【ゴルフはつづくよどこまでも】Vol.164「ガンバリズム」の限界
高松志門の一番弟子として、感性を重んじるゴルフで長く活躍を続ける奥田靖己。今週もゴルフの奥深い世界へと足を踏み入れていく。
PHOTO/Tsukasa Kobayashi
前号で「6インチプレース」の話をしましたが、その球を打つことに自信がある人は球を動かしません。自信がないから動かすんです。
プロゴルファーでもアマチュアでも、ゴルファーは自分で、打つ前から「これは打てんな」と、だいたいわかっているんです。『多分当たらんやろうな』とか、『手前の池は越えへんやろうな』とか、打つ前に結果がわかるんですよ。
かといってコンペで許されているからと、いつも「6インチ」動かしてばかりでは上手なりません。そしたらどうすればいいのかですが、当たれへんと思ったんだから、「当たらんでええ」と思って打てばいいんですよ。
「当たったら儲けもん」と思うて打ったらいいんです。でもそんなときに、多くの人は何とかしたいと思うて頑張ってしまう。そして、もっとひどいことになるわけです。人間って、なかなか諦めが悪いんですね。
昔から「ネバーギブアップ」の精神を美徳のごとく言うけれど、必ずしもそういうわけやないですからね。我が身を振り返って考えればよくわかります。
一発OBを打った後の打ち直しは、力が抜けて上手いこといくことって割と多いはずです。そのときに「もうええわ」思うてませんか、いうことなんです。
アマチュアのコンペでも、午前のラウンドは、回る時間がごっつ遅くても、昼からはごっつ早なるいうケースがありますよね。朝はものすごい慎重に回るから、プレーヤーが詰まって仕方なかったいうて午前中に「50」叩いても、昼からは一杯飲んで「もうええわ」思うてサッサと回ったら「42」で回れたとかね。だから「ガンバリズム」の限界ということをよく知っておかなあかんいうことです。
日本人は諦めたらあかん、諦めたら負けみたいな考えがあるやないですか。でもね、じゃあミスする予感がするんでスコアを諦めずに、いつも「6インチ」やるんがいいんか、いう話になるわけですよ。
まあ、諦めているいうんではなく、海老原(清治)さんみたいにスッキリコッキリ回れる人はなかなかおらんです。「65」で回っても「78」叩いても一緒やねんから。あれはなかなかできへんですわ。
「ももええわ、思うて打ったら、力が抜けていいところに行くことは、ようありますわね」
奥田靖己
おくだせいき。1960年、大阪生まれ。93年日本オープンなど6勝。シニアで2勝。ゴルフの侘び寂び、温故知新を追求する
週刊ゴルフダイジェスト2024年2月6日号より