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「廃プラスチックから靴を」「売上金で森を」ゴルフ界のサステナビリティ活動

「持続可能性」(サステナビリティ)という言葉が叫ばれて久しいが、ゴルフ界でもその取り組みは進んでいる。今回は中でも力を入れているアディダスゴルフとキャロウェイゴルフの2社に、サステナビリティへの取り組みを聞いてみた。

アディダスゴルフ

“アップサイクル”で廃プラを最新シューズに

アディダス社は2024年までにアパレルやシューズなどの商品にバージンプラスチック原料の使用を中止し、再生品に切り替えることを目標としているが「実は現状、ゴルフの分野ではアパレル、シューズなどの9割近くはすでに再生品原料に切り替わっています」と、アディダスゴルフの田中温子氏。さらに「2050年までにはクライメートニュートラル(気候中立)も目指しています」とのこと。

クライメートニュートラルとは、聞き慣れない言葉かもしれないが、人や企業などが日常生活や製造工程で排出する温室効果ガスを、その吸収量などを差し引いて総排出量を算出し、実質ゼロにするという環境保護への取り組みのこと。最近、聞き慣れてきたカーボンニュートラルとほぼ同義だが、カーボンニュートラルが二酸化炭素などのカーボンに焦点を当てていることに対し、クライメートニュートラルはメタンやフロンガスなどの温室効果ガスを含んでいる。

大目標を掲げ、同社ではまず、2019年6月、プラスチックをアップサイクルして作った世界初のゴルフシューズ「ツアー360 XT PARLEY」を発売。一般的にあった、リサイクル素材製品の“格落ち”イメージを大きく覆し、高いグリップ性、ホールド性、安定性などの機能性に、アディダスならではの高いデザイン性も加わり、完成度の高さでゴルフ界を驚かせた。その驚きは、リサイクル素材を比較的利用しやすいと思われるアパレルだけでなく、靴にも使用したことに対する部分が大きい。

「リサイクル素材だからという妥協はなく、バージンプラスチックを使用した素材同様の頑丈さでありストレッチ性であり……すべての実現のため、テストを繰り返してできた素材であり、商品でした」と田中氏。同社契約プロである、ザンダー・シャウフェレやコリン・モリカワらも、リサイクル素材使用モデルをもちろんテスト。そもそもアディダス社の掲げる理念に賛同しているプロたちは、アパレルに関しては「リサイクル素材だと言われなければわからないね」と驚き、靴にはおのおののこだわりがあり試合で履くモデルは限られるが、プライベートではリサイクル素材が使用されたシューズもよく履いているという。

同社では「ツアー360 XT PARLEY」の後も2021年夏に、現在市場を席巻中の「コードカオス」の21年モデル「コードカオス21」に廃プラスチックをアップサイクルした素材を使用。さらに、アッパーに染料を一切使用しない「NO-DYE」コレクションを発売。実は、染料を使用しないことで製造工程での水とエネルギー消費量を従来と比較して60%節約することができるという。リサイクル素材を使用するだけでなく、染料を使わないという環境保全への新しいアプローチと言える。NO-DYEの商品は、真っ白ではないアイボリーのような色。これが染める前の素材の色で、実は、真っ白のシューズには白い染料が使用されているのだ。

また、今年8月にフルモデルチェンジした「コードカオス」の新バージョン「コードカオス22」もリサイクル素材を使用。このモデルにもアッパーに染料を使用しないリミテッドエディションを加えるなど、さらなる進化を遂げている。

そして、大きな理念を掲げながらも、まず「隗(かい)より始めよ」とばかりに社内での行動を徹底。社員は、コンビニなどで買い物をしてもレジ袋はもらわずマイバッグを使用、ペットボトル飲料も買わない(社内に設置されている自販機にペットボトル飲料はない)、クリアファイルも使わない……などなど。「大変そう」と思うかもしれないが「“慣れ”です」と田中氏はあっさり。それが習慣になれば、ちっとも不便とは感じないそう。これら“小さなこと”の積み重ねが、バージンプラスチックゼロに、さらにクライメートニュートラルにつながる。

「お手並み拝見」ではなく、私たちみんなで、できることから始めよう。

アディダスゴルフのサステナブルなシューズHISTORY

2019年6月
「ツアー360 XT PARLEY」

「アップサイクル」というフレーズをゴルフ界に知らしめたモデル

2021年6・7月
「コードカオス21」

話題の「コードカオス」からもサステナブルなモデルが登場した

2021年8月
「NO-DYE コレクション」

アッパーに環境に影響を及ぼす染料を一切使わず、素材本来の色を生かした

2022年8月
「コードカオス22リミテッド・エディション」

今夏デビューの最新モデルにもリサイクル素材&染料に配慮したモデルがある

キャロウェイゴルフ

“森の多様性”復活に貢献

「ALL FOR GREEN~“外遊び”の経験を次世代に」をコンセプトにサステナビリティ活動を推進しているのがキャロウェイゴルフ。その一環として今年2月から音楽家の坂本龍一氏が代表を務める森林保全団体、一般社団法人more trees(モア・トゥリーズ)とパートナーシップを締結。“森の多様性”を取り戻すため、同社の売上金の一部を寄付することで鳥取県智頭町の森林地帯の植林や獣害対策などに貢献している。

この「パートナーシップ」という部分の意味は実は大きい。同社の喜田慎氏は「社内外への情報発信の強化、それによる理解者・協力者を増やしていくことが課題だと感じています。サステナブル素材を採用した製品開発や製品へ使用するプラスチックの削減などを推進しているなか、これらの実現のためには社内関係者に協力してもらう必要があります」と話す。そう、一人では、一企業では難しいことも、パートナーシップ、コラボレーションでパワーは足し算でなく掛け算になる。

キャロウェイゴルフの場合、前述の「more trees」だけでなく、アパレルに関しては「BRING」とコラボすることで、リサイクルが可能になった。「BRING」とは、古着を回収しケミカルリサイクルするプロジェクト。着なくなった服を回収参加企業の店頭に持ち込みボックスに入れると、ポリエステルなら新しい服の原料になり、綿はバイオ燃料になる。

「キャロウェイ」「トラヴィスマシュー」「ジャック・ウルフスキン」の全国直営20店舗以上に設置されている衣料品回収ボックス

キャロウェイゴルフのアパレルの“看板素材”とも言うべき「スターストレッチ」も、2022秋冬から、リサイクルポリエステルを使用した「スターストレッチeco」に進化。リサイクル原料はペットボトルだが、なかでも日本で回収されたペットボトルを使用しているのが特徴だ。しかも糸に仕立てるのも日本の工場。ジャパンファブリックにこだわることで、安心感を加えたエコにつながる。もちろん、こちらもリサイクル素材だからといって、デザインや機能性への妥協はナシ。着用プロたちの意識も高く、西村優菜は「エコへの思いは大切ですし、それを自分が着ているんだとテンションが上がる」と話す。

そのほか「全国の大学に対し、廃棄予定のゴルフクラブセットを提供しています」と喜田氏。若いゴルファーが増加中ではあるものの、以前強い「ゴルフを始めるにはハードルが高い」問題解決の手助けにもなるだろう。また、埼玉県岩槻市には2019年「Callaway Farm」を開園。障がいのある人を雇用、できた野菜は社員にも販売され健康増進に一役買う。さらには、飢えに苦しむ子どもに給食を届ける取り組みまで行うなど、広がる活動は、これこそまる“森”のよう。

“究極の外遊び”とも言えるゴルフを支える企業が森のごとく活動の枝葉を広げているとはゴルファーとしてうれしくもあり、誇らしくもある。

ゴルフ界のサステナビリティ活動

◆TSIホールディングス
過剰在庫を抑制再生素材のウェアも

パーリーゲイツやマスターバニーエディションなどの人気ブランドを展開する会社。この2ブランドでは、過剰な生産を抑制し、適正な在庫を保つため店頭セールを行わないと発表。また、今夏の展示会でペットボトルをリサイクルした繊維「ECO BLUE®」を使用した日本初のゴルフウェアもお目見えした。

◆デサント
ボタンや接着剤など副資材にもこだわり
サステナビリティを考慮した取り組みである「RE: DESCENTE(リ:デサント)」を展開中。「RE: DESCENTE SEED(リ:デサント シード)」「RE: DESCENTE BIRTH(リ:デサント バース)」の2つの商品カテゴリーを柱に、シードシリーズでは天然繊維である和紙を主原料としたアパレルも登場。自然に分解される「生分解性」をキーワードに、素材だけでなくボタンや衣服用接着剤などの副資材も生分解性があるものにこだわっている。

◆プーマ
ロンドンでイベント。Z世代へアピールも
自社製品の生産過程で生まれる廃棄物やその他のリサイクル素材を使用したシューズやアパレル、アクセサリーのコレクション「RE.GEN(リ ジェン)」を昨年から販売中。また、サステナビリティについて若い世代へ訴えようと、9月にはロンドンで大規模なイベントを開催。参加者とブランドが直接コミュニケーションを取った。

◆西武・プリンスホテルズワールドワイド
「プラストロー、ビニール袋の提供を2019年に終了」
グループビジョンのひとつとして「常に、自然環境、地球環境への配慮を忘れません」と宣言し、直営レストラン、宴会場でプラスチック製ストローの廃止(2019年1月)、主要ゴルフ場におけるクラブハウス内の脱衣所での使い捨てビニール袋の提供終了(同6月)など、プラスチックごみの削減への取組みにいち早く着手。照明器のLED化も推進。

週刊ゴルフダイジェスト2022年10月25日号より