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【ゴルフせんとや生まれけむ】春風亭一蔵<前編>「ゴルフと落語は似ている」

ゴルフをこよなく愛する著名人に、ゴルフとの出合いや現在のゴルフライフについて語ってもらうリレー連載「ゴルフせんとや生まれけむ」。今回の語り手は、春風亭一蔵氏。

僕ら噺家は修業期間が結構厳しいんです。見習い、前座、二ツ目、真打と進んでいくなかで、見習い、前座の間は基本的に娯楽はNG。その間は師匠にくっついて、噺家としての作法を学びます。ですから、僕もゴルフはずっとやりたかったんですができず、初めてクラブを握ったのは30を過ぎて二ツ目になった時。それもフィリピンのマニラでした。その時、ANA主催の全日空寄席というのがマニラであって林家正蔵師匠、橘家圓太郎師匠と現地に行きました。圓太郎師匠がゴルフ大好きな人で、落語会が終わった後にゴルフをやろうということになったんです。

ただ、正蔵師匠は忙しくて落語会の翌日に帰国してしまいました。僕1人だけホテルに置いていくわけにはいかないとなって「お前も一緒に来い」と圓太郎師匠に言われて付いて行きました。それが初体験。これを機に僕はゴルフにハマって、日本に帰ってからもプレーするようになりました。ただ、マニラでは1人に1人キャディさんが付いたから日本でもそうなのかと思っていたんです。なのに、帰国したらほぼセルフ。ちょっとしたカルチャーショックでしたね(笑)。 

初ゴルフにはもう1つ強烈な思い出があります。圓太郎師匠に「明日はすぐ回れるようにゴルフの格好で来い」と言われたので、ゴルフウェアで行ったんですね。でも、着替えを持っていくっていうのを知らなかった。灼熱のマニラのコースをスルーで回ってその後、豪華な料理が並んだ食事会に汗だくのウェアのまま参加。「着替えが必要って教えておいてよー」と、内心思いました(笑)。 

ゴルフをする噺家の仲間がよく言うことがあります。それはゴルフと落語はよく似ているってことです。ひとたび高座に上がったら、お芝居などとは違って誰かが助けてくれるわけじゃなくて1人で闘うしかないんです。例えば、言葉が出なくなってもお客さんにウケなくても自分で何とか挽回しなきゃいけないし、悔しいと思って声を張り出すとお客さんがさらに引いていくこともある。逆にお客さんにウケている時は波に乗って、トントンと話がスムーズに進みますし、客席がドッと沸くんですよ。 

その意味でいうと、ゴルフも調子が良ければスコアがまとまりますけど、ちょっとつまずくとすぐに9とか10とか叩いちゃうじゃないですか。でも「もうダメだ」と思っても修正できる力があれば何とかスコアをまとめることができる。その点は落語も同じだなあと思うんです。 

昔はゴルフをやると仕事につながるといって師匠たちは盛んにゴルフをやったみたいですけど、最近、落語界ではゴルフをやる噺家は非常に少ないです。なかには「ゴルフに行く時間があったら稽古しろ」と、師匠がゴルフを許可していない一門もあります。でも、僕は今お話ししたようにゴルフと落語はよく似ていることもあり、噺家はゴルフをやったほうがいいと思っています。それで、後輩を一生懸命誘って、現状では若手で5人くらい、人に迷惑をかけないくらいのスコアで回れるという人が出てきました。ここまで10年かかりましたけど、これからももっと増やしたいですね。

>>後編につづく

春風亭一蔵

1981年東京生まれ。高校卒業後トラック運転手などを経て2007年、春風亭一朝に入門。12年二ツ目、22年に真打に昇進。ベストスコアは95

週刊ゴルフダイジェスト2025年3月25日号より