【林家正蔵の曇りのち晴れ】Vol.303「リラックスが好スコアのカギの巻」
よし! 今日のゴルフも頑張るぞと意気込むも前半に大叩きをして意気消沈、もう後半は楽しめばいいや。そんなことを思っていると、後半は好スコアが出る。といった経験をした人は少なくないと思います。前半からリラックスしてラウンドできていればこんなスコアに悩むことはないんですけどね……。
ILLUST/Chuji Aoshima
前半叩くと後半のスコアは伸びやすい?
「へぇー、パープレーだったの?」と、楽屋に入った途端に仲間の大きな声が耳へ飛び込んできた。「本当かよ! パープレーとはすごいやー」と別の噺家 。心底驚き、喜んでいる。芸人同士だと、悪口、陰口が楽屋では飛び交うときもあるが、純粋にびっくりしている中には、お祝いの気持ちが間違いなく込められている。
「おはようございます」と挨拶して中に入る。我々芸人や役者さんはどんなときでも「おはようございます」が挨拶の言葉になる。これが夜でも同じだ。だから知らない人はビックリする。「こんばんはー」とは言わないのですかと。これは「お早くからご苦労様です」が短くなって「おはようございます」と言うようになったと前座の頃、先輩に教えてもらった。
「パープレーって聞こえたんですが」と言うと、「そうそう! 玉ちゃんがパープレーで回ったのよ」。玉ちゃんとは五明樓玉の輔師匠のことである。確かに噺家の仲間内では玉ちゃんが近頃腕を上げたとか、楽屋にいるときに当人から朝起きてゴルフの練習してきたんですよ、なんてことを聞いていた。気が付くと当人がいたので、「すげぇー72で回ったの?」と声をかけると「違うんですよ。ハーフだけ。前半は47も叩いた後のパープレー。だからハーフパープレーなんです。ワハハ」と笑っていた。
生まれてこの方、ハーフパープレーなんて言葉は聞いたことがないが、とにかく36で回るとは大したものである。「なんだか前半、47も打っちゃたんで、気分が楽になって、あれよあれよと上がってみたらパープレーだったんですよ」。その気持ちよくわかる。前半で大叩きすると後半はどうでもいいやという気分になるのが普通だが、どういうわけか私も、前半叩くと後半どうでもいいやというよりは、欲も出さず、リラックスしてプレーできます。そして、波に乗るといいスコアが出るときがある。
前日の大騒ぎで前半のスコアはボロボロ
実を申せば、私のハーフの最少スコアは1アンダーである。場所は埼玉の某コース。名門というよりはリゾート的で、ホテルも付いて温泉に入ってというようなラフな気分でゴルフのできるコースだ。近くの高速出口から1時間は優にかかるが、フェアウェイは広く、OBも少なく、パー3も長いもので150ヤード。だからいいスコアが出やすい。バンカーもあるのだが、アゴは高くなく、池もよほどのミスをしない限り入らない。だから大概の人はいい気分でホールアウトを迎えられる。その日は、前日入りして、ホテルの温泉にのんびり浸かり、夜は仲間8人でどんちゃん騒いで、翌日まだ酒が抜け切らない状態でスタートになった。秋から冬に近い平日だったので、人影もまばら。カートでスイスイ。キャディさんも付かないセルフプレーで無風の晴天。気分よく回りたいが、昨夜久しぶりに飲んだ日本酒が体の中に残っていて、自分の息で酔えそうなぐらい酒臭い。
しかし頭が痛いとか、気持ちが悪いということもなし。なんだか、フラフラというよりかはフワフワしているのだ。でも肩の力が抜けているのか、ドライバーでも、アイアンでもキレがよく、結構気持ちよくゴルフを楽しむ。
ところがパットが入らない。3パットのオンパレード。イライラするというよりかは、5ホールも立て続けに3パットすると、もうなんだか自棄になるというよりも面白くなってくる。どうせ次もそうだろうと6ホール目も1メートルの距離をカップに蹴られて3パット。スタートから連続6ホール。こうなると7ホール目もとなるが、惜しいことに2パット。「あー2パットだ」と悔しがると、「バカ! それでいいんだよ」と笑われる。
結局このコース、特にグリーンとは相性が悪いんだということにする。上がってみると7番以外すべて3パット。しかも7Iと9Iを間違えてグリーンに届かないミスも含めてなんだかんだの49。もういいや今日は楽しくと、昼間抜けかけた酒を呼び戻すように生ビールをグビリ。そしてカツカレーを食す。不思議なもので、力がみなぎり、元気が出て気分もシャキーン。
リラックスが好スコアを呼び込んだ
そして後半がスタートする。どうせパーオンしても、3パットだろうと諦めていたグリーンは、後半の10 番で1パットのバーディ。さらば3パット。気が付けば18番をパーオン。友達が「おい海老名、おまえこれ2パットで入ればパープレーだぞ」。すると別の友が「オイ、プレッシャーかけるなよ。当人が意識するから、シッ!」と注意する。シーンと静まり返る。そのとき心の声のままにパット。コロコロコロ、カラーン。かくして1アンダー。だけどハーフの1アンダー。満足とは言えないが半分嬉しい気分になった。
「おはようございます」の挨拶は歌舞伎界から広がったと言われている。出番前に練習のために早く楽屋入りしている役者に「お早いお着きご苦労様です」と言ったのが始まり
大叩き お酒の力で 避けたいな
月刊ゴルフダイジェスト2024年10月号より