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【岡本綾子 ゴルフの、ほんとう】Vol.851「ゴルフが好きか? という質問には少し考えてしまいます」

KEYWORD 岡本綾子

米国人以外で初めて米女子ツアーの賞金女王となった日本女子ゴルフのレジェンド・岡本綾子が、読者からの質問に対して自身の経験をもとに答えていく。

TEXT/M.Matsumoto

>>前回のお話はこちら


プロゴルファーになるためには、並大抵の努力ではなれないと思います。やはり、プロになれるような方々は、心底ゴルフが好きな人なのでしょうか?(匿名希望・48歳・HC13)


改めて、ほんとうにゴルフが好きですか? と質問されると少し考えてしまいます。

もちろん、嫌いではありませんが、大好きでたまらない、というわけでもないのが正直な気持ちだからです。

もともと、わたしがクラブを手に取ったのは、社会人として自活できるよう、職業としてのプロゴルファーを目指してのことでした。

そのいきさつもあり、これまでそのような質問に対して「好きだ嫌いだという前に、ゴルフはわたしにとっての生活の糧なのです」という感じで答えてきました。

小さいときにゴルフというスポーツに出合い、好きでたまらなくなり、ひたすらゴルフに打ち込んできた延長でプロになった、というような選手に比べると、わたしが始めたキッカケは違います。

ゴルフを通じてのたくさんの人との出会いや出来事によって生まれた感動は、かけがえのない財産であり宝物です。

その意味でゴルフにはいくら感謝してもしきれないし、ゴルフに対して深い理解と愛着があるのも確かです。

だからこそ、簡単に好きとか嫌いといった評価で分類してほしくない。

ゴルフに対する自分のほんとうの思いを守りたい――という気持ちから、あえて生活の糧というドライな答え方になってしまうのでしょう。


それに、ゴルフの道を選んだことでわたしの人生が豊かなものになったのは間違いありませんし、その道が平坦ではなかったとはいえ、数え切れないほどの幸運に恵まれていたことも事実です。

ですから、間違っても嫌いだなんて考えはありません。

いずれにせよ、わたしの思いは複雑で、単純に好きだからやっているとは表現できません。

でも、いまの若い選手たちに同じ質問をすれば、「好きです」と答えると思います。

わざわざ「嫌いだけど仕事だからやってます」と言って、ゴルフに夢やロマンを思い描いている方々やゴルフファンにけんかを売る必要はないですからね。

なかには、プロとして自分から「好き」とは言いたくない人もいるかもしれません。

英才教育を施され、プロになって賞金を稼ぐように仕向けられてきた、と思い込んでいるプレーヤーもいないことはないです。

プロになるための努力や猛練習は、みんな同じように積み上げてきたのでしょうが、その経緯や内容、思いはそれぞれ。

歩んでいく道も十人十色、千差万別です。

たとえば、超絶技巧の若き天才ピアニストが世界的なコンクールで優勝して脚光を浴びたりすることがあります。

幼少時から猛レッスンを重ねて感性と演奏テクニックを磨いてきたかもしれませんが、ほんとうに初めからピアノや音楽が心から好きだったのでしょうか?

レッスンは、肉体的にも精神的にも想像を絶するほど過酷だったに違いないし、厳しい毎日の中でピアノが嫌いになる瞬間はなかったのでしょうか。

ここで少し考えてみてください。

練習が嫌いになりレッスンをやめてしまったとすれば、その後のコンクール優勝もあり得ません。

「途中で嫌いにならなかったのか?」という疑問は、結果が出るまで練習を続けた人にだけ向けられるもので、「嫌いになったとしても努力は続けた」ことの確認ともいえますよね。

プロテスト合格や初優勝など、プロゴルファーにとっての成長の節目はいくつもあると思います。

そのステップのどこかひとつにでも到達しないことには、好きも嫌いもありません。

プロがゴルフ好きのアマチュアの方とラウンドする際、普段から抱えている悩みを質問されるとき、「上手になったらなったで、また大変ですよ〜」って、応じたりします(笑)。

常に奮闘しているアマチュアの方を見ていると、そういう悩んでいるときが一番楽しいんだろうなぁ〜と思うこともあります。

一方、若いプロたちと話をするときは、ゴルフが好きかどうかより「ゴルフをやってて、いま楽しい?」と聞くようにしています。

たとえ好きと思えなくても、気持ちよく練習に励んでもらいたいと思うからです。

「上手くいかなかった時期がある人ほど、この先きっとゴルフが楽しくなると思います!」(PHOTO by Ayako Okamoto)

週刊ゴルフダイジェスト2024年2月25日・3月4日合併号より