【ゴルフせんとや生まれけむ】音羽山力三郎<前編>「屋内の土俵とは違う開放的な空間でやるスポーツにワクワク」

ゴルフをこよなく愛する著名人に、ゴルフとの出合いや現在のゴルフライフについて語ってもらうリレー連載「ゴルフせんとや生まれけむ」。今回の語り手は、元横綱・鶴竜として活躍した音羽山力三郎氏。
初めてクラブを握ったのは21年前、関取になるちょっと前でした。兄弟子の福園(元十両・鶴嶺山)さんがゴルフ大好きで、連れていってもらったんです。
千葉のほうのショートコースだったんですけど、クラブを借りて同僚の力士4~5人で回りました。初めてやったときの感想? いや~、こんなに難しいものかと愕然としました(笑)。というのも私、子どもの頃はテニスとバスケットをやっていて、それ以外もスポーツは万能で、何をやっても人並みにやれたんです。ゴルフも子どもの頃から衛星放送でタイガー・ウッズなどのプレーを見ていたので、大相撲を目指して来日したときからゴルフはやりたかったし、簡単にできるだろうとも思っていたんです。ところが実際にやってみると、まったく真っすぐ飛ばないし、第一、クラブがまともに振れないし、当たらない。いや~、これは容易なことではないぞと思って(笑)、でも、それが逆に、負けず嫌いの気性をかき立て、十両に上がってすぐマイクラブを買って本格的に始めました。
もともと力士は、年中稽古、稽古で盆も正月も休みなし。本場所が終わった後の1週間が唯一の休みなんですけど、その休みが来ると後援会の人とコースに出かけましたね。といっても現役の頃は、年に10数ラウンド程度。楽しく回れたらいいという考えで、スコアにもあまりこだわらず、まあ100を切れば上々といった感じで、当時のベストスコアは88。それよりも、ゴルフは青空の下で、きれいな空気を吸いながら自然に囲まれてプレーする、そのことが無性にうれしかったです。大相撲は、部屋での稽古も本場所の土俵も壁と天井に囲まれた屋内だから、ゴルフみたいに開放的な場所でやることがほとんどない。だから力士にとっては自然に返る感じで、芝生の上を歩くのはすごく新鮮でワクワクしました。
もう1つ、ゴルフに魅力を感じたのは、オンとオフの切り替え。プレーに集中するときとそれ以外の談笑しているときが、はっきりしている。リラックスと集中の区別というか、この切り替えは、ひょっとしたら大相撲にも好影響を及ぼしていたかもしれないと思っているんです。
また、ゴルフは友達作りにいいですよね。ゴルフ場に行くと朝から5~6時間一緒に過ごして、食事やお風呂も一緒でしょう。相手の性格から好みまで全部知ることができ、一気に親近感が増しますよね。逆に、自分も相手からしっかり見られているわけだから、あまりヘンなことはできないという自制心も働く。グリーン上のパッティングなんか、動きとしてはすごく単純だけど、メンタルとフィジカル、上半身と下半身のバランスがよくないと1メートルの距離が入らないし、本当によく考えられたゲームだな、とつくづく思います。
ご存じのように5年前に現役を引退して親方になりましたが、親方稼業は新弟子のスカウトや後援会作りなどで、ゴルフも大事な仕事の一つと聞き、よりクラブを握る機会が増えています。その話は次回に。
>>後編につづく

音羽山 力三郎
おとわやま・りきさぶろう。1985年生まれ。第71代横綱鶴竜。2001年11月場所に初土俵を踏み、5年後新入幕。2014年5月場所に横綱に昇進した。現役時代は身長186センチ、体重154キロの恵まれた体で、右四つ・下手投げを得意とした。2021年引退。23年に音羽山部屋を設立。モンゴル・スフバートル出身
週刊ゴルフダイジェスト2025年7月1日号より