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【ゴルフ野性塾】Vol.1735「1本の得意クラブがレベルを上げる」

古閑美保、上田桃子など数多くの名選手を輩出してきた坂田塾・塾長の坂田信弘が、読者の悩みに独自の視点から答える。

前回のお話はこちら

薄晴れの朝である。

今日5月26日、木曜日。
昨夜12時過ぎ、雨が降り始めた。私は居間のテーブルで風の大地を書いていた。
ソファで眠っていた女房殿がガバッと起きた。
雨が降って来たと呟いた。
そして、スッと立ち上り、洗面所横のベランダへと走った。
察した。
洗濯してベランダに干した衣類、雨に濡らしてなるものかの行動だった。私もベランダへ向った。1人よりは2人の手の方が早い。一度の往復で居間へ運ぶ事が出来た。
「有難う。助かりましたわ」と女房殿が言った。
「全部、雅樹の洗濯物か?」
「そう。雅樹のばっかり」
私はテーブルに向って座った。
「熱いお茶くれないか」と頼んだ。
お茶と3切れのリンゴが出て来た。
1切れは女房殿が食べる。それが我が家の食生活だ。雅樹がいる時は丸ごと1個が雅樹の分。

今、雅樹は奈良にいます。
大手前大学女子ゴルフ部の合宿中。5月30日と31日の2日間、関西学生女子春季1部校対抗戦が京都の城陽CCで行われるが、城陽の戦いの時はいつも美加ノ原でレギュラー合宿して来た大手前大学ゴルフ部である。
大阪学院大学と近畿大学が強いと聞く。
7校中上位3校が全国大会に行くが、監督の雅樹は私の様な楽観主義者ではなく、現実主義者である。
楽観も悲観も好まぬが、選べと命ずれば悲観を選ぶ男だ。
私はいつも楽観。悲観は性に合わぬ。
「今年は厳しい。他の大学の戦力は大手前以上」と言って来た年、関西リーグで優勝し、全国大学でも優勝した。
昨年の関西の秋リーグ戦、「大手前は3番手か4番手。ただ、2部落ちはないと思う」と言ってたが、結果は2位に大差をつけての優勝だった。
「父と子、どうしてこうも違うんでしょうネ」と女房殿が呆れる結果だった。
団体戦、監督と選手の情熱が同じになれば優勝出来ると思う。
やる気、負けん気、へこたれん気の生む情熱が離れると勝つは難しい。
情熱の共有を目指すのが監督の仕事だとすれば、やはり選手の戦う前の気持ちは悲観的であるから監督も悲観的であるべきかと思う。
雅樹は戦う前の選手の気持ちに眼線を合せている様な気はします。そこが私との違いだ。
私は楽観主義で生きて行く。
お茶とリンゴを出した後、女房殿はいなくなった。
自分の部屋で眠ったか。
現在時、午前7時15分。
これよりファックス送稿。
そして風呂に入り、ひと眠りした後、熊本へと向います。
今日明日の2日間、熊本空港CCで6月7月2カ月分のテレビ収録が待つ。体調良好です。

打ち放題で1本のみ練習せよ。

週に1度のペースで練習しています。ラウンドは月に1~2回です。練習場は、打球精算か打ち放題かが選べますが、僕は2時間の打ち放題にしています。ウェッジからドライバーまでくまなく打ち、アプローチも練習しています。1回の練習で400球くらい打っています。打球精算で1球1球ていねいに打つのがいいのか、2時間打ちまくるのがいいのか、上達が早いのはどちらですか。(神奈川県・井上翔輝・33歳・ゴルフ歴2年・平均スコア115)


上達の速度を見れば平均と思う。際立つ早さも際立つ遅さもないのが平均である。
平成5年8月に熊本ジュニア塾を開塾したが、小学4年から中学1年の1期生14人の中にゴルフ経験者はいなかった。皆、ゴルフ未経験で入塾して来た。
1人、上達の早い者がいた。
その1人に13人は引っ張られて上達して行った。
5人の集団でも50人の集団でも1人の上達早き者がいれば集団の上達スピード上る事を知った。
1人の上達スピードに同学年3人がついて行った。そして、その4人の上達速度に10人が引っ張られて上達した。
練習量と練習時間の競争が始まった。
その後は一気だった。
九州地区、塾生が勝てなかった試合は開塾して4カ月後の九州ジュニア選手権秋季大会の1試合のみ。この試合、14人全員、6アイアンとサンドウェッジとパターの3本で試合に臨ませたが、そりゃゴルフ歴3年4年の者に勝てる訳はなかった。
ボロ負けだった。
翌年6年春、14人の2度目の戦いが始まった。
九州ジュニア選手権春季大会、勝った。
一番上達の早い者ではなかった。一番を追った者が勝った。
それ以降の試合、塾生は優勝を目指す様になった。
そして結果は出た。
教えていて面白かった。

競う相手は要ります。
ライバルとゆう存在ではなくても練習量、練習時間、練習ラウンド、試合で競い合えば全体のレベルは上るものだ。
練習する程に打つ球数、増えはしなかった。時、過ぎる程に練習時間、増える事はなかった。
皆、己の練習量、練習時間を持つ様になって行った。
開塾した時、1日300球打てと命じた。
6カ月後、300球の練習球数は撤回した。己の練習量、練習時間を見つけたからである。
塾生は毎日練習場通いしたが、6カ月過ぎればそれぞれの練習手段を持つ様になっていた。
笠りつ子は練習しない時は1週間、一度もクラブを握らなかった。
中学2年生だったと記憶する。
試合前、練習しなかった。
試合が終った次の日、1日800球打った。1週間続けた。
周りは心配した。あんなムラッ気の強い練習させていいんですか、と言って来た。
りつ子に任せろ、好きな様にさせときゃいい。あれがりつ子のゴルフなんだから、と私は言った。
塾は放任力を持っていた。それが熊本の力でもあったと思う。
1週間、毎日800球打った後、りつ子はまた打たなくなった。その繰り返しを2年続けたと記憶する。
りつ子は今もツアー最前線で戦っている。上田桃子と共にだ。
パットは下手だった。
今年は特に悪い様な気がする。
少し疲れて来たかと思う。
気持ちが疲れるとインパクトが緩む。その緩みを防ぐ為に強く打つ時がある。そして外した後の疑念だ。
今のりつ子はその状態にいるのではと思う。あるいは上半身のどこかを痛めたかだ。
振り抜いて来たゴルフ人生である。球1球も打たずに練習場打席を通り抜けた時のりつ子の平然とした表情、球800球打ち続けた時の必死の表情を想う。
よき日々だった。
皆、プロを目指していた。
生きよ、笠りつ子。
いつ迄も笠りつ子のままで。

世間の先入観と誤解の中で坂田塾は存続し、そして私の疲れで閉塾して来た。
今、残るは神戸塾のみ。
塾生数10名。少数である。
今、神戸塾出身でツアー参戦している者は3人いると思うが、安田祐香もその1人だ。
シードは取れそうな気配なれど、ここからが勝負と安田を長く指導して来た大手前大学ゴルフ部監督、神戸塾副塾長の長男雅樹は言う。楽観視していない。
振り抜きのスピードは大事である。雅樹は今、その指導に入っている。
貴兄の相談を受けて笠りつ子の若き頃を想い出した。
ただ、りつ子は6番アイアン1本で800球打っていた。
根気の要る練習だった。
全体のレベルを上げるには得意なクラブ1本作るが最善。
13本全部の練習は集中の分散を招く。不得意なクラブを無くすが為の練習は全体のレベルを落すと思う。
練習には執着が要る。
1本のクラブへの執着だ。
貴兄に必要なのは執着と思う。
打ち放題を勧める。
ただ、練習するのは1本のクラブのみ。得意なクラブを生む練習をして貰いたい。
以上です。

坂田信弘

昭和22年熊本生まれ。京大中退。50年プロ合格

週刊ゴルフダイジェスト2022年6月14日号より