【岡本綾子 ゴルフの、ほんとう】Vol.827「“クセ”と“個性”の違い」
米国人以外で初めて米女子ツアーの賞金女王となった日本女子ゴルフのレジェンド・岡本綾子が、読者からの質問に対して自身の経験をもとに答えていく。
TEXT/M.Matsumoto
近年は独特なスウィングをする選手が少なくなってきましたが、昔から「個性を生かす」という言葉もあります。生かしていい癖と悪い癖があるなら、その線引きはどこでするべきなのでしょうか。(匿名希望・39歳)
辞書で「癖」を引いてみたのですが、あまりイメージが良くない解釈で書かれていました。
それを考えると質問にある、生かしていい癖、悪い癖は一般的にはあまりしてはいけない動きとして見られる傾向にあるのかもしれません。
普段、何気なく使っている癖という言葉には、意外なほどマイナスイメージがありました。
そこで問題なのは、「癖」なのか「個性」なのかということです。
ゴルファーが100人いたら100通りのスウィングがあるとも言われます。まったく同じ体格、体力の人はいないのですから、
同じようにクラブを振っても厳密に言えば、すべて同じ動きにはなりません。
100通り以上のスウィングがあると表現しても間違いはないと思いますが、スウィングの基本を学ぶうえでは、上級者の体の動きを参考にして取り入れ、その動きをするための反復練習を繰り返さないと上達は見込めません。
その結果、基本に沿った理にかなった自分だけのスウィングを身に付けることになり、それは癖ではなく個性として表現されるスウィングになります。
たとえば練習していくうえで、トップで手首が手のひら側に曲がったり、インパクトでの顔の向きが目標方向に向いたりなど、自分では意図していないけど無意識になってしまう形があるとします。
もしそれでスウィング全体のリズム&テンポが悪く、ボールをとらえるタイミングが悪くなるようであれば、この動きは個性ではなく癖なのだと思います。
良いスウィングとは、リズム&テンポ良く振り、目標までボールを確実に打てる動きになります。
ですから、癖のように思われる動きでも、リズム&テンポよく振れるようになれば、それは癖から個性へと変化していきます。
常にリズム&テンポよく振れるまで反復練習することで、癖ではなく個性と表現されるようになってくるはずです。
余談ですが、以前、ある選手と話しているときに気になることがありました。
その選手は、こちらが話をしている間、顔を向けずに目だけを動かして返事をする癖がありました。
顔の角度によっては失礼な行為なので、ちゃんと顔を向けて目と目を合わせて返事をするように助言をしました。
そうしたら、直接には関係ないですが、ショットで顔を動かしてスウィングするようになった、って冗談を言われたことがありました(笑)。
人に対する態度や振る舞いなどは、自分の意識次第で改善できるとわたしは思っています。
それは癖か個性かといえば、癖ですよね。
ですから、癖というのはなんとなく気持ちの良い行動や動きではなく、個性とは違うものだと思います。
癖と個性は似て非なるもの。
なぜなら、癖は自分次第で直すことができるからです。
今回の質問を通じて、そんなことを改めて考えてみるキッカケになりました。
「癖ある人より、個性的な人のほうが魅力を感じますよね?」(PHOTO by Ayako Okamoto)
週刊ゴルフダイジェスト2024年9月3日号より