【岡本綾子 ゴルフの、ほんとう】Vol.870「トップで活躍するアスリートはプレッシャーが快感に変わるメンタルを持っています」
岡本綾子「ゴルフの、ほんとう。」
米国人以外で初めて米女子ツアーの賞金女王となった日本女子ゴルフのレジェンド・岡本綾子が、読者からの質問に対して自身の経験をもとに答えていく。
TEXT/M.Matsumoto
>>前回のお話はこちら
- 米国人以外で初めて米女子ツアーの賞金女王となった日本女子ゴルフのレジェンド・岡本綾子が、読者からの質問に対して自身の経験をもとに答えていく。 TEXT/M.Matsumoto >>前回のお話はこちら グリーン上のことですが、本当はスライスなのになぜかフックに見える目の錯覚に出合うことがあります。こんな錯覚はなぜ起こるのでしょう……
怖いもの知らずの若い時にはできたプレーが、経験を積むと思い切ってできなくなるといいますが、怖いもの知らずのメンタリティを持続するためには、どんなトレーニングをすれば良いのでしょうか?(25歳・匿名希望)
1球ごとに全力をかける戦いぶりを見ていると、勝敗の分かれ道ではメンタルがモノを言うなぁ〜と改めて思います。
無名の若手選手が、破竹の勢いで勝ち進むさまは気持ちのいいものです。
目の前にどんな強敵が立ちはだかっても、正面から挑み突破していく爽快感があるからかもしれません。
ゴルフ界でも新人選手の果敢なプレーぶりについて、まだ怖さを知らないから思いっ切り攻められていると言う方がいます。
かなり厳しい状況でもピンをデッドに狙ったりなど、成功率が高くない場所からのそのショットはリスクの高いギャンブルと言いたいのでしょう。
若い選手は、ベテラン選手にはできない選択をするということかもしれませんが、ファンはアグレッシブなプレーを求めている人が多いとは思います。
ただ、怖いもの知らずという言い方は周りがすることであって、自身は集中しているから無我夢中であり、自分が怖いもの知らずだと意識してはいないと思います。
では、プロゴルファーはみんな、若い時はアグレッシブだけれど、プロの水に馴れてベテランになると慎重な臆病者になってしまうのか。
そうではありません。経験を積むことでプレーの確率を重視するようになる面はあるとは思いますが、それが臆病への変化とは言えません。
ホールアウトするまでどんなプレーでスコアを出すか、その方法はゴルファーの自由です。
良いスコアを出すためには何通りもの選択肢があります。
自分の能力と相談して自分にできる最良の道を選ぶ。
ゴルフに限らず、人間はしばしば大事な場面で誤った選択をすることはありますが、その大きな原因は、切羽詰まった重圧に押しつぶされ正常な精神状態ではいられなくなる場合があることが挙げられます。
プレッシャーは経験値を積めば改善するわけではなく、プレッシャーのとらえ方が大事だと思います。いつだったか、青木功さんがこう言っていたのを思い出しました。
「優勝争いのプレッシャー? そりゃあ逃げ出したいくらいの緊張感だけど、いつもドキドキしたいし、またすぐ同じようなスリルが欲しくなるんだよ」
勝つか負けるか、そのギリギリの状況を乗り越える快感は味わったことのある者にしか分からないのかもしれません。
青木さんは「プレッシャーの色はそれぞれ違う」とも言ってました。
その都度のしかかってくるプレッシャーは、怖いけど新鮮なものなのでしょう。
だからこそ、その重圧との戦いも一回一回が特別な体験でかけがえのないもので、わたしにも同じような思いがあります。
アスリートは常に自分の限界を少しでも高め、少しでも上を目指すものです。きっとアスリートは本質的には怖いもの知らずなのかもしれません。
その経験を重ねていく中で、たとえば1ストロークの重みや怖さを知ることで慎重で用心深くなるのでしょう。
メンタルを鍛えるトレーニングと問われ、明確な答えはわかりませんが、常にステップアップする意識を持ち続けることで変わってくるかもしれません。
今よりもっと多くの怖いものを知りたいと思う気持ちがトップのアスリートには備わっていると思います。
どの世代の選手にも「怖いもの知らず」ではなく「怖いもの知りたがり」を目指すことが、メンタルの鍛え方につながるのではないでしょうかね。

「好奇心や探求心が強い選手はメンタルが強くなる素地があるかもしれませんね」(PHOTO by Ayako Okamoto)
週刊ゴルフダイジェスト2025年8月5日号より


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