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【ゴルフイップス解体新書 #9】イップスの克服が難しい理由は“脳のゆらぎ”が関係していた

ゴルフのイップスは簡単には克服できない厄介な代物だが、なぜこれほどまでに克服が難しいのか。メンタルコーチの石井亘氏によると、そこには「脳のゆらぎ」なるものが関係しているというが……。

前回のお話はこちら

石井 先日、軽井沢72の北コースでラウンドする機会があったんです。

GD ちょうど今週(8月9日~)開幕する女子の試合「NEC軽井沢72」の舞台ですね!

石井 はい。ラウンド前に予習をしておこうと思って、「オーイ! とんぼ」を読んでいったんです。

GD 第37巻から始まる「軽井沢ゴルフレディス編」が、まさに軽井沢72を舞台にしたお話でしたね。

石井 そのなかで、アプローチイップスに悩む朝菜ゆうなというベテランプロが出てくるのですが、改めて読むと、とてもよくできたストーリーだと思いました。

GD ありがとうございます。どんなところが?

石井 朝菜ゆうながアプローチイップスに苛まれながらも、主人公のとんぼとラウンドするなかで、楽しみながら克服に向かって前向きに取り組んでいくあたりは、イップスに悩む方にもとても参考になる部分だと思いました。

GD でも結局最後は……。

石井 はい。ネタバレになるのであまり言えませんが、最後のシーンも非常にリアルな終わり方で、それも含めてとても楽しめました。

GD 原作者のかわさき健先生自身も、研修生時代、ひどいイップスに悩まされていたそうです。

石井 だからこそあれだけリアリティのある描写になるのですね。

GD それにしてもなぜイップスはこれほどまでに克服するのが難しいのでしょう?

石井 いくつか理由はありますが、大きく2つの理由が考えられます。1つは“瞬間的に起こる”から。

GD 瞬間的に?

石井 はい。ゴルフイップスの多くは、ダウンスウィングのほんの一瞬の間に発動しますよね。たとえば、同じトラウマ反応であるスピーチや演奏などの「あがり症」に悩む人の場合、動作は比較的長く続くので、呼吸やイメージで委縮に対処しやすいのです。ですが、ゴルフスウィングは一瞬の動作。イップスの症状が出てしまったら制御のしようがないわけです。

GD スピーチや演奏などの場合はそこまで重症化しないと?

石井 はい。症状次第ですが、適切なサポートがあれば、比較的早く克服できる確率は高いです。

“脳のゆらぎ”がイップスの克服を難しくしている

GD 2つ目の理由は?


石井 症状が出るときと出ないときがある。これが非常に大きな理由であり、厄介なのです。

GD たしかにイップスは毎回必ず出るわけではなく、しばらく出ないと思ったら突然出ることがあります。

石井 ですよね。これがもし「毎回必ず出る」のであれば、対処はもっとシンプルです。

GD そんなものでしょうか。

石井 ギャンブルで考えてみてください。もし何度やっても当たらなかったら、そのギャンブルを続けますか?

GD いえ、あまりに当たらないと、続けようとは思わないですね。

石井 そう。たまに当たってしまうから、ギャンブルはやめられない。イップスもそうで、毎回必ず症状が出るのであれば、クラブを置いたり、左打ちに変えるなど、対処は決まります。でも、しばらくは症状が出ず、ある日突然出たりするから厄介で、自分がやっている対処法が正しいのか、そうでないのか、分からなくなってしまうのです。

GD ギャンブルのたとえは分かりやすいですね! でもなぜそんなふうに、イップスは起こるときと起こらないときがあるんでしょうか?

石井 私は「脳のゆらぎ」が関係しているのではないかと思っています。

GD 脳のゆらぎ? なんだかスピリチュアルな匂いがしてきました。

石井 いえいえ、怪しいものではありません。東大教授の池谷裕二氏の著書『単純な脳、複雑な私』(講談社、2013)でも詳しく説明されていますが、非常に科学的なお話です。

GD そうなんですね! 失礼しました。

石井 ごくごく簡単にいえば、ある情報が脳にインプットされたときに、脳は常に同じアウトプットをするわけではなく、その時の脳の状態=ゆらぎによって、アウトプットが変わってくるというものです。

GD 脳といえど、コンピュータのように毎回必ず同じアウトプットができるわけではないと。

石井 そうです。もし毎回同じアウトプットができるとしたら、ミスショットなんて存在しません。

GD たしかに。どんなトッププロでも、ときどき信じられないようなチーピンやプッシュアウトが出ることがあります。

石井 それも脳のゆらぎが関係しています。とくにストレスのかかる状況で、ゆらぎは大きくなりやすいですから。

GD どんなに練習を重ねていても、優勝争いの最終盤でミスが出てしまうのは、ゆらぎが邪魔をしているわけですね。

石井 はい。ちょうどゲームの「みんなのGOLF」のゲージのようなものだと思ってください。

GD ゲージの上をカーソルが動いて、タイミングよくボタンを押すとナイスショットが出るアレですね。

石井 単純化すれば、実際のゴルフも実は同じで、OKゾーンを外れたところでスウィングを開始すれば、誰でもミスが出るのです。大事なのは、ミスが出たときに「なんで!?」と思わずに、「そういうものなんだ」と思えることなんです。

GD なるほど。ミスはどんなときでも突発的に出るものだと理解しておけば、一度や二度のミスに心を揺さぶられることがなくなりそうです。

石井 もちろん、高い技能ほど、ゆらぎに負けにくくなるので、やはり練習は大切です。でもイップス症状を抱えているゴルファーのOKゾーンは、かなり狭くなっています。

GD でもOKゾーンは残っているんですね。

石井 はい、だからたまに打ててしまうのです。

GD 打ててしまう……。それはそれで嬉しいですが、「でもどうして毎回できないんだ!」と自分を責めてしまいそうです。

石井 一番いけないのは、ミスが出たときに感情的になってしまうこと。そうすると、自分でどんどんイップスの種を肥大化させてしまうのです。

GD イップスは治すのが難しいというよりは、自分で治すのを難しくしているだけとも言えそうですね。

石井 いいこと言いますね! そこに気づくことが、克服への第一歩です!

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石井 亘

いしい・わたる。ゴルフ好きのメンタルコーチ。「本来の力を発揮させる!」を信条に、20年にわたり、プロやテスト受験生、アスリート、音楽家、医師、経営者、中高生など1000人近くを指導。「メンタルトレーニング石井塾」主宰