【ゴルフ野性塾】Vol.1792「女房殿の献身に感動する日々」
古閑美保、上田桃子など数多くの名選手を輩出してきた坂田塾・塾長の坂田信弘が、読者の悩みに独自の視点から答える。
野性塾大濠公園
18人衆の集う
場所が変った。
週に一度の集い、今迄は雨降っても寒くっても暑くっても大濠公園内スターバックスの屋根付きの屋外テラスだった。
しかし、梅雨明け直前から屋外の暑さ強まり、日射し避けてもその暑さ、苦痛になって来た。
私の提案だった。
冷房の効いた部屋にしようじゃないか、と申し入れた。
彼等は賛成した。
集う中で以前から寒い日と暑い日の私の体調を考え、心配していたが言い出せないでいたらしい。一番の年長者は私だ。
大濠公園より福岡都心に近い赤坂門バス停近くのホテルへと集いの場は変った。
その最初の集いが昨日7月25日だった。
「天国だな。いつも冷房の効いた赤坂けやき通りの15階にいるが、冷房の強さが違う。
夏はデパートとパチンコ店とタクシーの中が冷房の恩恵を最も強く受ける快適空間と教える人がいた。しかし、ホテルの部屋もまた快適じゃある。
部屋代1000円高くってもこの涼しさは天国だ。有難い」
食堂の個室を1時間借り切っての集いだった。
でも、飲み物19人分払っただけで部屋代は無料とゆう寛大さだった。
「ホテルも使い様によっては足を向ける事の出来ぬ施設だな。熱中症になってからでは遅いが、気配在りの時ならホテルに入ってコーヒーショップか食堂で冷たい水貰えば助かる。水とアイスコーヒー飲んで一息つきゃ体調回復だ。75歳過ぎて76歳へ向う途中、あと3カ月で76歳へ達する我が身にとって福岡市内のホテル位置、確認しとくのも必要の様な気はする。我慢は要らん。無理はもっと駄目だ。人間、年取れば図々しく生きるも一つの知恵だな」
「そうです。無理しないで下さい。それよりも昨日も400球打たれたのですか?」
「400球打つのは普通になって来た。この一週間は平日450球打っている。土日祭日は300球だ。午後7時過ぎに練習場に入り、9時半迄、早打ちで450球打つ。土日祭日は練習場の終業時間が平日よりも1時間早い9時なので300球打つ。打たなきゃ一日が物足りなく思えて来て打つ様になって来た。考え考えて打つのではなく、フィニッシュに移行した瞬間にスウィングの善し悪し、ミスの出た原因を直感で見つける打ちのリズムの早打ちだ。持つクラブは練習場通いを始めた2月から変ってはいない。ユーティリティ3番、6アイアン、9アイアン、そしてロフト50度のアプローチウェッジ。球数多いのはユーティリティと6アイアンと9アイアン。ロフト50度は練習始めに30球打つだけだ。そして練習の終りは6アイアンで終らす。やっぱり、今日の自信、明日の活力となるのでな」
一番大事な練習は己の工夫
「坂田プロ、その自信です。部下の態度が変りました」
「どう変った?」
「坂田プロに教わった説教とレッスンは3分。それ以上の時間は必要なしの教えを実践してみました」
「そうか。早いな。それでどうなった?」
「彼等の集中力が変りました。態度も理解度もです。最初に眼の強さが強まり、聞く姿勢、背筋を伸ばして来たと感じました。説教受ける時、指導受ける時、背が丸まっていては逃すもの多いと思います。私達も教え受ける時の姿勢、正さなきゃいけないと話し合ったばかりです」
「どこで話し合った?」
「ここで集合する10分前です」
「一人が感じたものを皆で共有か。賢い変化じゃある」
「今迄、何をやって来たんだろうとの反省はあります。己の説教に酔ったつもりはありませんが、酔いの説教、受けた経験は持っています。3分の教え、有難かったです」
「3分以上の説教には受ける側に退屈と振りが生じる。聞いている振り、反省している振りの二つだ。3分であれば必死で聞く。己の得になるからな。ゴルフ指導然り。30分、教わってみろ。最初に何を教わったのか、忘れている。出来てもいない。次から次の指導の投げ入れは駄目なのだ。自分で工夫する時間を失くさせてしまうからな。工夫は自分でやって貰わなきゃいかんのだ。教わった理論と実践方法、それに己の工夫在りて稽古事、修行事、鍛錬事は高さを生んで行くと思う。その一番大事な己の工夫を取り上げたんじゃ何の為の指導か本末転倒になってしまう。一番大切なのは己の工夫。お前達はそこを間違うな。一番間違い易いとこじゃあるが」
「今日のコーヒー、甘いです。身に沁みるコーヒーって甘いんですネ。コーヒーがこれ程、甘いものとは知りませんでした」
「淹れ様だろう。豆の違いもあろう。感動しちゃいかん。人間には慣れとゆうものがある。この慣れ、己の味方にもなれば足を引っ張る厄介者にもなるぞ。冷静、そして分析力を正しく使う沈着さがあれば感動と出会う機会、多くはない筈だ。我が子を見よ。子の成長と女房殿の献身に感動すれば、我が子を殺す様な馬鹿親にはならんと思うがな。感動は身近に在りと思え。一番大事な事だ」
「心しておきます」
18人の中で一番年長の者だった。年長を敬い、若き者が一言の言葉、控えるはいい事だ。
爽やかである。
人の世、何事に於ても爽やかさ漂えば我慢も苦痛とはならぬと思う。
我慢は我慢であればいい。
現在時7月26日、午前7時35分。
昨日、長男雅樹がアメリカ東海岸へと移動した。
仕事の渡米であるが、25日昼、大手前大学ゴルフ部の仕事を終えて新幹線で品川へ向い、品川から京浜急行で羽田へと移動した。
デルタ航空18時30分の便に乗る予定だったが、その便、オーバーブッキングで21時丁度の便に乗ってくれないかとカウンターで頼まれたらしい。
急ぐ移動ではないと雅樹は受け入れた。
羽田空港内レストランで使える2000円の食券が便変更搭乗のお礼だった。
搭乗前、電話が入った。
「使ったのか? 2000円の食券」
「うどん食った。トッピングしたけど意外と安くって、アイスコーヒー飲んで200円余ったよ」
「俺も今日、ホテルのアイスコーヒー飲んだけど旨かったぞ。帰国したら連れてってやろう。それじゃあ2週間後」
「行ってくる。お父さんも無理しちゃ駄目だよ。75歳の450球、結構、きつい練習と思うからさ」
300球迄は休みなしで打って来たが、暑さ強まりし日々、100球打って一度の休みで打ち始めました。
飲むペットボトルのお茶は3本。
15階から眺める福岡市の東の空は霞がかりの空。
今日も暑そうだ。
「研修生時代の練習量は多かったと聞いてますけど、プロになってからの練習量と現在の練習場の練習量、今の方が多いんじゃないの? 75歳になってやっとプロゴルファーになったのかしら。三日坊主もなさそうだし、皆勤賞あげましょうか?」
イヤ味な女だ。
女房稼業、47年続けると怖いもの無くなって来るのかな。
今日は何を洗濯するつもりだ。
干して2時間で洗濯物乾く7月26日の空。
体調良好です。
坂田信弘
昭和22年熊本生まれ。京大中退。50年プロ合格
週刊ゴルフダイジェスト2023年8月15日号より