【ゴルフ野性塾】Vol.1767「アプローチの勘は右手に宿る」
古閑美保、上田桃子など数多くの名選手を輩出してきた坂田塾・塾長の坂田信弘が、読者の悩みに独自の視点から答える。
今日1月19日。
本稿、熊本空港CC
食堂にて書いております。
現在時午後0時55分。
テレビ熊本「坂田信弘のゴルフ理論」の収録前の執筆である。
昼食を取る方18名。
ゴルフやられる方々、ゴルフ場への戻り、顕著と聞く。
コロナの8波あれどもゴルフ場での感染は少ないのだろう。
皆さん、楽しく食事し、会話しておられる。
だが、テーブルの上、4つのプラスチックの仕切り板があり、食事終えた後の片付けも消毒第一の警戒感漂っており、これ迄通りだ。
午後1時過ぎた。
腹、減った。肉うどん食べるか、チャンポンあるのかな。焼きそばでもいいか。
収録開始は午後3時。
さあ、これから何しよう。食事終えた後、6アイアンでも打つか。しかし、練習場は遠い。ならばパット練習でもしますか。
体調良好です。
右手の指3本を意識して打て。
アプローチだけが超のつくド下手男です。距離も方向もバラバラで、自己嫌悪を超えて笑ってしまうほどです。グリーンを外しちゃいけないと考え過ぎて、ますます萎縮したゴルフにハマってしまっています。塾長、ご教授、お願いします。(東京都・佐藤陵介・39歳・ゴルフ歴8年・平均スコア92)
何事も不満と不安を無くせば自信生れるものだ。
しかし、それが出来ないのが凡人であり、私もゴルフ始めて51年間、凡人で過して来た。
努力はした。工夫も取り入れた。人様から学ぶ事も多かった。
ただ、それ等が己の身に付いたかと申せば否であった。
なれど、身に付かずとも疲れを感じはしなかった。
だから75歳から76歳へと向う途中、好奇心と向上心持ちてゴルフクラブを握っている。
アプローチ、右手のどの指に力と勘を入れて打つかだ。
遠い距離なら身体に近い指に力と勘を入れて打つべきと思う。
何故なら指一本の距離3センチ程の距離なれど、身体に近い指程、ダウンスウィング時のタメが出来るからである。
そして、身体に一番遠い人差し指がタメを作り難い指となっていくのです。
右小指はオーバーラッピングかインターロッキングで小指の力そのものを削った握りしているので小指の力と勘は使えぬが、薬指、中指、人差し指の3本には力と勘を入れた使い様が出来る筈。
その3本の指の内、自分の身体に一番近い薬指で打てば距離は出ます。
だから30ヤードのアプローチ、薬指に力と勘を入れて打つ事を勧める。
20ヤードであれば中指への力と勘の入れ様がいい。
10ヤードと短い距離なら人差し指だけ。
体に一番遠い人差し指に力と勘を入れて打つと右手首の角度が早く解ける。
薬指は3本の力と勘の指使いの中で一番遅く解ける。
この事、練習場で9球打って貰えば納得して貰えると思う。
薬指で3球、中指で3球、人差し指で3球の9球。
身体に近い指程、ダウンスウィング時のタメは出来るのです。
身体に遠い指程、タメの解きは早まる。
この事、ゴルフ始めて最初に気付いた事だった。
24歳になったばかりの時であり、ゴルフの知識も経験もゼロであり、知識と経験、そして先入観が生む固定感持たぬが故に簡単に気付く事は出来た。
5年もゴルフやっていれば気付く事、出来なかったと思う。
今は勉学の徒が貰った少ない幸運だったと考える。
同じスウィング、同じ振りの大きさで球9球打って貰う。
薬指に力と勘と意識を入れて3球打つ。その距離、何ヤード飛んでいるかは分る。
次に中指に力と勘と意識を入れての3球打ちだ。そして最後に人差し指に力と勘と意識を入れて打って貰いたい。
常識ならば人差し指に力を入れて打った方が飛距離出せると思われようがそうじゃない。
薬指で打った時が一番飛距離出るものだった。球を浮かせたい時、バンカー越えとかウォーターハザード越えの時なれど、この時は指一本への力と勘と意識の入れ様は好ましくない結果を生むものだ。
指一本の打ち様だと出る球は低くなる。球を上げたい時は右の手の薬指、中指、人差し指の3本に均一の力、勘、意識を入れるべきと考える。
それだけで球は浮く。
ベアグラウンド、薄い芝、沈み気味の芝の時も指3本で打つが最善。そして、左手への意識は要りません。あく迄も右手だけで打つ意識あれば充分と思う。
私は13本迄のクラブは下手じゃなかった。14本目、パターだけが下手だった。
ミスを怖れた。外すとゆう予期不安が強かった。
ミスを怖れると不安は強まる。
不安は身体の動きを硬くする。
分っていても脱する事が出来なかった。そして疲れた。
38歳の時、ペンを持った。
ツアー参戦だけで過した期間は7年。その後はツアー参戦と自戦記、観戦記、そしてエッセイの執筆が始まり、漫画原作も始まった。
今、私の記憶、弱まってはいない。逆に昔を想い出す機会、増えている様な気はします。
杉原輝雄さんの言葉も想い出し、大濠公園のスターバックスで7人の40歳からの70歳迄の男衆に話聞かせもした。
関西弁で語られたが、今は私の言葉で話します。
「俺はな、中学卒業して茨木CCに入れて貰ったが仕事は洗球場だった。仕事中、暇もあったが練習場へ行くには時間がなかった。洗球場のすぐ近くにグリーンの芝を養生するナセリがあった。俺はそこでパターの練習をした。俺のゴルフは転がしだ。今、俺の夢と目標はドライバーで50ヤード転がる球を打つ事だ。平らなフェアウェイや打ち下ろしのホールじゃないぞ。打ち上げのホールで50ヤード転がす事だ。俺は筋肉の付き易い体じゃない。脂肪も付き難い体だ。だから体のでかい奴に飛距離で勝てはしないが、転がり50ヤードであれば連中に飛距離、負けはしないだろう。ま、俺の夢だ。しかし、坂田君、君はいい体してるし、頭もいいと聞いているし、それなのにどうしてゴルフが下手なのだ。ひょっとして恵まれ過ぎたか」
8月下旬の福岡、芥屋GCのKBCオーガスタ、雨と雷で初日のラウンドが中止になり、風呂場に行ったら杉原さんが体を洗われていた。
私は背中流しますと言って杉原さんの背を洗った。
筋肉の少ない、筋肉の弾力のない背中だった。
その時は杉原さんの頭にお湯ぶっかけてやろうと思ったが、私は思っても行動と言葉に自制利く人間であり、その時は「そうなんですよ」の一言で話を切った。その後、杉原さんと話す機会は増えた。
今、どの様な話だったのか、記憶定かではない。その内、想い出すであろう。
大濠公園で私を待つ野郎共が私への断りなく「野性塾大濠公園」の名を付けたと聞いた。
好きにやりゃいい。
私は大濠公園への散歩がてら、コーヒー飲みながら30分から40分、連中の前で話するだけだ。
メモは取らせない。色即是空、一期一会の30分である。
悩みを相談された事がある。
「まだ、悩み不足。もっと悩め。悩めばその悩み、顔に出る。出る迄、悩め。その時、改めて聞こう」
「分りました。悩みます」と野郎は呟いた。悩み続ける力あれば人は背を丸めはしないだろう。
人、下を向いたら体の疲れと気持ちの疲れを知ると思う。
下を向くな。前を見て過せと願う。
以上です。
坂田信弘
昭和22年熊本生まれ。京大中退。50年プロ合格
週刊ゴルフダイジェスト2023年2月7日号より