【岡本綾子 ゴルフの、ほんとう】Vol.792「メンタルも技術も、自分で行動して試してみることが、現状を打破する唯一の方法です」
米国人以外で初めて米女子ツアーの賞金女王となった日本女子ゴルフのレジェンド・岡本綾子が、読者からの質問に対して自身の経験をもとに答えていく。
TEXT/M.Matsumoto
岡本プロにとってゴルフで一番難しいのはどのようなことでしょうか? 人によって違うとは思いますが、メンタルコントロールがとても難しく、改善に今がんばっているところです。(匿名希望・45歳・HC2)
ゴルフがメンタルスポーツであることはよく言われます。
もちろん、どんなスポーツでもメンタル面はプレーヤーが抱える問題のなかで大きな割合を占めています。
ただ、多くのスポーツは動きながらの競技ですが、ゴルフの場合は静から動。
さらに、1ラウンドにかかるおよそ4時間強のうち、考えている時間がほとんどです。
そのとき、次のショットのことやプレーの組み立て、コース攻略やゲームプランについて考えています。
ひたすら考え続けるという意味で、ゴルフは頭を使うとも言われます。
体を動かしていれば、少しは気も紛れるものの、動かずにいるといろいろ考えてしまい、なぜかネガティブな発想になってくる人もいるかと思います。
また、ゴルフは他人のプレーにはお互い干渉しません。
自分がティーショットを打つことで始まり、最後のパットを沈めることでゲームが終わる。
そして審判も自分。
考え込むのも無理はありません。
そういう特質こそが、ゴルフが他のスポーツに比べて、メンタルの影響がより大きいと言われる点でしょう。
スポーツに限らず普段の生活や仕事の場面でも、他人の目や評判が気になることがあると思います。
そこで考えてみると、一般にメンタルが弱いと言われるのは、他人の視線が気になるということなのではないでしょうか。
人間ですから、誰だって人からよく思われたい、嫌われたくないという気持ちはあるかと思います。
変な目で見られて恥ずかしい思いもしたくない、だから失敗はしたくない。
そういう気持ちがあればあるほど、もし失敗したらどうしようという嫌な予感が湧いてくるのかもしれません。
そして、その予感どおりの失敗をしてしまう……、これが最悪のシナリオなのでしょうね。
ところで、わたしはミステリー小説がベストセラーになったりすると、じっくり読んで楽しみたいというよりも、先にあらすじや犯人が誰かを教えてもらいたくなるタイプなのです。
時間をかけて謎解きに取り組むのではなくて早く答えが知りたい。
プロセスを味わい楽しむのが本来の読み方かもしれませんが、そのあたりがメンタルの課題の克服というのに通じるような気がします。
悩みを誰かに相談するのもいい。
専門家に話を聞いてもらいアドバイスを受ける。
ですが、そうした助言や診断のなかに明快な答えがあるかというとどうでしょうか。
メンタル面での悩みといっても、その内容は人によってさまざまです。
集中できない、ピンチになると緊張してしまう、目の前の池に動揺してしまう……。
その対処法を人に聞いても、自分がやるべきことをイメージできないことも悩みのタネでしょう。
結論から先に言うと、メンタル面の課題の対処法は自分自身で学ぶしかありません。
そのためには、アドバイスで提案された練習法や考え方の転換を、その理由をあれこれ考えずとにかく実際に試してみること。
5人の人に助言された方法を5通り、体を使って試してみること。
その繰り返しが、答えにつながる経験を積むことになるのではないかしら。
前を向いて行動すること。
まず肉体を動かさない限り、解決に向けた課題も悩みも出てこない。
口では何とでも言えますが、体はごまかせない。
わたしは、そう思うのです。
スポーツは実生活と違って、勝負という形で結果が出ます。
結果がハッキリしているだけに目先の答えが欲しくなる。
でも、そんな便利な回答はありません。
古典的ですが、メンタルに強くなるおまじないとして「人という字を手のひらに書いてのみ込む」というのがありますね。
でも、もともとおまじないが効いたとしても時がたてば色あせるもの。
現象に対して、前を向いて向き合うことが一番の解決法なのではないでしょうか。
「メンタルを強化したいのであればボールを打つのと同様に日々の積み上げが大切です」(PHOTO by AYAKO OKAMOTO)
週刊ゴルフダイジェスト2023年12月5日号より
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