【岡本綾子 ゴルフの、ほんとう】Vol.812「質? 量? まずは“球を打つこと”ですよ」
米国人以外で初めて米女子ツアーの賞金女王となった日本女子ゴルフのレジェンド・岡本綾子が、読者からの質問に対して自身の経験をもとに答えていく。
ゴルフを始めたころコーチ役の先輩から「とにかく球数を打て」と教わりました。しかし、少し上手くなってくると今度は「質が大事だ」と言われるようになりました。質より量、量より質、どちらなのでしょうか。(匿名希望・44歳)
この間、久しぶりに顔を合わせた後輩プロたちと会食した際、一緒にいた自称シングルの男性が想像したことのない質問をして盛り上がりました。
たまたま、パターを手にせずグリーンに上がった際、ラインを読もうとしたとき集中できずに上手くいかない、そんなことありませんか? という質問でした。
ある後輩プロは「パターを手にしているかどうかは、ラインを読むうえで関係ないんじゃないかと思う」と答えました。
でも、改めてそんな場面を想像して考えると
「確かにいつも手に持っているパターがないと集中できない気がしてきました」
と回答を撤回しました。
よーく考えてみたら、パターを持たずにグリーン上でラインを読むという動作に入ったことはほとんどないと思います。
逆にラインを読むというとき、いつもパターを持っている状態がセットになって一体化している。
そこからパターという要素がなくなると、ラインを読む集中力も落ちてしまう、そういうことなのでしょう。
実はわたしも同じ意見です。
プレーするときの一定のスタイルのようなものがあって、知らず知らず決まり事に従って行動しているため、普段と違う手順や状況になると、途端に違和感を覚えて調子がおかしくなる。
だからこそ、セイム・リズム、セイム・スウィングが大切なのです。
日ごろから同じリズムでスウィングできていないと、プレッシャーのかかった状況下でいつもと同じスウィングをするのは難しいです。
その意味でも、パターを手にラインを読むという動作は、ある種ルーティンになっているということが言えるのかと思います。
すると、今度はルーティンの大切さが話題に上がりました。
アマチュアの方がプロと同じようなルーティンを真似することは間違ってはいませんが、なぜそれをやるのかを考えて行わないとあまり有益ではないとは思います。
ですから、ルーティン自体は大切ではありますが、大事なのはその意味を考えて自分のものにするかどうかということです。
たとえば畑岡奈紗選手が、ショットの直前にボールの後ろに立って飛球線方向を見ながらピョンピョンと2~3回ジャンプする光景を見たことがあるかと思います。
彼女は全身をリラックスさせる意図があってのことで、ただやっているだけではないということです。
そうしたことを考えるプロセス抜きに、何かをマスターすることはできません。
ルーティンに従うことは、自然に体が動くオートマチック化することとも言えます。
これにより、ショット前の邪念を払うことなどもできますが、すべてオートマチックにプレーできるものではありませんので、その部分は勘違いしてほしくありません。
わたしは初めてクラブを手にした時から、身近にいるゴルフの上手い人、成績を出しているプロの動きを見て、ここがいいと感じたらそれを取り入れたものです。
その動きや所作によって打ったボールがどう飛ぶかを確かめ、理にかなっているかを考え、自分のものにするかどうか判断していく。
わたしのスウィングは、そうした試行錯誤によって作り上げられたと言ってもいいかもしれませんね。
いまの時代、大概のことはAIに任せて運用できるとしても、ゴルフなどスポーツはいまのところそう簡単にはできません。
わたしは若い選手たちによく「悩むな、考えろ」とアドバイスするのですが、練習しても上手くいかず悩んだり迷ったりする。でも、手を止めて愚痴を言ったり悩んでいるだけでは何も始まらない。
どうすれば現状を打破できるかを考えて実践しろと言いたいのです。
体が自然に動くようになるには、それなりの反復練習が必要です。
最初は質より、量の球数がモノをいいます。
それから先は、ルーティンの本質を見極め、量と質の双方を求めて考えるゴルフの世界が始まる──居酒屋のゴルフ談義は、どこまでも繋がっていきそうですね(笑)。
「本質を考えるクセをつけることは、ゴルフだけでなく生きていくうえで役立ちます」
週刊ゴルフダイジェスト2024年5月7・14日合併号より
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