【岡本綾子 ゴルフの、ほんとう】Vol.740「言いたいことを抑えて選手をじっと見守るのも親の務めだと思います」
米国人以外で初めて米女子ツアーの賞金女王となった日本女子ゴルフのレジェンド・岡本綾子が、読者からの質問に対して自身の経験をもとに答えていく。
TEXT/M.Matsumoto
ゴルフ部の監督をしていて思うのは、親の関与がすさまじく、生徒より親の教育が大変ということです。トライ&エラーの連続ですが、部活指導での人との接し方で、最も大切にすべきこととは何でしょうか?(匿名希望・37歳)
学校のクラブ活動だけでなく、ゴルフスクールに通うジュニアゴルファーの親と指導者の間にトラブルが生じる問題はしばしば耳にします。
コーチは生徒の身になって計画を立て誠意と愛情を持って接しています。
ですが、保護者は教え方について「うちの子には合わないしためにならない」と文句をつけ怒鳴り込んでくる。
親としては、自分の子どもに合った適切な指導が与えられているかどうか気になるのも無理はないのかもしれません。
もちろん、指導者も預かった選手の面倒は見るという覚悟が必要ですし、そのためには保護者とのコミュニケーションを取ることも場合によっては必要かとは思います。
学校の授業もそうですが、ゴルフのレッスンも指導する側からそれを受ける側への一方通行ではなく、両者の間で情報が交換されるコミュニケーションのひとつだと思っています。
そこでは知識や方法などを伝えるためのレッスンが行われているのですが、教える側は相手がその内容をどのように受け取っているか相手の反応から理解する。
その情報交換が上手くいけばいくほど、レッスン効果は向上するはずなのではないかしら?
そういうことを含めて、自分なりの指導法や達成目標などを生徒本人と保護者に対して、納得するまで説明することも大切なことなのかもしれません。
ただ、相手が十人十色だということは知っておくことです。
選手が真面目に練習に取り組むのは当たり前だけれども、そうだとしても練習の成果が必ず上がるとは限らない。
そういった事実も、指導する側も選手も心得ながら練習に励むことは大切です。
対人間ですから、感情のもつれもあり得ます。
話し方、言葉の使い方、留意すべき点は少なくありませんが、相手にへりくだることはないと思います。
誠意を持って接しているのであればなおのことです。
あとは、伝える内容に説得力があるかどうかは、指導者の仕事に対する姿勢や考え方、経験の深さなどがモノを言います。
普段から各界のリーダーの著書や自伝を読むなど、幅広く勉強もしておくことをお勧めします。
ですが、昔からの価値観が通用しなくなっていることを感じないわけにはいきません。
子どもに対する過保護,過干渉が社会問題になる時代なのかもしれません。
女子プロゴルフ界の低年齢化は年々その傾向を強め、世代交代のスピードは増す一方で、マスコミはなにかと「〇〇世代」と看板名をつけるのにも少し疑問が……。
子どもがゴルフを続けて強くなるためには、親の関与が必要不可欠ではあります。
ゴルフ用具や練習にラウンド、レッスンに加えて競技、合宿や遠征と費用は際限なくかさんでいくのが現実です。
わが子を人より強くしたいと思えば、専任の有名インストラクター、実績ある名物コーチにつけたくなる──そのうえで、強くはしてほしいが、親としての支配権はキープしておきたい。
そうなると、指導を委託する現場に波風が立つ場合も出てくるのでしょう。
こういった、ややこしい話は好きではありませんが、これを読んでいる方に忘れてほしくないことがあります。
主役は選手であること。
プロにさせたい保護者の方々の気持ちは十分わかりますが、やるのは選手であり、選択するのも選手です。
本当に我が子のことを思えばこそ、この部分を思って接してあげてほしいとわたしは思ってやみません。
「思い通りにいかないことを知っているのは、子どもよりオトナのほうですよね(笑)」(PHOTO/Ayako Okamoto)
週刊ゴルフダイジェスト2022年11月8日号より