【林家正蔵の曇りのち晴れ】Vol.294「猛暑日のゴルフの巻」
近頃の夏は暑くなりましたよね。普段生活をしていても汗が止まらなくなるくらいの猛暑日が続いています。特にゴルフ場は照り返しも強いのでそれ以上の暑さを感じてしまいます。でもやっぱりラウンドをしたくなるのがゴルファーの性。皆さんもラウンドするときは十分熱中症には気を付けてくださいね。
友人の還暦ゴルフは猛暑日に?
群馬県の館林の某ゴルフ場は灼熱地獄のありさまであった。その日はいつも見ているワイドショーの天気予報のお兄さんが体調を崩して急遽、若い女性の予報士がピンチヒッターで天気を伝えるほどの猛暑日、いや酷暑日であった。午前5時半過ぎにはすでに東京都心の気温は30度を少し超えていた。
この日は、半年前からいつものメンバーで友人の60歳、つまり還暦祝いのコンペで赤いポロシャツ、パンツ、靴下、シューズと赤い服装でそろえる予定になっている。そして赤いゴルフボールに友人の名と60という数字までプリントしたプレゼントを準備万端に整えてワイワイと祝いながらみんなでゴルフを満喫する予定だった。
ところが想定をはるかに超える気温の上昇。しかもよりによって暑いと有名な群馬の館林である。断っておくがコンペを執り行うコースはレイアウトもアクセスも実によく、すばらしいゴルフ場なのだが、いかんせん予想最高気温が37度となっている。
お天気キャスターは声を張り上げて「こまめな水分補給をお願いします」と言った後、一調子さらに張り上げて「不要不急の外出はお控えください!」とコメントを締めくくった。すると携帯がピロピロと鳴り出した。友人のしゃがれた声で「どーするよ。37度だってよ。さすがに暑すぎないか」。少し間があって「今日の主役はさぁー、一度高血圧と心臓でひっくり返っているよなー。マジでやべーよ」。またしばらく沈黙。「でもあいつ、行く気満々でコースに向かっているらしいぜ」。また沈黙が入る。「じゃあお前いつもの交差点で拾うから6時に立ってて」とまた沈黙。「この暑さ、本当にやべーぜ」と言って電話は切れた。
キャンセル続きで人数は当初の半分に
私を拾ってくれた友人のクラウンは平日の早朝の高速をスイスイと群馬の館林に向かって進む。その間に私の携帯には幾度となく着信の嵐が……。コンペは4組であったが「今日はちょっと体調が悪くて」が3件。「こんな暑さじゃ体がもたない」が1件。「ごめん」が1件。「家内に止められて」が1件。「犬の具合が急に悪くなって」が1件。「親戚のおじさんがさっき亡くなって」が1件。これは多分嘘。それが証拠に今までこいつは急に都合が悪くなると親戚のおじさんかおばさんが亡くなる。20年以上の付き合いで50人以上の親戚を亡くしているのだ。
何日か経ってこの間はご愁傷様でしたとお悔やみを申し上げると、やつは狐にでもつままれたように「え? 何のこと?」とほざいていた。ということで半分以上がキャンセルとなった。
車は埼玉県内へと入ったのでコースに電話してその趣旨を伝えるとコースの対応がとても親切でとてもやさしく「ご連絡ありがとうございます。承りました。どうぞお気をつけていらっしゃいませ」と大人の受け答えには頭が下がった。
友人の素早い行動でキャディを助ける
さて、コースに着くと事前に送っていたプレゼント用の赤いポロシャツ、赤いキャップ、赤いスラックス、赤いベルト、赤いソックスに赤いシューズで本日の主役が私たちを出迎えてくれた。その友人は、とても太っている。だから37度を超える猛暑日には全身真っ赤な肥満体形は見た目にも暑苦しかった「いやーお前たちありがとう。待っていたよ。今日という日を」。それでも嬉しそうにニコニコしている友人を見るだけでこちらもとてもハッピーな気分になる。
スタート前にみんなで記念写真を撮り、ティーイングエリアには真っ赤なアザラシのような主役が本日の1発目。ナイスショットと脂肪の下には、インターハイのやり投げで全国3位にまで入賞した筋肉が隠されている。キャディさんの目測では300ヤードくらい。多分甘めな発言。280ヤードぐらいでしょう。それでもナイスショットだ。
前半の残り3ホールのグリーン上は、まさにフライパンの上のような暑さだ。汗は止まることを知らず、水分補給をすると同時に発汗されていくようだ。するとキャディさんが突然、バタンとグリーン上で倒れた。人が倒れることに慣れていないので立ちすくむことしかできない。すると真っ赤なアザラシの友人がとても機敏に動いた。まずはキャディさんの様子をチェックし、木陰へと運び、水で濡らしたタオルで冷やし、私にフロントに電話してと頼む。私はすかさずスタッフと連絡を取り、キャディさんは事なきを得た。
私たちも前半の途中で切り上げ、コースを後にした。後日そのコースから彼のもとに真っ赤なバラが6本とコースのグッズがキャディさんのメッセージとともに届いたらしい。
とにもかくにもゴルファーの皆さん、くれぐれも猛暑には十分気を付けてゴルフを楽しんでください。
友人の 還暦ゴルフで ひと悶着
月刊ゴルフダイジェスト2023年10月号より