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【岡本綾子 ゴルフの、ほんとう】Vol.849「生身の人間はプレーヤーの感性、感覚、表情や気持ちまで読み取ることができると思います」

米国人以外で初めて米女子ツアーの賞金女王となった日本女子ゴルフのレジェンド・岡本綾子が、読者からの質問に対して自身の経験をもとに答えていく。

TEXT/M.Matsumoto

>>前回のお話はこちら


先日、テレビ番組でイチロー選手が「今のメジャーリーグはデータ過剰重視でつまらない」と嘆いていました。ゴルフも同じではないか。社会のAI化が進むなど、岡本さんはスポーツの未来をどう考えますか?(匿名希望・39歳・HC10)


近年、AIに関する話題を耳にします。何でもAIという風潮には逆に少し疲れますが、それだけ人手不足であり技術革新が起こっているということが言えるのでしょう。

いずれ、AIロボットが人間の老後を介護する世界になっていくのかもしれませんね。

一気にデジタル化が進んだのは、パソコンが身近になった1990年代半ばくらいで、以降スマホが普及して現代に至るという感じでしょうか。

スポーツ界も1990年に野村克也さんが万年Bクラスだったヤクルトスワローズの監督に就任して、経験や勘に頼らずデータを重んじる「ID野球」を掲げ、リーグ優勝。

日本シリーズも制したことを思い出します。

ただ、アスリートの世界では以前からこうした方向には進んできたように思います。


科学的な運動理論をもとにしたトレーニング法とともに、筋トレのマシンが導入され、それまでの根性練習からの移行が進んできたような気がします。

そこで、ここへきてデジタル化への疑問の風向きも表れたということでしょう。

イチロー選手の話はデータを重視するあまり、自分で考えることがおろそかになる危険性を指摘するものでした。

イチロー選手は番組の中で「目に見えるデータも大切だけど、野球は目に見えない、気持ちや感性といったものも大事にしなくちゃいけない」と訴えていました。

データを収集して参考にするのはいい、でもデータにがんじがらめになって動けなくなるのは本末転倒ということでしょう。

ゴルフのレッスンでも最先端の機材が導入され、さまざまなデータ解析をして日々の練習の現場に生かされています。

さらにスマホでも簡単にデータ計測できる時代です。

すると、レッスンをつけるコーチは誰でもいいのでしょうか?

これだけデータが見えているのですから、コーチはその数字が今後どうなればいいかを伝えるだけでいいのでしょうか?

そのような指導法で上達できるほど簡単なものではないと思います。

スウィングの形や数値には表れないゴルファー個々の悩みを見抜き、解決法や練習法などをアドバイスするのが本来のコーチであり、生身の人間でないとできないことだと思います。

数値の収集と集計などの膨大なデータの分析はコンピューターに任せたほうが時間短縮はできます。

しかし、どんなデータ項目を集め、集めたデータの分析結果をどう解釈するかは人間です。

時代が進むなか、科学の進歩によってスポーツも進化します。

その恩恵を受けている現代のゴルファーは、昔のゴルファーより確実に上手くなっているとは思います。

手にできるギアも進化しています。

その意味で今後も世界のトップ選手の各データを蓄え、さまざまな解析を進めていけばゴルフもさらに発展し進化していくとわたしは思います。

だからといって、今のゴルファーがかつての選手よりも優れているとは一概には言えません。

「目には見えない」部分、人間の感性や感覚に本質が隠されていると思うからです。

いま、タイガーやマキロイ選手らによってシミュレーションと実際のプレーを融合させた新しいゴルフリーグ「TGL」が開幕したそうです。

ゴルフの未来を開く一歩になるのかどうかはわかりませんが、ゴルフをやるのは人間ですからね。

「スウィング中に突風が吹いても、瞬時に対応しようとするのが人間ですよね」(PHOTO by Ayako Okamoto)

週刊ゴルフダイジェスト2025年2月11日号より