「52・58」は日本だけ?PGAツアーで主流のウェッジセッティング「52・56・60」を徹底検証
ウェッジは「52・56」「52・58」という人が多いが、PGAツアーでは「52・56・60」の3本が主流になっている。果たしてその理由は? 我々も真似していい? ウェッジのロフトセッティングを大研究!
PHOTO/Akira Kato、Hiroyuki Okazawa、Tadashi Anezaki、Hiroaki Arihara
PGAツアーでは
半数が「52・56・60」
PGAツアーでは56度と60度を入れている選手が7割以上にのぼり、なかでも主流の「52・56・60」セッティングが全体の半数近くを占めている。それに対して日本のツアーでは、「52・58」の2本セッティングが主流。この違いは何なのか?
それはやはり「60度」の存在だろう。近年のPGAツアーでは上位のほぼすべての選手が60度以上のウェッジを入れている。タイガー・ウッズがデビュー以来「56・60」を使っているように、以前から60度を入れる選手もいたが、これだけ多くの選手が使うようになったのは2010年の新溝規制施行後。スピンに頼るよりも、「高さ」で止めることにシフトしてきたからだ。
【PGAツアー】
7割以上が「56・60」+1本
賞金ランク30人中27人が60度以上のウェッジを入れていた。「56・60」+1本という構成の選手が22人で、そのうち「52・56・60」の構成が14選手いた。日本ツアーで主流の「52・58」はデシャンボーただ1人だけ
【日本男子ツアー】
「52・58」が最も多い
国内男子ツアーで活躍する41選手のウェッジセッティングを調べると「52・58」が14人で最も多かった。いちばん下の番手は58度が20人で最多。60度以上はわずか7人のみだった
PGAツアー選手のウェッジセッティング
コリン・モリカワ
【52度】テーラーメイド「ミルドグラインド2」
【56度】タイトリスト「ボーケイSM8」
【60度】テーラーメイド「ミルドグラインド2 ハイトウ」
アイアンは番手によって違うモデルを入れている。ウェッジもロフトによって3種類のモデルを使用し、50度を入れることもある
ザンダー・シャウフェレ
【52度】キャロウェイ「JAWS MD5」
【56度】タイトリスト「ボーケイSM6」
【60度】タイトリスト「ボーケイSM8ウェッジワークス」
モリカワと同じく、ウェッジはロフト別に3種類のモデルを使用。東京五輪でもこのセッティングで挑み、見事金メダルを獲得した
ジョーダン・スピース
【52度】タイトリスト「ボーケイSM8」
【56度】タイトリスト「ボーケイSM8」
【60度】タイトリスト「ボーケイ プロトタイプ」
PWから単品ウェッジを使用。2012年のデビュー以来一貫して「46・52・56・60」の4本セッティングを採用している
ジャスティン・トーマス
【52度】タイトリスト「ボーケイSM7」
【56度】タイトリスト「ボーケイSM8」
【60度】タイトリスト「ボーケイ ウェッジワークス」
スピースと同じように「46・52・56・60」の4本を使用。同じボーケイだが、ロフトによって違うモデルを使っているのが興味深い
アダム・スコット
【52度】タイトリスト「ボーケイSM8」
【56度】タイトリスト「ボーケイSM8」
【60度】タイトリスト「ボーケイSM8」
スコットもPWから単品ウェッジを使用。「52・56・60」の上は48度を入れている。「52・56・60」セッティングは18年頃から
トミー・フリートウッド
【52度】タイトリスト「ボーケイSM7」
【56度】タイトリスト「ボーケイSM7」
【60度】タイトリスト「ボーケイSM7」
昨年末にテーラーメイドと契約し、ウッドからアイアンまで一新したが、ウェッジは慣れ親しんだボーケイを使用している
マキロイは「52」と「48」を使い分け
海外志向の日本選手は「52・56・60」
松山英樹も「52・58」から「52・56・60」に
「PGAでは60度なしでは戦えない
と思い知りました」(進藤大典)
東北福祉大卒業後、06年から谷原秀人の専属キャディとして日本ツアーのほかマスターズなど海外の試合も経験。その後、松山英樹とタッグを組み、18年末まで専属キャディを務めた。現在は解説者として活躍
今年のマスターズを制した松山英樹も、やはり「52・56・60」。しかし、このウェッジセッティングにたどり着くまでには、マスターズ初挑戦の2011年から5年もの間、試行錯誤を繰り返していた。
松山英樹の最新セッティング
【52度・56度・60度】
クリーブランド「RTX4フォージド」
日米両ツアーを熟知する進藤大典氏に、日本とPGAツアーのセッティングの違いについて聞いてみた。
「日本は受けグリーンが多く、手前から転がして攻めるのが定石。高い球でミスをしてグリーン奥に行ったらリカバリーが難しくなる。バンカー形状や芝質も、それほど高い球は求められない。しかしPGAツアーはセッティングがシビアなので高い球で止めないとダメ。だから、フワッと上がって勢いを殺した柔らかい球が打てる『60』が必要になるんです」
PGAツアー
球を拾いやすく高さが出せるウェッジが必要
芝は球が沈みやすく、バンカーはフラット、グリーンは複雑な傾斜のセッティング
日本ツアー
手前から転がして攻めるので高さはそこまで必要ない
芝は球が浮きやすく、バンカーは傾斜がある。そして受けているグリーンが多い
松山英樹もPGAツアーに参戦してウェッジのセッティングが大きく変わった
「向こうの選手は日本人に比べて、小技の引き出しが多いし上手い。彼らを参考にしながら試行錯誤しました。高さを出すために『60度』を入れて、PWとの距離を埋めながら低い球や転がせる『52度』、そしてその中間でいろいろな球が打ちやすい『56度』。ちょうど4度ピッチになっていますが、フルショットするクラブではないのでロフトピッチはあまり関係なく『どんな球が打てるか』という目的重視で選んだ結果です」(進藤)
松山英樹のウェッジ遍歴
PGAツアーにはアマチュア時代の11年にソニーオープンとマスターズに出場。13年は10試合出場し、14年から主戦場に。16年までは毎年どころか試合ごとにウェッジのセッティングを変えていたという。16年から「52・56・60」に落ち着いた
2010年 アマチュア時代
【52度】クリーブランド「CG15フォージド」
【58度】イーブンゴルフ「HR-07」
2013年 プロデビュー&国内賞金王
【52度・56度】クリーブランド「CG-17」
2014年 米ツアー参戦&初優勝
【50度・56度・58度】クリーブランド「588 RTX2.0 プレシジョンフォージド」
2015年 米ツアー未勝利
【50度・56度・58度】クリーブランド「588 RTX2.0 プレシジョンフォージド」
2016年 米ツアー3勝&国内2勝
【52度・56度・60度】クリーブランド「588 RTX2.0 プレシジョンフォージド」
58度で打ち分けるより
「56・60」のほうがやさしい!
PGAツアーで「52・56・60」のセッティングが多いのは日本とのコースコンディションの違いにあることはわかった。では、我々には「56・60」といったセッティングは必要ないのか。ギアの専門家に話を聞いてみた。
解説/松吉宗之さん(クラブデザイナー)
長年、クラブメーカーで開発に携わり、性能の工学的な数値化に取り組み、3次元CADによる設計をいち早く手掛けてきた。2018年に立ち上げた自身のブランド「ジューシー」のウェッジは、日本はもとより、PGAツアーでも評価が高い
「かつてPWが50度の時代、SWは57度、LWが58〜60度くらい。その後、PWのロフトがどんどん立っていき、米国では“ギャップウェッジ(GW)”、日本ではジャンボ(尾崎)さんの“PS”が生まれ、そのロフトがだいたい52度。そのときにSWとLWが集約されて1本になり、開いて打てる58度が浸透しました」と松吉宗之さん。
「58度を開いてカットに打てば高い球が打てるが、サイドスピンが入り結果が読めない。クラブとボールが進化した現在はバックスピンがきれいに入るのでストレートなスピンで打ちたいという選手が増えてきたんです。60度なら開いて打たなくても高い球が打てる。そうなると58度を入れる理由がありません。さらに58度はバンカーやラフで、それなりに振らないとダメで、その分、トップなどのミスも出やすい。56度なら飛距離に余裕がある分、はるかにやさしく、転がしもできる。タイガーでさえ60度はバウンス11度。バウンスが大きめのモデルはソール形状も真っすぐ打つことを前提に設計されているので、無理なくロフトどおりの高さを出せる。56度はいろいろなショットが打てるようにソールが複雑に削られています。万能な56度とやさしい60度の『56・60』。この組み合わせはアマチュアにも間違いなく広まるでしょう」(松吉)
タイガーもやさしい「60」と
万能な「56」を使う
【56度】=転がせて飛距離も出る
【60度】=開かなくても高い球
PWは49度、その下は「56・60」がデビュー以来のセッティング。60度はバウンス11度と大きめ。スクエアに打ってもボールが上がりやすい。56度は汎用性のあるソール形状
マキロイも「56・60」派
「ボールとクラブのスピン性能の向上で、ストレートなスピンのアプローチをしたいという要望が増えてきました。60度を入れれば、開いて打つ58度は必要ない。だからやさしく多用途な56度になるんです」(松吉)
最新ウェッジ「52・56・60」図鑑
週刊ゴルフダイジェスト2021年9月28日号より