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【岡本綾子 ゴルフの、ほんとう】Vol.861「ほんとうに一球ごとターゲットを意識して練習していますか?」

米国人以外で初めて米女子ツアーの賞金女王となった日本女子ゴルフのレジェンド・岡本綾子が、読者からの質問に対して自身の経験をもとに答えていく。

TEXT/M.Matsumoto

>>前回のお話はこちら


試合の練習場で見ていると、あまり有名ではない選手も有名プロと同じくらい、もしくはそれ以上のショットを打っているように感じることがあります。でも、試合になるとやはり有名選手は結果を出してきます。練習と本番の違いはどういうところにあるのでしょうか。(匿名希望・HC12)


練習場ではいいショットを安定して打てるのに、コースに出るとミスを連発してしまう。

確かにそのようなことは珍しいことではないですし、プロでも同じです。

これはショットを打つ技術的なものではなく、メンタルが影響していると思われます。

街中の練習場であれ、トーナメント会場のドライビングレンジであれ、決まった打席から一定方向に向けて打っていく空間は、どちらも「箱の中」の空間だと思います。

森や林に囲まれた「自然の一部」に溶け込んでいるコースとは違い、構えに入ったプレーヤーの目に入ってくる景色は変化しませんからね。


その違いが、集中力の緩みを生むのではないか、わたしはそう考えています。

練習場という箱の中でのショットなら、打つ場所を選んで狙い、おおよそ一点に焦点を合わせてスタンスを取り、意識も集中することができる。

ところが、パノラマ状に雑然と景観が広がっているコース内ではそれが難しくなる。

要は一点に集中できるかどうかの問題です。ホール全体の地形や障害物の配置、フェアウェイの傾斜や芝目の向きに加え、風の方向や強さを、グリーン周囲に伸びる樹々のゆらぎから読み取る。

目に映る視覚情報をもとに、次の一打をどのように打つかを判断する必要があるからです。

目を使ってデータ収集をしようとすればするほど、逆に視線の焦点がぼやけ、はっきりした映像を結ぶことができなくなってしまう。

目が泳ぐような状態ですね。

たまにそのような状態になっているプレーヤーを見かけることがあります。

それが練習場では上手いのに、コースだと上手く打てなくなる現象の原因ではないでしょうか。

あらゆるショットで状況に応じて一打ごと違う条件が突きつけられる。

それに対して目や肌など五感を研ぎ澄ませ対応策を決定する。

そのなかでも重要な視覚情報が明確でなかったり誤っていたりすれば、当然、ショットの結果にも期待は持てません。

自分の置かれた状況を見て受け入れ、きちんと把握して能力を発揮するため、さまざまな状況を時間をかけ経験することで感覚が研ぎ澄まされていくものだと思います。

そう考えて最近のゴルフ事情を見渡したとき、街からはゴルフ練習場が姿を消し、インドアの練習施設をよく見かけるようになりました。

室内の鳥かご的な練習施設には、スウィングフォームはもちろん、高速カメラでインパクトをとらえて打球初速や打ち出し方向、回転数などを瞬時に計測する装置が備わって解析することができます。

多彩で徹底的なデータを参考にすることで、スウィングの課題を見つけることもできる。

ハイテク装置完備のインドア施設は、スウィングを作り、正しいスウィングを固めるためには適した練習場だと思います。

ですが、バーチャルな目標に向かって打つため、ターゲット意識が薄れてしまいかねないという可能性はあります。

インドア練習場だけでスウィング作りの練習をしてコースへ出たとき、生きた視覚情報が活用できないのではないかと思うこともあります。

データを重視すること自体は何も悪いことではありませんが、データに合わせるだけのスウィングを作ることが目的になってしまうとそれは違うと思います。

ショットの内容を分析して理想の球筋を追求するのもレベルアップの方法ですが、自然を相手にプレーすることをないがしろにしないでほしいと願っています。

インドアがいけないということではなく、目的を持って練習場を使い分けることが大切だと思います。

そして練習場で打ち込む際、一球一球、目標に向けどんな球筋で打っていくのかをイメージして集中してほしい。

そうすれば、いま実際にあなたの目に映っている景色から受け取る情報と、あなたの頭の中にあるイメージの球筋とをリンクさせる中身の濃い練習ができるはずです

「少ない打数でカップに入れるには、狙ったところに打つ練習が一番大事なのです」(PHOTO by Ayako Okamoto)

週刊ゴルフダイジェスト2025年6月3日号より