【林家正蔵の曇りのち晴れ】Vol.282「コースで出前の鰻丼の巻」
コースでの昼食といったら、やっぱりそれぞれのオススメメニューをいただきたいもの。しかし、先日回ったコースでは、メンバーさんのわがままにより「鰻丼」の出前を黙認しているというんです。その鰻丼も老舗ということで、かなり美味しいんです。出前という珍しいものも体験できたし、お腹も満たされ最高でした!
ILLUST/アオシマチュウジ
久々のキャディなしのセルフゴルフ
「すみませんがー」とフロントのマネジャーさんが申し訳なさそうに、「キャディがいなくなってしまったんです。コロナの陽性で自宅待機がかかってしまって。どうやらお子さんからうつってしまったみたいで……」と困った顔をして言う。
このコロナのご時世、事情はわかるしお互い様だと思う。「いいですよ。セルフで回るのでお気になさらないでください」と了承する。コピーしてくれた各ホールのレイアウトを見ながら、プレーしていくのも実に新鮮で楽しいものだ。
「キャディさん、ここは刻んだほうがいいかい」とか「ここはショートカット。キャリーで200Yを超えれば、残りはピッチングの距離になります」なんてアドバイスもなく、自分の力とメモを頼りに判断していく。こんなところにバンカーがあったのか、キャディさん、先に言ってよ。なんて文句もなし。すべてが自分の責任になる。ちょっとした緊張感のおかげでハーフ41で上がってくることができた。
このコースは初めてで、近くの市民会館で落語会をやった折に、その主催者さんがここのコースのメンバーさんで、しかも月刊ゴルフダイジェストの愛読者と聞いていたもので、「ぜひともプレーしてください。メンバーの紹介があれば回れますので」と口を利いてくれたのだ。
ラウンドには厄介。でも風情は最高
有名な設計者の作品で、全国にあるコースの中でも難しくないほうだと聞いていた。この設計者の造ったコースで何度泣いたことか。ナイスショットをしても、ホールの真ん中に松の木があり、松の木の左に行けばよし、右に行けば絶対にグリーンが狙えない。しかも傾斜のせいか、松の木のうしろにボールが行きやすく、どうしても腕前のないゴルファーは1打泣くことになっている。
しかし、ティーイングエリアから見る景色は絶景で、まるで日本庭園のごとし。そのホールの真ん中の松の木があるとないでは、美しさも変わってくるのだが、ゴルフのプレーとなると実に厄介なことになる。
池の配置も見事で、打ち下ろしのパー3は、左右に池が効いているが、手前にはスペースがあるため、強いプレッシャーはかからないものの、高いボールで攻めていくと、風の強さ次第で流されて池ポチャなんてこともある。しかもコースからは見えないものの、海が近くその反対側は山になっているので、風が回っているのだ。そのうえ午前と午後では、四季によっても風の向きが変わってくるので、風がまるで読めない。さらにパー3では距離が長く、ホワイトティーからでも約200Yある。打ち下ろしとはいえ、それで風に影響されるのだからボギーでも御の字である。
ただ今回のコースは、機嫌がよかったのか、はたまた晩年の作品と聞いているので、人間性が穏やかになったのか、意地悪さもなく、まるで日本庭園の風情を楽しみながらのラウンドができた。
お昼ご飯はまさかの鰻丼の出前
メンバーさんの伝言があり、お嫌いでなければ、フロントでスタート前に注文して昼のご飯は、出前の鰻丼を召し上がっていただきたい、とのことであった。近くに鰻屋があり、そこの店が老舗の名店で、わざわざ東京からここの鰻丼を食べにくるファンも多いそうだ。
以前にこのコースのレストランでも鰻を扱っていたそうだが、レトルトの湯せんでアツアツ。味もよかったというが、口の肥えたメンバーさんたちが、わがままを言って出前を注文していたら真似する人たちがぞろぞろと増え始め、ついにはメニューから鰻丼は消えてしまったらしい。だから公前の秘密で、その鰻屋さんからの注文はコースとして目をつむっているらしい。
1人前は、おしんことお吸い物付きで6800円。高いなーと思ったが、まぁ久しぶりの外食。しかも連日の暑さ。ここはひとつ奮発して皆、昼飯は「鰻丼」を選択することにした。
さて、読者の皆さん「うな重」と「鰻丼」どちらを注文しますか。よくランチタイムでは、東京の老舗でもランチのみの鰻丼がメニューに載っていることがあります。実際鰻屋のご主人によると、丼よりも重のほうがご飯に対しての鰻の量が多いんだそうです。
だから重のほうが、たっぷりの鰻がのっている。丼のほうが鰻の量が少ない。だからランチタイムは格安に提供できると伺ったことがあります。真偽はさておいても、いい焼き物の丼で鰻が登場。蓋をとると、飴色の脂ののったかば焼きに心が躍ります。なんでも天然ものらしく、江戸前の仕事がしてあり、蒸しも効いていて、口の中でトロッととろけます。上方の直焼もいいが、丼にするならやはり口の中でトロッとしていたほうがご飯と絡みあう。
名人の小さん師匠は、重よりも丼派でした。そのこころは「重箱の隅をつつくなんて江戸っ子がやるもんじゃない!」。お後がよろしいようで。
わがままで 鰻丼出前が 裏メニュー
月刊ゴルフダイジェスト2022年10月号より