたと聞く。プロゴルファーもクラブ作りの人も職人だった時代の話だ。
日本のプロは3セットの中から己のスウィングに合うクラブを選び、世界のトッププロは7セットの中から選んでいた訳だ。そして、シーズンオフの練習時に使うクラブはコースラウンドで使うクラブより少し硬目のシャフト装着のクラブを使っていたと聞く。
ラウンド時、力の入れ様、振り加減の違いがスウィングを乱し、リズム乱す原因を作る。アドレス時のボール位置のズレと方向のズレも原因の一つじゃある。ボール位置のズレ、方向のズレ、軟らかいシャフトよりは硬いシャフト使って打った時の方がミス球出る確率は高い。この75歳の爺様が一日300球、400球打って来て分った事だ。
練習場じゃ何事も鈍感になるし、コースラウンドじゃ敏感に、時には過敏反応するのがゴルフだと思う。同じ感覚と同じ感性で打つ事出来れば年間5つの優勝出来るだろうが、そんな人、世界で何人いるのかな。延べ人数、日本で男女合せて10人迄か。私には遠い世界だった。
私は練習場では4本のクラブで球を打つ。3番ユーティリティ、6アイアン、9アイアン、ロフト53度のウェッジの4本だ。その4本全部、コースで使うクラブよりは硬いシャフトを入れてある。NSプロ、日本シャフトだ。
力加減、振り加減でスウィング大きく変るゴルフよりは力加減、振り加減で変り様少ないゴルフが実戦的だと思う。プレッシャーに強いのが第一の有利、不安生じ難いのが第二の有利さだ。
アンタ方はクラブ1本でいい、硬さ異なるクラブ持つのは。3ウッドか、ユーティリティか、6アイアンか7アイアンか9アイアンの5本の中の1本だ。
9アイアンの倍の飛距離はドライバー。だから、ドライバー飛距離伸ばしたければ9アイアンの飛距離伸ばせばいいし、9アイアンのフルショットと同じフィーリングでドライバー打てばいいと思う。
私は9アイアン1本の硬きシャフトでの練習を勧める。そこから2本3本と硬さ異なるシャフトの使用に入っていけばいいだろう。まずは一から、一歩から、一本からだ。クラブ1本買うのに大枚の金は要らんだろう。ただ、今、使っているクラブと同じクラブヘッドであるべきだと思うぞ。そこをケチッちゃいかん。だから9アイアンは2本となる訳だ」
「私達でも変る事、出来るでしょうか?」
「出来る。私は変れない話はしない。私が変らせる事出来ないのは女房殿の私の女好きへの嫌悪だけだ。結婚48年、ここだけは変える事出来なかった。せめて女好きは病気、不治の病とでも思ってくれれば有難かったが、女房殿の嫌悪感、今も現役だ。お前さん方、注意しろよ。止めろとは申さぬがバレん様にやれ。バレたら運次第。女房殿の寛大さ、無関心があれば幸せだろうが、なければ私と同じ不幸だ」
「坂田プロ、温かいカフェラッテ、持って来ましょうか?」
「頼む。今日は喋り過ぎて喉が渇いた。やっぱしゴルフの話になると長くなる」
「私達には有難い事です。長くっても短くっても」
「それでは職場に帰れ。私はラッテ一杯飲んでから移動する」
一番若い者がラッテを運んで来た。
熱いラッテの季節になった。
今日10月2日の最高気温は26度か。
現在時、午後零時15分。
窓の外、いつの間にかうろこ雲消え、薄い青空だけの空になっていた。
体調良好です。
坂田信弘
昭和22年熊本生まれ。京大中退。50年プロ合格
週刊ゴルフダイジェスト2023年10月24日号より
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