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【名手のアイアン物語】Vol.1「ヒール側のソールは削らない」タイガー・ウッズがこだわり続ける“乗り感”とは?

クラブの進化は日進月歩だが、アイアンの世界はどうだろう? いまだに伝統的なマッスルバックがツアーの主役を張っている。それはなぜか? タイガー・ウッズのアイアンからその秘密を推察してみたい。

TEXT/Yoshiaki Takanashi

アイアンは一貫してマッスルバックタイプを使用してきたタイガー。アイアンの弾道を自在に操ることで幾多のミラクルを演出してきた

フェースに“乗る”感覚を求めている

タイガー・ウッズは現在使用している「TOUR B XS」ボールの改良点について問われた時、「強いて言うなら“フェースへの乗り感”をあげてほしい」とリクエストしたという。インパクト直後にボールが一定時間フェース面にホールドされることで、操作しやすい“間”を作れる。一般アマチュアが好む“弾き感”とは逆の、ボールをさらにひと押しする感覚をタイガーはボールに求めているのだ。

フェースにしっかりとボールが乗る状態はボールの改良だけではままならない。基本的にはインパクト後も振り抜き(打ち出し)方向に対してヘッドがスクエアに動くことで、しっかりと“乗る”状態を生み出せる。ナイキゴルフでタイガーのクラブを開発していたトム・スタイツ氏が、その当時こんなことを言っていた。

「タイガーとはいつもボールを打った後のことばかり話している。アイアンのヘッドが土の中でどう動けばいいのか? それにはソールのあり方がとても大事なんだ」

タイガーのアイアンの特徴は、ややフラットでヒール側を丸く削り落とさないソールにある。タイガーは抜けを最優先した流行りの丸みの強いものではなく、ヒール部も含めた“地面への接地抵抗”を巧みに使い、地中でのヘッドの挙動を制御しようとしていたという。長年、タイガーのアイアンを削ってきたマイク・テーラー氏(現・アーティザンゴルフ)も、ナイキ時代に行った筆者のインタビューにこう答えている。


「ヒールを落とさないソール形状、まさにそれがタイガーモデルの大きなポイントだ。過去にそこにこだわったプレーヤーは2人いる。ホーガンとニクラスだ」

アイアンのソール形状はウェッジのバウンス効果と同じで、ヘッドを地面に潜る方向から振り抜き方向に変換する役割を果たす。そして、目標に対してスクエアに動こうとすることが、フェースへの乗り感を決めるのだ。

タイガーの不変のこだわり

「ヒール側のソールは削らず残す」

ロフト“50度”のPWにアイアンの本分が見える

ではなぜ、タイガーはそれほどまでにボールのフェースへの乗り感を重視するのか? それはその時間が打ち出されるボールのバックスピン量を決定するからである。アイアンショットにおける十分なバックスピンは、ボールをカップ付近に止める原動力になるだけでなく、左右に曲げる、あるいは低く打つといった弾道コントロールの生命線となる。タイガーは、ウェッジだけでなくアイアンにも自在なスピン性能を求め続けてきたのである。

この30年、ゴルフクラブの進化は飛距離アップ(スピンレス)のためにあったと言っても過言ではないが、タイガーのアイアンチョイスはまるで逆だ。飛び過ぎを嫌い、コントロールできる十分なバックスピンをロングアイアンにも求め続けた。アイアンとは遠くに飛ばすモノではなく、ピンの近くを確実に狙うものであると示してきたのである。

タイガー自身がアイアンセッティングの要と位置付けるPWのロフトは常に50度。それにつながるウェッジも56度と60度で変わらない。ゴルフゲームの本質は飛距離アップではなく、飛距離コントロールにある。タイガーのパーソナルアイアンを見ると、いつもそのことに気付かされる。

タイガーの打痕がヒント
タングステンを使って打点と重心を近づけた

乗り感を統一するため
あえてのコンボアイアン

95年のデビュー当時のアイアンはミズノMP29とMP14のコンボ。これもロングアイアン(#2~#4)をオフセットの少ないMP29にすることで、フェースへの乗り感を全番手統一するため。ロングアイアンをあえて別モデルにした理由だ

タイガー・ウッズのアイアン遍歴

2011年当時のタイガーのアイアン、VRプロフォージド

月刊ゴルフダイジェスト2022年9月号より