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【岡本綾子 ゴルフの、ほんとう】Vol.836 「わたしが言う“エイ、ヤー”とは『決断と実行』という意味です」

米国人以外で初めて米女子ツアーの賞金女王となった日本女子ゴルフのレジェンド・岡本綾子が、読者からの質問に対して自身の経験をもとに答えていく。

TEXT/M.Matsumoto

前回のお話はこちら


右に曲げてしまう苦手なホールがあり、そのホールになると体が動きません。岡本さんは以前、最後は「エイ、ヤー」で振るしかないと話しておられましたが、どうすればその境地まで行けるのでしょうか?(匿名希望・44歳・HC12)


ショートパットやアプローチなどで、ボールを前にすると急に体が動かせなくなったり、ひどく不自然な動きになってしまう――いわゆるイップスと呼ばれる現象は知られます。

調べてもらったところ、イップスと名付けたのはトミー・ア―マー氏(1896〜1968/メジャー3勝)だそうで、ゴルフのみならず野球やサッカーなどさまざまなスポーツ種目や器楽演奏の分野にまで広がっているそうです。

スポーツ科学の現場では、必ずしも気持ちの病とは言えないとの見方もあり明確な治療法などは確立されてはいないそうです。

人間は習慣などルーティンによって行動することが多くあります。

いつも通りの動作は、意識しなくてもスムーズに正確に繰り返すことができる一方、いつも失敗ばかりしている動作に関しても、毎度同じようにぎこちない動きになってしまうことがあるでしょう。

苦手意識、すなわち、これからやろうとするショットの結果を恐れることから起こるのではないでしょうか。


でも、ミスをしたからといって、どれほどのダメージを負うのか考えてみてください。

わたしも目の前のショットを打つ時に、不安に感じることはあるけど、いつだって「命を取られることはない!」と思っています。

私たちがやっているのはスポーツなのです。

成功する確率が低いショットを打つ際は怖さを感じることもあります。

上手くいくかどうかは打ってみないと分からない場合は必ずあります。

それは避けては通れない関門であり、それがスポーツに求められるチャレンジなんだと思います。

難関に挑むとき失敗はつきものです。

たとえミスを犯したとしても、すぐに切り替えてそこから先へ進まねばならない。

必要なのは、チャレンジに向かうか退くかの判断であって、何でもかんでもぶつかっていけばいいという行動ではありません。

自分の持てる技量と与えられた状況を天秤にかけ、どれだけの成功率があるかを冷静に判断する。自信というメンタルを含めて決断を下せばあとは実行あるのみです。わたしは若いころから、いつも決断と実行という言葉を口にしていたように思います。

おそらくそうやって自分に、怖がっても仕方ないと言い聞かせていたのかもしれません。

「エイ、ヤー」で振るしかないという言い方をしてきたのも、わたしなりの決断と実行だった気がします。「エイ」が決断で「ヤー」が実行だったりして(笑)。

自分の力、自分の技術なら今からやろうとする狙いは成功できるか、その見極めが客観的にできるかどうかが重要になってきます。その根拠は、毎日積み重ねてきた練習と経験の中にしかありません。

練習もしてないのに、都合のいい願望を抱いても無理なのです。

怖さは存在しますが、体を完全に縛ってしまうほど絶対的なのものではないはずです。

これまで重ねてきた練習と経験をもとに可能性をシミュレーションする。

そして最後に決断と実行の「エイ、ヤー」です。

厳しい言い方かもしれませんが、苦手なホールに来たからといって体が動かなくなると公言するのは、自分の苦手意識やそのホールの難しさを訴えることで同情を求めているようにも思えます。

いまより上を目指している人であれば、「エイ、ヤー」の気概を少し頭の片隅に入れておくと、その意味がきっとわかるときが来ると思いますよ。

「“練習する”のではなく“どのように練習に取り組むか”です」(PHOTO by Ayako Okamoto)

週刊ゴルフダイジェスト2024年11月5日号より

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