【ゴルフはつづくよどこまでも】Vol.140 「道具の進化と人間の“味”」
高松志門の一番弟子として、感性を重んじるゴルフで長く活躍を続ける奥田靖己。今週もゴルフの奥深い世界へと足を踏み入れていく。
PHOTO/Masaaki Nishimoto
100年前は、クラブのシャフトはヒッコリー(クルミ科の樹木)でした。今の最新技術と素材で作られたクラブに馴れたゴルファーがヒッコリーのクラブを打ったら、むちゃくちゃ難しいです。飛ばんしね。それを昔の人は技術を磨き、技を駆使して球を打っていたわけです。
もちろん、だからといって昔のゴルファーのほうが上手かった、今のゴルファーは下手やと言うてるわけではありません。時代が違うわけですからね。
ただ、今の時代は道具がすごく進化して楽になっていることは確かですね。
たとえばドライブアシスト(自動運転)なんかは、テクノロジーによって車の性能と安全性はアップしたものの、でもそれで自分の運転技術が上がるわけやない。逆にどんどん退化していくわけですよ。
ゴルフクラブもひと昔前に比べて格段に飛ぶようになったし、曲がらんようになった。アイアンなんかも硬いグリーン上で球を止めるとか、そういったことが昔の道具よりはるかにやりやすくなっている。
それはクラブの性能がアップしたことなのか、ゴルファーの技術がアップしたのかいうと、クラブの性能アップが占める割合が多いような気はします。
ただゴルフの場合は、今度は曲がりにくいクラブでどれだけ曲げられるかといった新しい挑戦が生まれるわけなので、運転技術のように退化しているのではないんです。
AIによる自動文書作成なんかも相当進んどって、一般的によいとされる文章や論文まで書けてしまうそうですが、たとえば、めっちゃおもろいオチなんかは人間が考えなあかんのと違いますかね。あと文章の“粋”とか“味”みたいなもんも、そこはAIより人間の出番でしょう。
ゴルフでもボールをどう止めるかいうところは、クラブではなく人間の技術が試される部分です。たとえば、球を殺して止めるいうのがありますが、これは球を生かすことができるやつが、球を殺すこともできるわけで、殺すにはスピードが要るんです。要するに速く振って飛ばさない技術で、文章でいえば粋や味の部分。ゴルファーの腕の見せ所の一つですわ。
「球を殺して止める技術は、ゴルファーの腕の見せ所ですわ」
奥田靖己
おくだせいき。1960年、大阪生まれ。93年日本オープンなど6勝。シニアで2勝。ゴルフの侘び寂び、温故知新を追求する
週刊ゴルフダイジェスト2023年8月8日号より