【構えたらサッと打つ①】打ち急ぎにならない、考えすぎない時間のかけ方。渋野日向子のルーティンから学ぶ
きっかけは、ツアーカメラマンの「渋野プロ、シャッターを押そうとしたら、もう姿が消えていた」という証言。確かに、プレーが早い渋野日向子。リズムとテンポのよさも強さの秘訣か。構えてからの“時短”に注目、スコアアップへの道を探った。
まずは、渋野選手のコーチ、青木翔プロに聞いた。
青木 しぶこは、もともとプレーが早い選手です。そこに関して、僕が何かを言ったことはあまりないんです。なぜ早いかというと、余計なことを考えないから、考えることが少ないから。自分のやることに集中しているから、決断も早くできる。早くなることでリズムも生まれてきます。
対して、われわれアマチュアは、構えてからこそもじもじして、アレコレ考えてしまうことも多い。多くのゴルファーを教える今野一哉プロによると…
今野 道具を使って難しい作業をすることに関しては、ゴルフも、たとえば豆腐を食べることも同じです。お箸の入射角度をどのくらいにして、豆腐をどういうふうに持ち上げるかなど理屈を考えると、かえって難しくなって食べづらいでしょう。
今野 それより、パーッと口にかき込むと、テレビを観ながらでも案外上手くいく。食べるという目的に対して、合理的な動きを自分の感覚でやっているんです。考えずにサッと打つというのはこういう感じに近い。これって、ゴルフにはとても大事なことなんです。
しかし、「感覚を生かしてプレーしよう!」と言われるほど、「どうやるべきか」と深く考えて結局できない……。
今野 感覚を使える人は、そもそも方法なんて考えません。まずはそういうゴルフがあることを知ってほしい。上級者は“考えない”という方向に、自分を持っていけるということを理解して、練習したりプレーすることが必要です。その1つが、構えてからの“時短”にあると考えてください。
「考えることを1つに絞ると上手くいく」篠塚和典さん(元プロ野球選手、ベストスコア68)
野球では、考えすぎが良くない結果を招くケースはよくあります。
たとえば、送球のプレッシャー。野手が捕球してから球を投げる一連の動作は、見ているほうからすると一瞬かもしれませんが、その間に実は考えてしまうことがある。とくに、内野手で一塁手が大先輩だったりすると「いい球を送らなきゃ」などと意識してしまい、スムーズに体が動かなくなることがあります。私の場合は新人のころ、一塁手が王貞治さんだったんです!
そりゃあ、ぎこちない動きにもなりますよね(笑)。自分では気づいていませんでしたが、王さんが察してくれたようで「低い球ならいいよ。下に叩きつけるつもりで投げればOKだから」と、かなり早い時期に言ってくれた。すると、こちらは“低く”を意識するだけになって、気持ちも楽になり体も動くようになりました。
ゴルフでも共通するところがあって、私は1打で考えることは1つに絞ります。「テークバックはこう」とか「腕はこう」、あるいはマネジメント的なこともありますが、必ず1つだけ。それを構える前に頭のなかで確認して、構えたらもう打つだけです。いくつもポイントがあっても、プロじゃないんだし、全部はできませんよ(笑)。
だから私のゴルフはごくシンプル。ただ、先ほどの野球の送球も同じですが、体に動を“しみつかせる練習”は必要。野球で、すごく早い連続ノックやティバッティングを見たことがあるかと思いますが、あれこそしみ込ませる練習なんです。それでまず基盤となる技術を身につけ自然と体が動くようにする。その技術を持っていると不安がなくなりメンタルも安定する。周囲がベテランばかりでも硬くならず自分のプレーができるようになる。
ゴルフでいう、構えたら“サッと打つ”につながっているように思います。(篠塚和典)
考えるのは『シンキングボックス』で!
渋野選手のプレーが早いのは、ソフトボールの経験も関係するのではないかと今野プロ。
今野 野球のバッターは、“動から動”の動きのなかでプレーしますよね。反射的な動きと言ってもいい。逆にゴルフは“静から動”の動きが多くなりがち。すると、やはり体が固まるんです。これを“動から動”にするには、構えてから体を止めて、あまり時間をかけないほうがいい。
また、ボールを打つまでの時間を2つに分けて考えてみるといいという。
今野 ボールにクラブをセットする前を『シンキングボックス』、した後の時間を『ヒッティングボックス』と分けます。プランを決めたら、実行するのは早いほうがいい。それに、“動から動”に移れるラインは、一般的に、構えて3秒くらい。構えて4秒もするともう、“静”になるんです。
渋野日向子の『シンキングボックス』
渋野日向子の『ヒッティングボックス』
『ヒッティングボックス』に入ったらインパクトまで6秒
今野 試しに、構えて1秒で打つことから始め、1秒ずつ増やし10秒まで打ってみましょう。5秒から先は案外長く、体が固まるでしょう(笑)。腕に力みが出てきたり、リズムが狂ってオーバースウィングになったり、フィニッシュもとれなかったり。ミスショットにつながるんです。でも、こうすることで、自分に適正な『ヒッティングボックス』の時間も見つけていけるんですよ。
「『ヒッティングボックス』で考えると体が固まるす」(今野)
プロや上級者は、始動のための“ワッグル”を取り入れており、これをきちんとルーティンにして、“動”の要素を作る選手が多い。
今野 これもヒッティングボックスの時間に含まれるので、それなりの時間にはなります。渋野選手もですが、他の選手と比べるとやはり短い。そして、渋野選手のプレーが早いのは、シンキングボックスも短いからでしょう。
今野 2つのボックスがどちらも短い例がフィル・ミケルソンや近藤智弘選手など。逆にタイガーやデシャンボーは、シンキングボックスが長い。だから、スロープレーのイメージもある。でも、ヒッティングボックスは案外短いんですよ。
プロにとって、時間の使い方は、戦略の1つでもあるという。
今野 相手のプレーのリズムをズラしたり、流れを変えたり。駆け引きですよね。早く使ったり遅く使ったり。熟練度が増すほど、そういうことを行いますよね。(つづく)
PHOTO/Hiroyuki Okazawa、Tsukasa Kobayashi
週刊GD2019年10月8日号より
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