【岡本綾子 ゴルフの、ほんとう】Vol.877「主役である選手の気持ちを考えた末にオトナは決断を下すべきだと思います」
岡本綾子「ゴルフの、ほんとう。」
米国人以外で初めて米女子ツアーの賞金女王となった日本女子ゴルフのレジェンド・岡本綾子が、読者からの質問に対して自身の経験をもとに答えていく。
TEXT/M.Matsumoto
>>前回のお話はこちら
- 米国人以外で初めて米女子ツアーの賞金女王となった日本女子ゴルフのレジェンド・岡本綾子が、読者からの質問に対して自身の経験をもとに答えていく。 TEXT/M.Matsumoto >>前回のお話はこちら 運動神経など潜在的な要素はあったとしても、ゴルフ、そして他のスポーツや仕事を含めさまざまな分野で並外れて伸びる人というのは、特別……
今年の日本ジュニアゴルフ選手権は、酷暑対策のため異例の短縮開催となりました。高校野球も7回制にする案が出ているなど、競技の本質にも関わる試合形式の変更についてどう思われますか?(匿名希望
・55歳・HC3)
東京は10日間連続猛暑日と記録を更新するなど、今年は各地で危険な暑さが続きました。
なかでも酷暑で知られる埼玉県で8月に開催された日本ジュニアゴルフ選手権は、開催直前に競技のフォーマット変更を発表しました。
これまで3日間54ホールで勝敗が競われてきましたが、酷暑の状況を重く見て、予選ラウンド2日間を9ホールずつに短縮して決勝ラウンドの最終日は18ホールで優勝を決めることになりました。
記者発表によれば、夏休み中に競技が集中して過密スケジュールになること、温暖化による熱中症の危険性が高まっていることなどから、大会の在り方が懸念されていたことも分かります。
ですが、開催前日になって突然、予選ラウンドの2日間を9ホールずつに短縮という変更には違和感があります。
会場設備やセキュリティなど各方面にわたる急な変更には制約や限界があったにせよ、これが次代を担う若きゴルファーたちにとって最良の方策であったかどうかは検証の余地があるのではと思います。
ほぼ同じ時期に甲子園で開催された高校野球は、大会第6日までは午前の部と夕方の部に分けて1日4試合を行う2部制が導入されました。
高校生アスリートが一堂に会して勝敗を競う競技会は、時間的な余裕のある夏休み中にしか開催できないし、球児たちの憧れとなっている甲子園は代わりのない聖地。
2年前からは5回終了後にクーリングタイムを設ける熱中症対策を講じてきましたが、試合の開始時間を設定し直すのは初めての試みで、さまざまな改革案が検討された末にひねり出された策だったのでしょう。
改革案のなかには9イニングでは体力的負担がかかりすぎると、7イニング短縮案も真剣に検討されたそうですが、それは野球というスポーツの本質に関わる「ルールの改定」に当たるのではないかと感じないではいられません。
競技の安全性、公平性を担保するルールやマナー、試合形式のフォーマットは、時代と共に変遷する場合があります。
たとえばゴルフの1ラウンドはどうして18ホールでなければならないのか?
16世紀にスコットランドでゴルフの原型が考案された時代、セントアンドリュース・オールドコースには12ホールしかなかったけれど、17世紀になる頃には22ホールに増設されており、ゲームは当然、22ホールまでプレーされていたそうです。
ですが1764年、市当局から宅地造成のため一部土地の返還を迫られたコースが18ホールに短縮して以来、ホール数18になったという説が有力だそうです。
正直言ってしまえば、フォーマットにはそれほど合理的な根拠があるわけではないのかもしれませんが、いままで多くのプレーヤーたちが長い歴史を刻み、規則やしきたりのもとで戦い方を考えてきたとすれば、そこに本質が息づいていると思います。
ジュニアが力を尽くしてぶつかり合う神聖な場を公正公平に保ち、なおかつ健康被害から守りたいと思う大会関係者たちの思いはとても理解できます。
規則改定の必要があるなら、フェアに不公平がないように心を砕くのが分別のある振る舞いですが、プレーヤー全員が平等になる方法は存在しません。
それがゴルフという競技ですし、ゴルフだけでなくどのスポーツでも、そして人生においても同じだと思います。
フォーマットの変更やルール改定に関わる者は、プレーしたい選手の気持ちを第一義として考えてもらえるとうれしいです。
危険な暑さだから仕方がないと決定するのではなく、もっともっと知恵を絞っていただきたい。
開催地や開催時期、スタート時間……、できる限り知恵を絞って対応するのがオトナの責任だと思いますし、少なくとも、先人たちが築き上げてきた形をそう簡単に変えようとは思わないでほしいです。
この夏、心からそう願うわたしでした。

「“事なかれ”という気持ちは自分の成長を止めてしまうと思います」(PHOTO by Ayako Okamoto)
週刊ゴルフダイジェスト2025年9月30日号より


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