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【岡本綾子 ゴルフの、ほんとう】Vol.874「“置きにいく”ではなく“狙い打つ”と表現するのがトップの選手だと思います」

米国人以外で初めて米女子ツアーの賞金女王となった日本女子ゴルフのレジェンド・岡本綾子が、読者からの質問に対して自身の経験をもとに答えていく。

TEXT/M.Matsumoto

>>前回のお話はこちら


プロや上級者が、時々口にする「置きにいく」というテクニックが分かるようで分かりません。飛距離を抑えて安全圏に打つという意味でしょうか。岡本プロも置きにいくショットはよく使ったのでしょうか?(匿名希望・50歳・HC18) 


わたしは「置きにいくショット」として意識して打ったことはありません。

もちろん、狭いホールなどシビアな状況では、狙い打つ場所を明確にイメージしたショットは当然しますが、やはり置きにいくショットという意識では打つことはありませんでした。

これは、ゴルフ的言い回しの問題であって、特別な状況に応じたテクニックや必殺技のような打ち方などを指す言葉でも表現でもないということだと思います。

わたしが思う置きにいくショットという言葉は、コースマネジメントやショットマネジメントといった考え方が浸透してきた1980年代以降、上級者用語としてゴルファーの間に広まったのではないかと想像しています。

トーナメント中継などでも、たびたびこの言葉を聞くことがありますよね。

そうした表現は、ゴルフファンにも広がって今ではほとんどのゴルファーの耳にも慣れ親しんでいるのでしょう。

使いやすい言葉ですから何げなく口にしますが、言葉は便利でもボールの行方は自由にはなりませんよね(笑)。


ボールを置きにいくとは自分の意思で打った成果を指します。

自分の意思でボールコントロールができるようになると、ゴルファーは計画通りに進めたくなるものなのかもしれません。

もし毎回、置きにいくショットができるのであれば、それに越したことはありませんが、置きにいったつもりのショットがなぜか曲がってしまうこともある。

簡単に上手くはいかないからこそ、ゴルフは奥深く神秘的な魅力があると思います。

野球のピッチャーにも“置きにいく”という言い方がありますが、ピッチャーがストライクを取るため置きにいって打たれたという話を耳にしますよね。

優勝争いのとき、確実性を求めて飛距離を出そうとせずフェアウェイへ置きにいくはずだったのに、プレッシャーのせいか体が思うように動かず大きく曲がってしまった……。

飛距離を捨てて安全策を取ったつもりが、反対の結果を招くシーンを最終日のバックナインでたまに目にしたことがあるかと思います。

ボールを置きにいくショット自体は間違ってはいませんし戦略的に良くても、結果的に上手くいかないこともあります。

失敗してしまうのは、経験不足からくる技術力の不確かさと、平常心を欠いていたということだと思います。

置きにいくショットとは、次のショットを有利なポジションから打つためのショットと言い換えることができます。

ミスを回避するための安全策というだけでなく、スコアを縮めるうえで成功の可能性の高い選択のひとつという考え方です。

ボールを置きにいくことを考えられるクレバーなコースマネジメントができるゴルファーは、おそらく自分のボールが右に飛ぶか左に出るか分からないというレベルではないと思います。

ゴルフは頭で考えた戦略を練習と経験で体に身に付けて競う競技です。

安全策も冒険に満ちたギャンブルも、今のレベルに応じた成功率の高い選択肢のなかから次の一手をチョイスしなければならないわけです。

その選択の幅を広げていくことが、ゴルフをプレーし続ける目的と喜びや楽しみなのだと、わたしは思っています。

「どんなスポーツでもトップ選手は、ネガティブなことは口にしないはずですよ」(PHOTO by Ayako Okamoto)

週刊ゴルフダイジェスト2025年9月9日号より