ドライバーにはなぜチタン? ギア好きなら知っておきたい「素材」のお話<ドライバー編>
PHOTO/Tomoya Nomura、小誌写真部
THANKS/大同特殊鋼
かつてゴルフクラブは木製のウッド、鉄製のアイアンの2種類だけだったが、現在ではクラブの素材にはチタンやステンレス、マレージング鋼など、実にさまざまな金属が使用されている。一体何が違うのか? クラブの素材について調べてみた。
なぜドライバーにはチタン合金が使われる?
加工しやすく強靭で
精密に薄肉化できるから
話を聞いたのは、大同特殊鋼・鋼材営業本部の髙宮伸さん(左)、寺下一郎さん(中)、「DAT55G」の生みの親・鈴木昭弘さん(右)
ドライバーのヘッドにチタン合金が初めて使われてから四半世紀、いまだにチタン合金に代わる素材は見当たらない。それは鉄の2倍の高強度、かつ鉄の約6割という軽比重でヘッドを薄く、大きくできるからだ。
最近はカーボンコンポジットのドライバーが主流だが、それでもフェースやボディにはチタン合金が使われているものが多い。ゴルフクラブにチタンが採用されるようになった経緯について、大同特殊鋼の髙宮伸部長は次のように語る。
「ヘッドが小さなパーシモン時代は芯の狭さが難点で、その問題解決のためにヘッドを大きくしたいというのがクラブメーカーの願いでした。大きくするには比重が小さいほうがいいので、アルミやジュラルミンなどに目を付けたメーカーもありましたが、強度が足りず、結果的にヘッドを大きくすることができなかった。混じり気のない『純チタン』も強度がそれほど高くない。そこでアルミやバナジウム、モリブデンを混ぜた『チタン合金』に白羽の矢がたったのです」
これがチタン合金の素
「スポンジチタン」
最大25㎤のチタンスクラップから、粒状のスポンジチタン、幅広い原料とさまざまな母合金を組み合わせることで、用途に応じたチタン合金が生み出される
ひとくちにチタン合金といっても、その種類はさまざま。ゴルフクラブにおいては主に2種類のチタンが使用されているという。
「フェースに使われるチタン合金は、結晶構造の違いによって『α+β』チタンと『β』チタンに大別されます。前者は比重が小さく重心設計の自由度が高いので、フェースだけでなくボディにも使われます。その代表がヘッド素材としてよく目にする『6-4チタン』。逆に『β』チタンは弾性率が低いので、たわみやすく反発性能が高いという性質があります。だから高反発規制前は弊社の『DAT55G』をはじめとした『β』チタンのシェアも大きかったのです」
最新モデルでは、ミズノが「β」チタンの「SAT2041」を採用し、飛ばしを謳うカスタムクラブや高反発クラブは「DAT55G」を使うケースが多い。飛ばしたいならβチタンがオススメ!?
チタン合金は大きく分けて5種類
配合される元素によって名前が変わる
チタンは「Ti- 6Al-4V」や「Ti-22V-4Al」のように、配合されている割合と元素で表示される。Tiがチタン、Alはアルミ、Vはバナジウム。また「DAT」「SAT」などのチタンの名称は開発したメーカーの商品名。たとえば「DAT55G」は、成分でいえばチタンにバナジウム15%、クロム6%、アルミ4%を混ぜた合金で、開発した大同特殊鋼の商品名。
たとえば松山英樹が愛用する
『スリクソン ZX5』ドライバーの場合
最新ドライバーで使用されているチタンは?
ボディはほとんど「8-1-1」
フェース素材に違いがあった!
最新ドライバーのほぼすべてのモデルでボディには、通称「8-1-1」チタン(=Ti-8Al-1Mo-1V)が採用されている。ところがフェース素材はモデルによってさまざま。つまりフェース素材で差別化を図っているのだ。
「α+β」型と「β」型は結晶中の原子の配置が違い、「α」型は六角柱、「β」型は立方体で、「α+β」型は両方が共存している。「β」型は結晶同士のすべりが生じやすいために変形しやすく、比較的、加工が容易。だが「α+β」型のなかでも「6-4」はプレスして圧力をかけて曲げても、圧力が取れると元に戻る“スプリングバック”という動きが強いため、鍛造よりも鋳造に向いているといわれる。そのため、プレス成型が必要なカップフェースを採用している『ゼクシオ』や『SIM2』などには「6-4」ではない別種の「α+β」型、または「β」型が使われている。
国産ブランドは「6-4」が主流
●同じ「6-4」でも形で違いを出している
世界初のチタンドライバーを作ったミズノは「β」
90年に発売された『ミズノプロ Ti110/Ti120』が世界初のチタンドライバーで、使用されたのは「6-4チタン」。その後、99年に名器といわれた『ミズノプロ 300S』でβチタン(Ti-15V-3Cr-3Al-3Sn)を採用し、契約外プロもこぞって使用。そして、19年の『ミズノプロ』で久しぶりにβチタン(Ti-20V-4Al-1Sn)を採用。最新の『STシリーズ』にも引き継がれている
外ブラは特殊素材を積極的に採用
●タイトリストは航空宇宙チタン「ATI425」
「ATI425」は米国アレゲニー・テクノロジーズ社が開発したα+β型のチタン合金で公称は「Ti-4Al-2.5V-1.5Fe」。火星探査車両などの航空宇宙用に使われることが多く、『TSiシリーズ』が初めてクラブで使用している。「6-4チタン」に比べて、強度が約5%強く、たわみ量も30%多いといわれており、ボール初速が上がり、その結果、飛距離アップが見込めるという
●テーラーメイドは「9-1-1」
2代目『M1/M2 ドライバー』のボディ素材に採用されて以来、テーラーメイドのドライバーを支えているのが「9-1-1チタン」だ。『SIM2シリーズ』に使用されているチタンはこの「9-1-1」のみということからも、素材への信頼がわかる
●キャロウェイはカリフォルニア生まれの「FS」
キャロウェイ本社から車で1時間ほどのところにあるFSプレシジョンテック社が開発した「FS2Sチタン」。FS2Sチタンには3.5%アルミ、3%バナジウム、1%クロムが含まれており、航空宇宙工学で使用されているチタン合金だ
ピン「G425」のフェースは
「ゼクシオセブン」の
ボディ素材と兄弟?
ピンゴルフの『G425シリーズ』に使われているのは「フォージド T9S+チタン」。『G410シリーズ』までに採用された「α+β型」に属する「T9Sチタン」を鍛造しているということで、曲げやすい「β」チタンに近いポジションだろう
では、アイアンにはどんな素材が使われている?
週刊ゴルフダイジェスト2021年7月13日号より