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【ゴルフイップス解体新書#10】若い選手は比較的治りやすい?「ドライバーイップス」の処方箋

アプローチイップスと並び、意外と多いのがドライバーイップス。とくに若い人に多いというが、メンタルコーチの石井亘氏によると、若い人のドライバーイップスは比較的治りやすいという。その真意とは?

前回のお話はこちら

GD イップスの相談で一番多いのはなんですか?

石井 やはりアプローチでしょうか。あとはドライバーイップスも多いですね。

GD パターイップスが多いのかと思っていましたが、ドライバーのほうが多いのは意外ですね。

石井 ドライバーイップスは若い人に多いかもしれません。最近私のところに来たのも、プロを目指している高校生でした。

GD 若いうちからイップスにかかってしまうとツラいですね。

石井 でも、若い人がかかるドライバーイップスは、比較的早く治ることが多い気がします。私のところに来た人は、半年~1年ほどで改善したケースがほとんどです。

GD どうしてでしょう?

石井 以前もお話ししましたが、“本物のイップス”と呼べる神経不全型のイップスは、技能が高度に確立されたベテランゴルファーだけがなるもの。一方で、若い人がかかるイップスは、萎縮の条件反射であるケースが大半です。

GD 萎縮の条件反射……過去のトラウマが原因で、スウィング中に体が萎縮してしまうパターンでしたね。

石井 そうです。ある高校生は、試合で恐ろしく難しいコースを回ったときに、ドライバーが曲がり始めたことがきっかけで、イップスにかかってしまったといいます。

GD 普段のラウンドならともかく、試合でそういう経験をしてしまったら、たしかにトラウマになりそうですね。

石井 はい、トラウマになるのは仕方がないのです。でもそれを自分で大きくしないことが大切なんです。

GD ドライバーが曲がった時に、ただのミスだと思えればいいのですが、それを「またか…」「やっぱりダメだ…」などと過去の記憶とオーバーラップして考えてしまうと、どんどん悪循環に陥ってしまいそうです。

石井 はい。前回「ゆらぎ」の話をしましたが、ミスが出ても、それは「脳のゆらぎ」によって誰でも起こりえるもの、と受け入れてあげることが大事です。

GD ゲームの「みんGOL」のゲージのたとえは分かりやすかったです。

石井 ドライバーイップスはとくに大きな大会で出るケースが多いのですが、そうした「ここ一番」という場面は、脳のゆらぎが強くなりやすい状況でもあります。「今はミスが出やすい状況なんだ」という認識があれば、気持ちを切り替えて次のショットに挑みやすくなるでしょう。

GD つまり、自分のイップスの原因について正しい知識を得て、ラウンド中の思考法などを改善していくことで、比較的早く治すことができると?

石井 そのとおり。イップスを長く抱えるベテランゴルファーのように複雑化していないぶん、対処がしやすいのです。

恐怖に“慣れる”訓練が大事


GD ラウンド中にできる具体的な対処法はありますか?

石井 効果的なのは、以前お話しした呼吸法です。プレッシャーのかかるティーショットなど、イップスが出そうな局面で、ルーティンのなかに呼吸法を取り入れることで、ドキドキを弱めたり、頭の中のネガティブな思考を抑えることができます。

GD ええと、たしか……レジデンス呼吸法!

石井 ……レゾナンスです。詳しいやり方は第7回を見ていただくとして、いずれにせよ、呼吸法をルーティンに取り入れて、一連の流れでボールを打つようにすれば、アドレスでもじもじすることもなくなり、スムーズにスウィングに入れるので、ミスの可能性を減らせます。

GD これはイップスでない人にも普通に参考になりますね。

石井 またラウンド中ではないですが、普段からできることとして、イメージトレーニングがあります。

GD ラウンドの前夜に布団の中で、1番ホールから順番にショットのイメージをすることがあります。それで眠れなくなってよく寝不足に……。

石井 ゴルファーあるあるですね(笑)。イップスの場合、私がやってもらうのは、イップスが起こる場面をイメージしてもらうことです。

GD え? そんなことをしたらイップスが悪化してしまうのでは!?

石井 もちろん、ドライバーが大きく左に曲がってOBになる、というようなイップスの症状そのものをイメージするわけではありません。あくまでその症状が出そうな場面――たとえば左が狭いホールだったり、左サイドに池が広がっているホール――をイメージして、そこで左へのミスをなんとか回避する打ち方をイメージするのです。

GD イップスが起こりやすい状況を思い浮かべるわけですか。なかなか思い出したくないですが……。

石井 はい。イヤだとは思います。しかし、そこで感じる恐怖に“慣れる”という訓練をすることで、実際にその場面を迎えたときに感じる不安や恐怖を小さくしていくことができます。

GD 嫌なことからはつい目を背けたくなりますが、あえてしっかりイメージすることで、嫌な状況に慣れる。逆転の発想ですね!

石井 これは心理学研究で裏付けられた、正しい対応法です。ただ、先に挙げた呼吸法も、このイメージトレーニングも、すぐに効果が出るとは限らず、効果を感じる前に挫折してしまう人も少なくありません。ドライバーの曲がりが小さくなるのも成功体験なんですが、なかなかそう捉えることができないのです。

GD そういう意味では、イップスをこじらせてしまわないためには、自分ひとりでなんとかしようとするのではなく、石井さんのような信頼のおける第三者の目が不可欠な気がしますね。

石井 はい。若いゴルファーがイップスに陥ると、本人も親御さんも、つい精神論に走りがちです。正しい知識と経験のある専門家に相談することで、思ったよりも早く治る可能性はずっと高まるはずです。

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石井 亘

いしい・わたる。ゴルフ好きのメンタルコーチ。「本来の力を発揮させる!」を信条に、20年にわたり、プロやテスト受験生、アスリート、音楽家、医師、経営者、中高生など1000人近くを指導。「メンタルトレーニング石井塾」主宰