【林家正蔵の曇りのち晴れ】Vol.284「友人の気分に惑わされるの巻」
年を重ねるごとに、季節の変わり目や寒暖差が大きくなると、関節痛が出たり気分が落ち込み、外に出るのがおっくうになってしまうこともあるんです。つい先日、友人がずっとゴルフの誘いを断り続けていたので、気分が落ち込んでいるのかと心配していたのですが、ふたを開けてみるとまさかの猫が可愛くて家を出たくないだけでした。人騒がせですよね……。
ILLUST/アオシマチュウジ
寒暖差で体も心もボロボロに?
猛暑だった夏も終わったと思っていたら、今年は10月に入っても、どうしたのと思うくらいの夏日が続いていた。しかし、それが続くと思っていたらニュースでは、近々冬の気温になるとのことだ。実際、予想が当たり、薄手のセーターを着ないと身も凍える底冷えとなる。
さて、週間天気予報では、ゴルフの予定が入っている金曜日は29度の夏日予報となっている。本当かしら。実質今日よりも10度も気温が上がるなんて考えられない気もするのだが。モーニングショーを見ていたら、この寒暖差で体調を崩す人も多いらしい。
関節痛持ちの私は、雨の日や寒い日など、朝からジンジンと腰がしびれ、ひざも痛む。医者にかかったり、整体に通ったり、ストレッチやヨガ、サプリメントなどなど四方八方を試しているのだが、すっきり完治というわけにもいかず。これも60を迎える人間の自然の摂理かと諦めてもいる。
体ばかりでなく、心も痛めてしまうこともあるという。確かに若い頃は、いつでも前向きになれていたが、年を重ねるとともに気落ちすることがよくある。別に何か気を塞ぐアクシデントがあったわけでもないのに、何事に関してもやる気にならない。外へ出るのも、人に合うのもおっくうになりがちだ。
姿を見せない友人を気にかける
最近、友人のゴルフ仲間をゴルフに誘っても断るやつがいる。体調が悪いわけでもなく、仕事はきちんとしているし、トラブルに巻き込まれた気配もなく、ゴルフを楽しむくらいの余裕のある仲間が、急に姿を見せなくなってきたのだ。
みんなで心配をして、奥さんに何かあったのかと尋ねてみると、別段何があったというわけでもなく、休日はダラダラと、猫と戯れて一日を過ごしているようだった。ゴルフの中継は観戦しているようなので、ゴルフに興味がなくなったということもなさそうだ。家でゴロゴロしているものだから、奥さんが気を使い、ゴルフにでも行ってきたらと持ち掛けても、「うーん」と生返事ばかり。「どうしたら、いいんでしょうか」と逆に私たちに救いを求めてきた。
その友人が大好きなコースが山梨にあるのだが、以前ラウンドした折に「俺、ここのコース大好きなんだよ。富士山も見えるし各ホールの美しさもよく設計されているし、飯もうまいし、都内から車で1時間足らずというのも便利でいい」と言って、いつしかメンバーになっていた。
だからダメもとで、「お前がメンバーの山梨のコースでラウンドしたいから行こうぜ」と誘ってみた。最初は、「俺はなー」とか「何かなー」とか言っていたが、こっちも脅し半分で「そんなぐずぐずしていると、もう金輪際お前とはゴルフに行かないぞ」と怒り口調で言うと、「わかったよー」と返事をした。
友人の上機嫌を見てついついカチン
だんだんラウンドの当日が近づいてくる。もしかしたらドタキャンのメールが届くかもとヒヤヒヤしていたら、それもなく、その日は絶好のゴルフ日和。天気予報も当たり、日なたでは少々汗ばむが、日陰では秋の気配を感じることができる風が吹く。友人はいつに変わらずニコニコしてこちらの心配をよそに「久しぶりー。元気だったかよ。今日は富士山もよく見えるいい天気。おい山頂は雪が積もっているなー。このコースにご無沙汰していたから、まあじっくり楽しもうぜ」なんて、イケシャーシャーの上機嫌でやってきた。
それを聞いてこっちはカチンときてしまい、「お前なー、俺たちはしばらくゴルフに誘っても来なかったお前のことを心配していたんだぞ」と詰め寄ると、「すまん! すまん! 飼い始めたばかりの猫がさー、俺になついてなついて。もう俺がいないと生きていけないような感じでまとわりついてくるんだよ。ニャーニャーニャーニャー。見てみろよこれ」とスマホの待ち受け画面には可愛い子猫の画像が。以前までは確か奥さんとのツーショットだったのに。
ふとドライバーのヘッドカバーを見てみると、ニットで編んだ猫のカバー。どうしたんだと聞くと、近所の洋裁店に特注で編んでもらったとのことだ。
ラウンドも終わり、「久しぶりだからお茶でも飲みながら話そうぜ。季節限定の地元の栗で作ったモンブランが好きだったろう」と言うと、「ご心配なく。今までの迷惑をかけたお詫びに3個ずつお土産にしてあるから。じゃあ俺は家で猫とカミさんが待っているから」と、そそくさとクラブハウスを後にしていた。そんなもんなのですね。
この話を夕食後、妻と娘といただいたモンブランを食べながら話していると妻が、「ねー、私と飼っている犬2匹とどっちが大事」と藪から棒に聞かれた。返事に困って即答できずにいると、娘はスーッと席を立ち、妻も「犬なんだ」と席を立った。甘いはずのモンブランが初めて苦く感じた。
友人は 心配をよそに 上機嫌
月刊ゴルフダイジェスト2022年12月号より