【ゴルフはつづくよどこまでも】Vol.41「ヘイル・アーウィンのグリップ圧」
高松志門の一番弟子として、感性を重んじるゴルフで長く活躍を続ける奥田靖己。今週もゴルフの奥深い世界へと足を踏み入れていく。
1994年、アメリカツアーのメモリアルトーナメントに招待選手として出場したときの話です。
尾崎直道さんに練習ラウンドに誘われたんやけど、ちょっと考えるところがあって、僕ひとりでスタートしました。ひとりやから、時間がかからんので、すぐに前でまわっている選手に追いついてしまいます。その選手がヘイル・アーウィンやったのです。
若い人でも名前ぐらいは知っておるかもしれんですけど、一応どんな選手なのか紹介しておきます。
74年、79年、90年と3回も全米オープンで優勝しておって、日本でも81年のブリヂストンオープンで勝っておるすごいプロです。もちろんPGAツアーでもぎょうさん勝っておるし、シニアになってからも、全米シニアオープンで2回勝っています。
そんなアーウィンが僕に向って「トゥギャザー」と呼びかけてきたんです。要は「一緒にまわらんか」と言ってきたわけやね。
年上やし、すごい選手やし、もう返事をするときは、全部「サー」付きですよ。
アーウィンに「トゥギャザー」と言われたらもう、「ハイ、サー」です。カタコト英語で会話しとったら、そのうち「もう、サーは付けんでええよ」と言ってくれはって。アーウィンというと冷静沈着で“アイスマン”というイメージやったけど、ぜんぜんそんなことがなくて、「もうちょっと、こんなふうに打ってみたらどうや」とかスウィングのことなんかも教えてくれたほど、親切やったんです。
もちろん、アーウィンは関西弁やのうて英語でしたよ。
僕は外国人選手とまわったら、ちょっとうち解けた頃合いを見計らって、グリップの強さを教えてもらっておったのです。自分の右手の人さし指と中指の2本をピストルみたいに差し出して握ってもらうんです。
ゆるゆるグリップをやっておったので、他のプロのグリッププレッシャーにものすごく興味があったからです。
アーウィンの左手はゆるゆるやと思い込んでおったのに、実際に握ってもらうと、ごっつい強くて驚きました。中嶋常幸さんと同じぐらいの強さでした。それに対して右手の握りはゆるゆるなんです。
「メイ・アイ・アスク・ア・クエスチョン?」と切り出すんやけど、「ほんまに自分のゆるゆるでもええのか?」と僕もいろいろと悩みが深かったんです。
「アーウィンのグリップ圧は、左手がごっつい強くて、右手はゆるゆるでした」
奥田靖己
おくだせいき。1960年、大阪生まれ。93年日本オープンなど6勝。シニアで2勝。ゴルフの侘び寂び、温故知新を追求する
週刊ゴルフダイジェスト2021年7月27日号より