【岡本綾子 ゴルフの、ほんとう】Vol.819「気持ちを引きずって良い結果を出す人にお会いしたことがありません」
米国人以外で初めて米女子ツアーの賞金女王となった日本女子ゴルフのレジェンド・岡本綾子が、読者からの質問に対して自身の経験をもとに答えていく。
TEXT/M.Matsumoto
先日、ツアー中継で解説者の方が切り替えが大事と話していたのが気になりました。岡本さんも現役時代、そのことは同じように心に留めておられたのでしょうか。(匿名希望・42歳・HC9)
気持ちを引きずって良い結果を出す人に記憶の中ではお会いしたことがありませんね。
切り替えが大事というのは、私をはじめ解説者はよく口にする言葉だと思います。
多くの場合、連続ボギーをしたり、ミスショットが続いたりして流れが悪くなった際に、その選手に対して気を取り直してほしい、と背中を押すような気持ちをこめて語られるフレーズだと思います。
ゴルフにミスは付きものです。
しかし、失敗のたびに悔やんだり嘆いたりしていては、自分からリズムを壊してしまい、さらに大きくて致命的なミスをしてしまう可能性もあります。
そのため、少なくとも次のティーイングエリアに移動する際には、前のホールでのミスや不運は水に流し、気持ちを切り替える。
失敗を引きずらないで心も体もリセットすることが大切だと言われてきました。
ゴルフに限らずスポーツや勝負ごと、一般ビジネスでも、上手くいかないときなども心機一転が必要ですよね。
口で言うのは簡単ですが、頭で分かっていることと、実際に経験してみて肌で感じることとは残念ながら違います。
わたしの経験上、プレー中に行われるべき気持ちの切り替え方は一様ではありません。
ボギーを重ねてズルズルいきそうなとき、切り替えて心を落ち着かせるのか。
それとも、逆境をバネにして奮い立たせたほうが正しいのか。
連続バーディで乗りに乗ってきたとき、勢いをそのままに強気で攻めていくべきなのか。
むしろ、気を引き締めて慎重さを忘れないよう注意するのか。
つまり、気持ちを切り替えるといっても、積極的攻撃的にムードを上げるのか、慎重になるのか、相反するギアチェンジがあると思います。
その意味で、放送席から投げ掛ける切り替えは大事という言葉は、適切なコメントではありますが、言われる選手にしてみればちょっと無責任な一言になる可能性もあるかもしれませんね。
何とか気持ちを落ち着かせるために水を飲んだり、軽くストレッチするとか、最近はいませんがティーショットを待つ間にタバコをふかしてみたり、ある選手は真顔で塩をまくしかないなんて言っていたことも聞いたことがありますが、プレーヤーにできることは限られる。
要は、本人の気の持ちようしかないのです。
今年の全米女子オープンで優勝した笹生優花選手は、最終日前半の6番パー3でダブルボギーを打って後退しましたが、彼女はこれを幸運のしるしだと考えたのだそうです。
前回優勝した2021年の最終日も2番、3番ホールで連続ダブルボギーを叩きながら、プレーオフを制して初優勝を遂げることができたからだというのです。
これも気持ちの切り替えと言えると思います。
このように考えることで、辛抱するところで辛抱して前向きなプレーで最後まで戦い切ることができたのだとすれば、気持ちの切り替えは、セルフコントロールそのものです。
わたし自身、現役時代はどんなふうに気持ちの切り替えをしていたか?
実は、どちらかというとあえて切り替えないようにするタイプだったような気がします。
流れが悪い時は、ムキになって逆らおうとはせず、じっと転機が来るのを耐えて待つ。
結局、心とか感情とかの問題なのですから、必要以上にジタバタしないことだと考えていました。
そうして、ホールアウトしたらその日のラウンドのことは忘れる。
食事に行ってもゴルフの話は本当にしなかったな~。
セルフコントロールのできない人は、コースを離れてもその日のミスを、ああだ~こうだ~と言い訳をする。
それはまだ引きずっているということなのでしょうね。
気持ちの切り替えが大事なのは確かですが、良くない方向へ切り替えてしまうことで、悪循環に陥ることもあるとは思います。
やってみないと結果は分かりませんが、好転させるための気持ちの切り替え方を自分自身で見つけ出すことは、きっとこれからのあなたのゴルフや人生に役立つと思いますよ。
「どの世界でもトップオブトップに立つ人にネガティブ思考はいないはずです」(PHOTO by Ayako Okamoto)
週刊ゴルフダイジェスト2024年7月2日号より