【ティアドロップ物語】Vol.2 タイトリスト・ボーケイ「多彩なバウンスとツアーグラインドの原点」
TEXT&PHOTO/Yoshiaki Takanashi(Position ZERO)
現在主流となった「ティアドロップ」型のウェッジは、どのようにして誕生し、受け継がれてきたのか。連載第2回目は多彩なバウンスで知られる、ボーケイ・デザインウェッジ」の誕生物語を紐解いていく。
1999年
ボーケイ・デザインウェッジ
1999年にオフセットやヘッドシェイプを変えた「200」「300」「400」という3シリーズでスタートした「ボーケイ・デザインウェッジ」。数字の100の位がシリーズ名、下2桁がロフト角、小数点以下がバウンス角を表しており、たとえば「252.08」なら200シリーズの52度、バウンス角8度を示していた
ヘッド形状に加え
バウンス形状に着目
ボブ・ボーケイ(現・タイトリスト マスタークラフトマン)は、96年にタイトリストに移ってきたエンジニアだ。メタルの父と呼ばれたゲーリー・アダムズ(テーラーメイド創始者)とともにファウンダースクラブで主にメタルウッドの開発をしていた。その経歴を買われ、移籍当初は「975D」メタルのフィニッシュワークに尽力していたが、新ウェッジ開発のリーダーを任された。普通ならば面食らう場面だが、ボーケイは自他共に認める“メモ魔”であり、その膨大な走り書きのなかには、名だたるプレーヤーの既存ウェッジへの不満や理想、本音が散りばめられていた。それらの多くは、構えやすさや安心感につながるヘッドシェイプのことであり、アプローチでのソールコンタクト(抜け)の話だった。
最初の「ボーケイ・デザインウェッジ」が99年に発売されたとき、「200」「300」「400」というオフセットやヘッドシェイプを変えた3シリーズを揃え、シリーズごとに最適なロフトとバウンスをコンビネーションさせた選択肢を用意した。ウェッジの形状はプレースタイルに影響を与え、必要なバウンスの量も変わってくる。モデル数は膨大な量となったが、それだけヘッドを用意しても、ツアー会場ではツアーバンでソールを削っては選手のもとに急行し、意見を聞いてはツアーバンに戻って削り直し、翌朝には修正版をロッカーに放り込んでおくという日々を延々と続けたという。
「300」シリーズは伝統的な卵型、「400」シリーズがオフセットの少ないスクエアな形状だったのに対して、「200」シリーズは、いわゆる「ティアドロップ(雫型)」形状を採用。リーディングエッジの丸みの頂点がフェースセンターにあり、ホーゼルとトウに向かって左右均等にカーブする美しいラインを描く
「バウンスは友達」
誰にとっても必要なもの
プレースタイルの違いによる、最適なソール(バウンス・グラインド)のあり方は、56度以上のハイロフトウェッジで顕著となる。フルショットではそうでもないが、グリーン周りのコントロールショットとなると、フェースを開く、開かない、上げる、転がすなどプレーヤーそれぞれにやりたいこと、得意なスタイルが異なってくるためである。
ボーケイはバウンスを「“エンジン”や“ヨットの帆”のようなもの」と表現するが、これはバウンスの役割を、(1)ヘッドスピードを減速させない、(2)ヘッド軌道を正しい振り抜き方向に導くもの、ととらえているからである。
初期シリーズの「260・04」ウェッジを愛用していたPGAプレーヤーのトム・パニースJr.は、“もう少しソールの抵抗を減らしたい”とボーケイに相談したという。
「260・04」はバウンス角の小さいモデルだが、ソール幅が広かったためフェースを開いてアプローチをするパニースにとってはバウンスが地面に当たり、ヘッドスピードが減速するイメージがあった。そこでボーケイはトレーリングエッジを大きく削り、フェースを開いたときの抵抗を抑える工夫を施した。これが後に「Tグラインド」という、ローバウンス系ツアーバングラインドの先駆けとなったのだ。この「T」をベースに発展したのが、現在の「Mグラインド」。ロブショットを多用する左利きプレーヤーのために生み出されたのが「Lグラインド」である。
平らな床の上でフェースを開くとリーディングエッジが浮いてくる。これはフェースを開くことでバウンスが増えることを示している。フェースを開くことにはロフトを増やすという意味もあるが、バウンス効果を増やしてソールを適切に滑らせることこそが、本来の目的である
ローバウンスというと「バウンスを必要としない」という意味にとらえられがちだが、実際はその逆で、「フェースを開く」とは、「バウンスを増やす」と同義。フェースを開くプレーヤーはそうすることでバウンスを積極的に使おうとしているのである。だからこそ、ボーケイは誰にとっても「バウンスは友達」だと説く。バウンスはアプローチ成功へのガイド役なのだ。
現在では、どのクラブメーカーにもソールバリエーションがあるが、その数はやはりボーケイには及ばない。使っているプレーヤーの数が多ければ、必要とされるバリエーションも増えていく。選択肢が増えればまた使用者が増える。ボーケイが確立した信頼のシステムは揺るぎない。
ボーケイ・デザインSM8も
形状はティアドロップ
最新の「ボーケイ・デザインSM8」も「200」シリーズを原型としたティアドロップ形状。ただし、「SM3」まではスコアラインは14本だったが、「SM4」からは17本に溝が増えている。また、長年にわたるトッププレーヤーとのトライ&エラーを経て選ばれてきたF/S/D/K/M/Lという6つのソールグラインドがある
週刊ゴルフダイジェスト2021年8月10日号より