渋野日向子も! もはやアイアンは4本でいい? ストロングロフト時代のクラブセッティング
14本のクラブセッティングは、時代とともに移り変わってきたが、近年、アイアンのストロングロフト化の影響もあり、プロの間でも急激にセッティングが変化している。そこで改めて、クラブセッティングをどう考えればいいか、専門家に聞いてみた。
TEXT/Kosuke Suzuki PHOTO/Tadashi Anezaki、Hiroyuki Okazawa、Hiroyuki Tanaka、Tomoya Nomura THANKS/マグレガーCC、相模湖CC
解説/松吉宗之
クラブ設計家。フォーティーンで故・竹林隆光氏のもとでクラブ設計を学び、2018年に「Juicy」を設立した
アイアンが担う領域が狭くなっている
みなさんのキャディバッグには、アイアンが何本入っているだろうか。
「5番はもう打てないから抜いた」と、6番~PWの5本という人がいる一方で、コースではほとんど使わない4番までがバッグに入っていて、7本という人もまだまだ多いだろう。実際は5番~PWの6本という人がもっとも多いと思われるが、どうやらこういった、アイアンが6~7本を占める「普通」と思われていたクラブセッティングは、過去のものとなりそうだ。
というのも、今年スタンレーレディスで復活優勝を遂げ、さらに樋口久子三菱電機レディスで今季2勝目を挙げた渋野日向子選手のキャディバッグを覗いてみると、なんとアイアンが6番~9番の4本だけなのだ。そしてFW、UTが各2本、PW代わりの46度を含め、ウェッジが4本というかなり斬新なセッティングだった。渋野選手だけでなく、こういったウッド類が多いセッティングは女子プロを中心にツアーの現場でもどんどん増えているし、ウェッジが4本入ったセッティングは米PGAツアーでも主流になりつつある。
渋野日向子もアイアン4本
5Wはなく、FWは3W、7Wの2本。UTが2本でアイアンは6~9番の4本。PWの代わりに46度と、52、54、58度の計4本のウェッジが入っている。一見飛ばし屋のセッティングとは思えない個性的なラインナップ
渋野選手のような「アイアン4本」のセッティングはアマチュアにとって今後のスタンダードになるだろうと話すのは、クラブメーカー「ジューシー」代表でクラブ設計家でもある松吉宗之さんだ。
「アイアンのストロングロフト化が進むいま、従来のようにドライバーと5~7本のアイアンセットをベースに、空いているところをFW・UTとウェッジで埋めて距離やロフトの階段を作るセッティングは実用性を失いつつあります。アマチュアにとっては、7番~PWの4本程度のアイアンをベースに、ウッド類とウェッジ類は各4本投入し、(ドライバーとパター以外の)12本を構成することを基本形態として考えるのがおすすめです」
松吉さんによると、ヘッドスピード40㎧前後のアマチュアにとって、ストロングロフトアイアンでは、4、5番はもちろん、場合によっては6番でさえ球が上がり切らないということもある。一方でPWは、機能面でも使用機会としてもウェッジ的要因を失いアイアン化が進んでいる。そうなると、本来アイアンが持っている、グリーンを狙うクラブとして「距離を刻む」機能を担うのは、7番~PWの4本程度のアイアンだけになるだろうというのだ。
「アイアンで十分なキャリーと高さが出せない長い距離の領域は、狙った距離を刻むというよりもグリーン周りにやさしく運ぶことが目的となります。これがFWやUTの役割。そしてフルショットだけでなく距離の加減や弾道の高低をコントロールしてピンを狙う役割を担うのがウェッジ。これらがアイアンの上下でそれぞれの役割を果たすことで、初めて実戦的な12本が整うと言ってよいでしょう。これらは、プレーヤーのヘッドスピードや腕前、使っているクラブなどによってもちろん本数が増減します。ヘッドスピードが速い人やロフトの寝たアイアンを使っている人なら、6番や5番アイアンでも距離を刻めますし、超ストロングロフトアイアンを使う人なら、PWのさらに下までアイアン的な用法になるかもしれません。いずれにせよこれからは、この3つのグループをどのクラブにどう分担させるかでクラブセッティングを考える時代になっていくと思います」
3つのグループに分けて考える時代がやってきた!
【FW&UT】
やさしく「運ぶ」クラブ
FWやUTのようにアイアンよりも深・低重心で球が上がりやすく飛距離を出しやすいクラブは、グリーンに球を止めるには技術が必要だがグリーン周りまでやさしくボールを運ぶことには長けている。アイアンのロフトが立つほど重要性が増すカテゴリーだ
【アイアン】
距離を「刻む」クラブ
アイアンは、番手ごとに10~15ヤードの間隔で距離を刻んで分担し、グリーンを狙うクラブ。フルショットで使用し、スピンの入った球で必要なキャリーを出し、グリーンにボールを止める能力が求められる。これを満たさないものは、アイアンとしては不十分
【ウェッジ】
距離を「打ち分ける」クラブ
本来のウェッジの役割は、アプローチをしたり、距離の微調整や弾道をコントロールして正確に距離を打ち分けること。それにはアイアン的な形状よりも、ウェッジ的な形状で「飛びすぎない」性能を備えたクラブが適している
上の番手が打てているか
下の番手をどう使うか
では3つのグループの組み合わせをどう考えればいいのか。さらに松吉さんに聞いてみたところ、まずは自分が使っているアイアンのロフトや飛距離をしっかり把握することが大事だという。
「たとえばPWのロフトが40度を切るような今どきの超ストロングロフトアイアンを使っているとします。これがドライバーのヘッドスピードが40㎧程度の人だったら、23~24度の6番アイアンでは高さが出せず、おそらく『距離を刻む』用途では使えません。つまり、アイアンとしては考えないほうがいいということ。一方、ロフト37~38度のPWは110~120ヤード前後飛ぶでしょうから、距離を「打ち分ける」ウェッジというより、「距離を刻む」アイアンとして考えるべき。こういうケースでは、7番~PWの4本で十分です。
これがロフトの寝たアスリートモデルアイアンだったら、また番手構成も変わります。ドライバーで43㎧くらいの人なら、多分5番でも十分に『距離を刻める』でしょう。一方でPWはウェッジ的に使っているのであれば、セットとし5番~PWをバッグに入れ、アイアン的に使うのは5番~9番の5本という感じになります」
ストロングロフトの飛び系アイアン
6番では十分な高さが出せない可能性も
アスリートモデル
5~9番をアイアン、PWをウェッジと考える
こうして「距離を刻む番手」が決まったら、そこから上の「やさしく運べるクラブ」と、場合によってはPWを含めた「距離を打ち分ける用のクラブ」を何本入れられるかが決まる。
いずれにしても「アイアンセットが何番から何番なのか」ではなく、「どのクラブをどのように使うのか」を基準に判断することが重要だ。
「FWやUTに関しては、ブランドを統一することはおすすめしません。この領域は、実は(1)ティーショット用のクラブ、(2)芝の上からいちばん飛ぶクラブ、(3)アイアンの上の距離をカバーするクラブの3つの用途があるので、それぞれに適したモデルを、ブランドにとらわれずに選ぶことが大事です」
もちろんティーショットでFWを使わない人は(1)のタイプのクラブは不要になるし、もっと下のUTなどの番手に任せてもよい。(2)のタイプはヘッドスピードやモデルによって適したロフトが異なり、必ずしも3Wが必要なわけではない。(3)に関しても、顔の好みや求める弾道などによってFWとUTを柔軟に組み合わせて考えよう。
「ウェッジも、モデルをそろえたりロフトを等間隔に並べる必要はありません。打ちたい距離や使い道に応じて、必要なモデル、ロフト、バウンスのウェッジを組み合わせましょう」
Point 1
FW・UTはブランドをそろえず用途を明確に
ロフト15~16度では芝の上からでは十分な高さが出せないケースも多いのでヘッドスピードが遅めの人は、ティーショット用と分けて考える必要がある。「芝の上からいちばん飛ばせるクラブ」も、18度の5Wや、ヘッドスピードによっては21度前後の7W等の場合もある。その下の番手は、FW、UTを好みや用途によって柔軟に組み合わせてみよう
Point 2
ウェッジはいまや誰でも3~4本
PWをアイアン的に使う人はその下から、PWをウェッジ的に使う人はPWも含めて3~4本でウェッジを構成。とくに飛び系アイアンを使っている人は、低重心で四角い顔をしたアイアンでは飛びすぎたり球が強くなりすぎるので、丸いウェッジ的な顔の高重心の単品モデルを使いたい。ロフトを等間隔にそろえるのではなく、打ちたい距離を打てるロフトや、バンカーや球を上げる用など、用途に応じたモデル・ロフト・バウンスを組み合わせよう
月刊ゴルフダイジェスト2022年1月号より