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【クラブ駆け込み寺】Vol.1「飛距離アップ=スピン量を減らす」が正解とは限らない

“頑固オヤジ”が勇退し、あとを継いだのが練習場で小さな工房を営む通称“アニキ”。さっそく寄せられた読者からの質問にどう答える?

ILLUST/Kochi Hajime

前回のお話はこちら

Q. スピン量を減らして
ドライバーの飛距離を伸ばしたい


持ち球がフェード系のせいか、1Wもスピン量が多めの3200回転前後。2500〜2800回転ぐらいまで減らせれば、もう少し飛距離が伸ばせると思っています。何か良い手、ありますか?


机上のチューンはしない

打ちっ放し練習場の、2階打席の隅にチューン工房を構える、通称“アニキ”です、ヨロシク。

私がクラブチューンの極意を教わった“頑固オヤジ”さんが年内に店を畳み、ウチに月数回通うようになったんですが、その流れでこの連載枠を引き継げ、と言われまして。

最初は丁重にお断りしたんですが、オヤジさんも時々、助け舟を出してくれるということなので、引き受けることにしました。

私はオヤジさんほど頑固じゃない(つもり)ですが、お客様の注文内容が“間違っている”と感じたら、作業の手を進めません。お互いに納得のいくチューンになるよう、とことん話し合います。

この”理詰め”作業、嫌われることもありますが、結構喜ばれて、ウチの常連さんになってもらえるパターンも多いんです。

「それって、どんな感じなんですかね。リシャフトを硬さSで注文したら、相手のスウィングを見てRを薦めるとか?」

担当さん、少し違いますよ。

「もっと根本的というか……。最近あった相談を例にしてみましょうか。ちょっとオヤジさんも、話に加わってください」

「なんだよ、もう“助け舟”かよ。まあ初回だからな、いいよ」

「多すぎるドライバーのスピン量を減らして飛ばしたい、という相談だったんですが、実際にそこの打席でショットを見せてもらって、それはお断りしたんです」

「ふーん、なるほど、ここはそれができるのが強みだな。チューンの必要な部分と、本人の“思い込み”のギャップを、実際の打球で確認できる、て寸法だ」

まったく、その通りです。

数値を追うと迷路にはまる

「その相談者、52歳でフェード系が持ち球のハンデ9だったんですが、キャリー230ヤードをもう10ヤード伸ばしたい、だからスピン量を3200回転から2割ぐらい減らしたい、という希望だったんです」

「まあ、数字的には良さそうだけど。それで、なんでダメ出し?」

「打ち出し角が低めで、12度くらい。聞けば、アイアンもローフェードがイメージ的に好きなんだそうです」

「ああ、だからスピン量減らすの、止めさせたんだな」

「え、どういうことですか?」

担当さん、ピンと来なかったようなので、説明を。

「スピン量を減らすならロフトを立てるか、フェース向きや重量配分などでドローバイアスを取り込むことになります。ロフトを立てて打ち出しまで低くなれば、逆にキャリーは減少しやすく、かといってドローバイアスにすると、逆球のリスクが増えるだけ。飛距離アップとスコア作りを考えると、マイナスしかないんです」

「オイラなら、1インチ長尺にしてヘッドスピードアップを勧めるかな。それならロフトも0.5度ぐらい立てられるし」

「私もそれは考えたんですが、即断られました(笑)。長尺は嫌いだそうで、まあ低弾道好きの傾向ではありますよね」

「じゃあ、どうした?」

「幸い、ドライバーがテーラーメイドだったので、ホーゼルのカチャカチャでロフト角を増やして、ソールのウェイトで重心距離を長めにしました。打ち出しがわずかに上がって、飛距離が伸びたので満足してもらえました」

つかまって上がる調整と、重心距離でつかまらなくする組み合わせ。これが功を奏したのは、人間が打つから。

「クラブの挙動の変化と、求める打球イメージでスウィングも変わります。相談者が求めていたのはフェード安定のままの飛距離アップでした。スピン量を減らす、はデータ計測からのひとつの案で、正解とは限らないんです」

月刊ゴルフダイジェスト2023年12月号より