【ゴルフに運はつきもの】Vol.11「韓国選手に負け続けた日々を思えば夢のような時代です」
ILLUST/Masahiro Takase
最強のサラリーマンとしてアマチュア時代に輝かしい成績を収め、49歳でプロ転向した“中年の星”こと田村尚之プロ。群雄割拠のシニア界で気を吐く異色プロが、自身のゴルフについて、そしてシニアツアーの裏側について語る。
最終日のバックナイン
何か起こるがもっている人は
栄冠を手にする
海外からまた嬉しいニュースが届きましたね。笹生優花選手が全米女子オープンで、見事な逆転優勝を飾りました。それも史上最年少優勝ですか。かつてアメリカ女子ツアーで賞金女王になった岡本綾子さんも、世界ランキング1位になった宮里藍さんも手が届かなかったタイトルです。凄いとしか言葉が見つかりません。本当におめでとうございます。
私はテレビ中継は見られなかったんですが、ネットで速報は見てました。てっきり独走していたレキシー・トンプソン選手の優勝かぁ、と思っていました。が、しばらくしてネットで「笹生優花選手と畑岡奈紗選手がプレーオフへ」となっているじゃないですか! いったい何があったの!? って思いましたが、トンプソン選手が残り8ホールで5打も落としてたんですね。本当にゴルフは、というかメジャートーナメントは何が起こるかわかりませんね。マスターズで松山選手も、最後はアップアップでしたが、勝ち切ったんだから改めて松山選手の凄さもわかりますよね。
笹生選手のお父さんは「トンプソン選手が落としたので、運が良かった」とおっしゃってましたが、間違いなく「運も実力のうち!」ですから。 笹生選手のセールスポイントは、なんと言っても抜群の飛距離ですが、それを生み出す強靭な下半身が特筆ものですよね。私の知る限り、笹生選手の下半身の強さとスウィングスピードの速さは、女子選手では世界のどこを探しても見たことのないレベルです。去年シニア入りした小山内護選手も言ってました、「下手したら、笹生にドライバーでやられる」って。
それにしても今年は日本人選手の当たり年ですね。まさか世界のメジャーで日本勢同士のプレーオフが見られるとは。この先もあるかどうか……。思えば、私がナショナルチームにいた10数年前、日本のアマチュア選手は男子も女子も、海外勢、特に韓国勢に歯が立たなくてね。マッチプレーだった2006年の日本アマの準決勝で、私が韓国選手に負けて韓国勢同士の決勝にしてしまったとき、責任を感じて本当に頭の中が真っ白になったのを今でもよく覚えています。優勝はキム・キョンテ選手でしたが、私は「韓国の選手には、何か背負っているものがある。それは日本の若手選手にはない何かでは」とコメントしたのを覚えています。正直、日本の選手は敵わないな、と。その後、韓国人選手が、特にアメリカ女子ツアーを席巻したのはご存じの通りですよね。
だから今、日本人選手がメジャーを獲る時代が来たことは本当に嬉しいし、ようやくその何かを背負って、退路を絶って海外に出て行く日本人選手達が出てきたんだな、と感慨深いものがあります。
笹生選手は、この優勝で得たアメリカ女子ツアーメンバー登録の権利を即座に行使しましたので、残念ながら、この先、日本でプレーを見る機会は少なくなりますが、世界でも突き抜けた選手になる可能性のある選手ですので、誰もが認める世界一の選手になるよう、ぜひ頑張ってもらいたいですね。
これで東京オリンピックも、ぐっと楽しみになりましたね。松山選手に笹生選手、畑岡選手かあ。東京オリンピックで笹生選手はフィリピン代表での出場になりますが、22歳になるときには、なんとか日本国籍を選択して、日本人選手として世界で戦ってもらえませんかね。勝手なお願いで申し訳ないですが……。
田村’s ワンポイント
「雨の日ゴルフはキャリー重視で」
田村尚之
1964年6月24日生まれ。「日本ミッドアマ」2連覇、「日本アマ」2位などを経て49 歳でプロへ転向。2016年「富士フイルムシニア」でツアー初優勝
月刊ゴルフダイジェスト2021年8月号より