【ゴルフせんとや生まれけむ】羽鳥好之<前編>「東京よみうり18番で“伊集院静劇場”」

ゴルフをこよなく愛する著名人に、ゴルフとの出合いや現在のゴルフライフについて語ってもらうリレー連載「ゴルフせんとや生まれけむ」。今回の語り手は、作家の羽鳥好之氏。
長らく勤めた出版社を3年前に退社し、それを機会に小説を書き始めました。歴史小説を2冊刊行した他、雑誌にコラムを連載したり、新聞に書評を寄せたりしています。
ゴルフは大好きでずっとやってきました。大学に入ってすぐ河川敷でデビューし、編集者になってからは各地の名門コースでプレーする機会などもいただいて、キャリアは40年以上になります。いまでも、年間20から30ラウンド程度は回ります。
20代の頃、スポーツ雑誌「Number」で、伊集院静氏にゴルフ小説を連載していただいたのがよい思い出です。イメージ写真をプロギアの広告写真を撮っていた宮澤正明氏にお願いして18話続けた読み切り短編は、いまでも『あなたに似たゴルファーたち』(文春文庫)と銘打ちロングセラーとなっています。短い小説の中に、ゴルフを愛し、ゴルフに苦悩する人々の姿が鮮やかです。ご一読下さることをお勧めします。
同じ頃、プロ野球を特集することが多かった関係から、かつての名選手とゴルフをご一緒する機会にも恵まれました。一番印象に残っているのは阪急ブレーブスの黄金期を支えた大エース、サブマリン投法の山田久志さんでしょうか。かつての主流だった、ボールを“上から潰す”ように打つショットがことに素晴らしく、低い弾道でピンを刺すように狙っていくミドルアイアンはプロ顔負けでした。いまは昔、80台で回っていた全盛期の私でしたが、いくらハンディをもらってもチョコレートを献上するばかりでした。
30代の半ばからは小説の編集を担当した関係で、作家とゴルフすることが多くなりました。先の伊集院さんとは数限りなくラウンドした関係でエピソードに事欠かないのですが、氏のゴルフの特徴はなんといってもここ一番の集中力でした。ある日のこと、ゴルフファンならよくご存じの「東京よみうり」18番ショートホール、最奥にワンオンした氏が狙うのは14、5mはあろうかという下りのライン。プロでも平気で3パットするグリーンで、氏はこう言いました。
「羽鳥、これ、絶対に入れるからな」
失礼ながら私は内心、苦笑しました。まず入るようなラインではなく、入らなければ、確実にグリーンの外まで転がり出る状況です。ともかく、どうやってカップ付近で止めるか、それすら難問の大ピンチで、トウを上げるいつものスタイルからタップされたボールは、大きく弧を描いてカップに吸い込まれていったのです。同伴の佐野洋さんも唖然とする中、氏は涼しい顔でカップからボールを拾い上げました。
作家のコンペにもよく参加しました。イギリス仕込みだった海老沢泰久さんのコンペは常に完全ノータッチのルールに厳しいものでしたし、女性作家の桐野夏生氏のコンペは女子が多くて華やかでした。中でも楽しかったのは時代を代表する流行作家、渡辺淳一さんの北海道ツアーでした。文壇華やかなりし頃の豪華コンペについて、次回ご報告します。
>>後編につづく

羽鳥 好之
1959年生まれ。群馬県出身。早稲田大学仏文科卒。1984年文藝春秋に入社し、「週刊文春」「文藝春秋」「オール讀物」など、雑誌編集の道を歩む。退社後の2022年、『尚、赫々たれ 立花宗茂残照』で作家デビュー、本書で日本歴史時代作家協会賞を受賞した。23年から金沢学院大学特任教授。
週刊ゴルフダイジェスト2025年6月3日号より