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【世界基準を追いかけろSP】<後編>10年後のパターはどうなっている?

スパイダー開発者のビル・プライスと新進気鋭のプロコーチ3人の対談の後編。今週のテーマは、「未来のパター」。最先端で研究している彼らが、パターに求める機能とは?

PHOTO/Tadashi Anezaki TEXT/Daisei Sugawara

(左から)橋本真和……堀琴音や淺井咲希らを教える、日本では珍しいパット専門コーチ。科学的な根拠に基づいたレッスンがおなじみ
ビル・プライス……テーラーメイドゴルフのパター&ウェッジ開発者。歴代のスパイダーやトラスパター、ミルドグラインドウェッジなど数多くの名器を生み出してきた。自身も大のゴルフ好きで、シングルハンディ
目澤秀憲……日大ゴルフ部を経てプロコーチに。TPIレベル3を取得。松山英樹、河本結、有村智恵らを教えるプロコーチ。22年レッスン・オブ・ザ・イヤー受賞
黒宮幹仁……日大ゴルフ部の目澤のひとつ先輩。12年に関東学生で優勝。現在はコーチとして、岩﨑亜久竜、淺井咲希、宮田成華らを指導

前回のお話はこちら

「自分」を知らないと最適パターは選べない

―――パッティングの技術面から「理想のパター像」を探りたいプライス氏と、パターの性能面から「入るパットの極意」を導き出したいコーチ陣。両者の探求心のぶつかり合いは続く。

ビル 理想のパターを考えるときに、誰にでもぴったり合う「たったひとつ」のパターはあり得ないと、私は思っています。ゴルファーが100人いれば、それぞれにとって理想のパターは100種類あるはず。では、どうやってそれを選ぶか。私がパター選び( フィッティング)でいちばん大事だと考えているのは、そのゴルファーが「誰か」ということ(Who are you?)です。

橋本 つまり、その人の好みやクセということですね。フェースが開いているほうが構えやすいとか、どのくらいのアーク(円弧)を描いてストロークするのかとか。

黒宮 「利き目」によっても、構え方やインパクトポジションが変わりますからね。それによって使いやすいパターも違ってくる。

ビル 非常にいい指摘だと思います。私が関わったトッププロの中では、ジェイソン(・デイ)だけ、利き目が左なんです。左が利き目の人の場合、左目はボールよりわずかでも「後ろ」にセットする(左目の真下よりボールが目標側にある)ことが大事です。そうしないと(ボール位置が左目より飛球線後方側にあると)、ターゲットより右を向いて構えてしまう傾向があるからです。実は、私も利き目が左なので、ボール位置には神経質にならざるを得ません。しかし、ゴルファーの中には、自分の利き目がどちらなのか、知らない人もたくさんいるんです。


目澤 松山(英樹)プロが、TPI(タイトリストパフォーマンス研究所)を訪問したときに、目の機能についていろいろなテストをした結果、パッティングラインとか、フェースのスクエアだとかを、3Dで正確に把握する能力が優れていることがわかったんです。同等の能力を持っているのは、タイガー(・ウッズ)とか、ごく少数みたいで。ただ、逆にそういう能力があることで、パターのサイトラインとか、ボールに引いた線とかが「邪魔になる」こともあるようでした。

ビル ボールにラインを描くのは、いいことなのか、あまり意味がないのか、私もスポーツ科学の専門家に聞いたことがあります。それによると、ゴルファーには「リニアタイプ」(直線的思考派)と、「ノンリニアタイプ」(感覚的思考派)がいて、リニアタイプにはボールのラインが非常に有効ですが、ノンリニアタイプにはラインはあまり効果的でなく、とくに2重ラインはむしろアライメントにマイナスの影響が出るとのことでした。

橋本 パターヘッドのサイトラインも、長く引いてあるほうがいい人と、ごく短いか、あるいはないほうがいい人に分かれそうです。

将来的にサイトラインもオーダーメイドになる

サイトラインは短いほうが構えやすい人もいる。
好みの長さに調整できれば最高だ

パター自体が打点のクセに合わせてくれる!?

目澤 ビルさんが考える「10年後のパター」は、どんなものですか?

ビル おそらく、パターのフィッティングはAI(人工知能)が行っているでしょうね。いくつかの情報をインプットすると、その人にとって最適なインパクトロケーション(インパクト時の体やパター各部の位置)が瞬時に割り出され、そのために最適なヘッドシェイプやホーゼル型、ロフトやライ角、長さなどを、AIが教えてくれるイメージです。それによって、簡単に「5打」くらい縮められるようになるかもしれません。コーチのみなさんは、どんなパターがあればいいと思いますか?

黒宮 私の経験上、打点をトウ側に外してしまう人が圧倒的に多いので、その人の打点のクセに合わせてCG(重心点)を自由に動かせるパターがあったらすごいと思います。

ビル 確かに、それはいいですね。私たちが行った大規模調査の結果でも、約66%の人がトウ‐ヒールのセンターより「トウ側」でヒットしているという結果が出ています。そもそも、ヘッド単体ではCGがほぼトウ-ヒールのセンターになりますが、それをシャフトに装着するとパター全体としてのCGは、トウ‐ヒールのセンターより「ヒール側」になるんです(主にホーゼルの重量による)。だから、たとえばわずか1ミリ、センターよりトウ側に打点がずれたとしても、芯からはさらに外れることになる。トウヒットしたボールは、ターゲットより右に打ち出されやすく、ショートしやすくなるのは、前回お話しした通りです。

目澤 プロで、意図的にヒール側でヒットしているプレーヤーはいるのでしょうか。

ビル タイガーがそうです。非常にレアなケースですね。彼は約4ミリ、センターよりヒール側でヒットしています。つまり、彼はパターの本当の芯がある場所を知っていて、毎回、そこで打っているということですね。

黒宮 こういうのはどうでしょうか。使うボールによって、違う硬さのインサートに取り替えられるパターというのは?

ビル それもいいですね。20年くらい前から、ボールはどんどん硬くなる時代が続いたので、インサートにはやわらかい素材が使われてきました。ここ5年くらいは、逆にボールがまたどんどんソフトになっているので、それに合わせたインサートは必要だと思います。以前、ブライソン・デシャンボーが「スパイダー」を使っていた時期があって、そのときに彼から「ルール上いちばんソフトなインサートにしてほしい」という要望がありました。彼は、ボールのディンプルが打ち出し方向に影響を及ぼす可能性を気にしたんです。だから、できるだけソフトなインサートで、インパクト時の「球もち」をよくして、ディンプルのどの角が当たっても影響が出ないようにしたかった。やはり彼はかなり独特です。

橋本 グリップのフィッティングも、将来的には必要になってくるんじゃないでしょうか。グリップの太さは「クロージャーレート」(Rate of closure. インパクトゾーンで一定時間経過、あるいはヘッドの一定移動距離において、フェースがどのくらい閉じるかを測定した数値)に関連があります。つまり、グリップの太さによって、ローテーションの度合いを最適化できる可能性があるということです。

ビル その意見には賛成です。

目澤 グリップの重さを利用して、ストロークを調節することもできそうです。手元を動かしすぎてしまう人は、重いグリップを使うとそれを抑えられるかもしれません。

橋本 塗装を工夫して、ルール上はNGな「四角いシャフト」を、視覚的に実現できたら、スクエア感がグッと増すと思いますね。

ビル みなさん、たくさんのアイデアをお持ちですね。いくつかは近い将来、必ず実現するとお約束しますよ。

ボールは「目の真下」が最適とは限らない

PGAツアーでは目線の外にボールを置くプレーヤーが多い。利き目でもボール位置は変わる

週刊ゴルフダイジェスト2022年7月12日号より